天空と炎を司る神
「なぁ。運命の女神」
ヴァイオレットはその後に続く言葉に身構える。
太陽と嵐を司る神と海と風を司る神に続いて、まさか天空と炎を司る神まで同じ言葉を言うわけないよな、と思いつつ、言いそうだなと、目の前の神の期待した顔を見るなり、この一カ月も最悪になる予感しかしなかった。
「一緒に食事をしないか」
「しません」
ヴァイオレットは「食事」という言葉を聞くなり被せるように言って、その場を離れた。
まさかの拒絶に天空と炎を司る神は唖然とするも、すぐに我に返りヴァイオレットの傍に駆け寄った。
「なぜだ?」
天空と炎を司る神は心底不思議そうな顔をして尋ねる。
「仕事があるからです」
「なら、終わったらしてくれるか」
今度は少年のような笑顔を浮かべる。
「いえ。しません」
ヴァイオレットは花の手入れをしながら返事をする。
「どうしてだ?」
「する必要がないからです」
「食事が嫌いなのか。なら、お茶はどうだ?」
「おひとりでどうぞ」
花の手入れが終わると、ヴィオレットはその場を離れる。
天空と炎を司る神も同じようについてくる。
「なら、なになら一緒にしてくれるのだ?」
ヴァイオレットはここではっきり言わないと、前の二神みたいになると思い、足を止めて天空と炎を司る神の目をしっかりと見てこう言った。
「何もしません。私は自分の役目を果たすことに精一杯なのです。ですからあなたも自分の役目を果たすことだけ考えてください」
ヴァイオレットは言いたいことを言うと、その場に天空と炎を司る神を置いて神殿へと戻った。
「……」
天空と炎を司る神は生まれて初めて女神から拒絶だけでなく怒られた。
胸がざわざわと気持ち悪いような気持ちいいような感覚に襲われる。
心臓が早鐘を打つ。
汚れたものと戦っているときでさえ、こんなに心臓が早く動くことはなかった。
天空と炎を司る神は運命の女神といれば自分の知らない感情をもっとたくさん知ることができる、と、確信した。
他の女神からは感じることのできない感情。
この正体を今すぐ知りたいが、それよりも今は運命の女神の隣に立っていたいと強く思った。
天空と炎を司る神は自然と声が出た。笑みがこぼれた。
完全無欠である神である自分に知らない感情を与える女神。
この女神の傍から自分は一生離れられないだろうな、と、そんな予感を天空と炎を司る神は感じた。
「護衛を置いていくなんて酷くないか」
護衛の回数を重ねるごとに、時が経つのがあっという間に感じる。
「なぁ。もう護衛ずっと俺でよくないか?」
天空と炎を司る神は帰る時間になっても、天花園から出ようとしなかった。
ヴィオレットは天空と炎を司る神の重い背中を押しながら、正門まで連れて行った。
子供の用に駄々をこねたが、最終的に自身の神殿へと帰ってくれたので、ヴァイオレットは酷い疲労感に襲われながら深く息を吐いた。
神は疲労感を感じないはずなのに、感じさせるなんて恐ろしい神だわ、と、思いながらヴァイオレットは残りの仕事にとりかかった。
「ジェンシャン様。帰りが遅いので心配しました」
ジェンシャンの姿を見るなり、女神たちは一斉に押し寄せてくる。
二つしかないジェンシャンの腕を取ろうと女神たちは熾烈な争いをする。
だが、今日はジェンシャンが腕を組んでいたため争いは起きなかった。
女神たちが近づいてもジェンシャンはなかなか気づかなかった。
神殿につくころにようやくジェンシャンは女神たちの存在に気づいた。
「ん?いつからここで待っていたんだ?」
ジェンシャンは女神たちが自身の神殿で帰りを待っていたと誤解した。
女神たちは内心戸惑いはしたが、顔には出さずにいた。
「ジェンシャン様。今回もお勤めご苦労様でした」
女神の一人がジェンシャンの腕に抱きついた。
「ああ。ありがとうな」
ジェンシャンは女神の頭を撫でる。
撫でられた女神は幸せそうに笑い、それを面白く思わない女神たちは自分も撫でて欲しいと頼んだ。
ジェンシャンは女神たちの表情から、運命の女神も頭を撫でれば喜んでくれるのでは、と想像し、次の護衛のときにはそうしようと決めた。




