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神ゲーのヒロインになりました  作者: 若狭巴


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16/18

月と死を司る神

ヴァイオレットは月と死を司る神が来るなり警戒した。


この神もあの三神のように変なことを言い出すのではないかと。


その予想は当たり、彼もまたヴァイオレットを食事に誘った。


「運命の女神よ」


ヴァイオレットは名を呼ばれた瞬間、身構えた。


「私と食事をしないか」


「しません。おひとりでしてください」


ヴァイオレットはそう言うと月と死を司る神を置いて、早足に歩いた。


他の三神と違い、月と死を司る神はそれ以上何も言わず、ただ前より距離を置いてヴァイオレットを護衛した。


よくわからないが、放っておいてくれるのなら有難いとヴァイオレットは自分の仕事に没頭した。


月と死を司る神がいることを忘れて。


久しぶりに前のよう日常を過ごせたヴァイオレットは残りの二週間もそうだったらいいのにと思った矢先、天花園に訪問者が訪れた。


基本ここには時の神とその遣いの者しか訪れない。


時の神から伝言だろうと、遣いのものに会おうとしたら月と死を司る神に強い力で腕を掴まれた。


「なにか?」


ヴァイオレットは月と死を司る神の行動がわからず問いかける。


護衛についてから初めて訪れる訪問者に警戒しているのかと思い「大丈夫だ」と伝えるが、手を放してくれる気配はない。


しばらくして掴まれていた腕は自由になったが、正門に近づくことは許されなかった。


「私が出よう」


ヴァイオレットが何か言う前に早々に正門へと向かった。


ヴァイオレットは月と死を司る神の行動に呆気にとられるも、すぐにその後を追った。


「誰だ」


月と死を司る神の行動は正門を開けると、遣いのものに話しかけた。


本人は普通に接したつもりだろうが、遣いの者は自分よりはるかに背の高い神に見下ろされながら言われ、威圧的に感じ、足が小鹿みたいにプルプルと震えた。


「あ、あ、私は、時の、神様の、遣いで運、命の女神に、会いにき、ました」


月と死を司る神の行動は子供の姿の天使が自分を恐れているとわかるや否や一歩後ろに下がった。


「時の神の遣いか」


月と死を司る神はその遣いのものが嘘を言ってないと判断すると、体を横にずらし運命の女神が見えるようにした。


「運命の女神様!」


子供の天使はヴァイオレットを見るなり、嬉しそうに名を呼んだ。


いつもはこんな風に大きな声で名を呼ぶことはないが、月と死を司る神があまりにも恐ろしく感じ、ヴァイオレットを見るなり安心してしまったのだ。


「ヴューネ。久しぶりね。元気にしていた?」


ヴァイオレットはヴューネの愛らしい姿につられて、いつもは変わらない表情がほんの少しだけ口角があがった。


月と死を司る神はそんなほんの少しの変化を真横で見て、目を見開いた。


この女神も表情を変えることがあるのかと。


真横ではなく真正面でその表情を見たいと思った。


いつか自分にもそんな表情を向けてくれるだろうかと渇望した。


ヴァイオレットはヴューネを天花園に入れると神殿へと向かい、時の神からの伝言を聞いた。


「それで、時の神は私になんの伝言をしたの」


ヴァイオレットは無意識だが、ヴューネにはいつもよりほんの少しだけ柔らかい口調で問いかけた。


「あ、そのことなんですが、自分の神殿に今すぐ来て欲しいとのことです」


「神殿に?」


時の神の神殿を知るものは創造神だけ。ヴァイオレットもその場所は知らない。


「私は時の神の神殿の場所なんて知らないわよ」


ヴァイオレットは時の神の神殿になんて行けないと伝えると、ヴューネの反応が露骨に変わった。


「なんだ。お前は知らないのか」


愛らしい目は鋭くなり、白い翼は燃えて消えていく。


ヴァイオレットはヴューネの変わっていく姿に驚いて、その場に固まってしまう。


月と死を司る神はヴューネの目つきが変わった瞬間にヴァイオレットを守るように背中に隠し、攻撃をしようと力を手に集中させるが「駄目!」と後ろから腕を掴まれた。


力を少し込めて動かせば、簡単に振り払えそうなほど弱い力に戸惑ってしまい、ヴューネに攻撃を許してしまう。


だが、所詮天使の力。


月と死を司る神に傷一つ与えることなどできない、ちっぽけな力だ。


ヴァイオレットはこの状況を受け入れることができず、拒絶してしまう。


ヴューネは時の神の遣いで来るだけの関係だ。


それでも普段誰とも話すことのないヴァイオレットにとって彼は唯一誰かと話す楽しさを教えてくれた存在だ。


月と死を司る神が攻撃したら消滅する。


それをさせないために、ヴァイオレットは必死に月と死を司る神の腕を掴むことしかできなかった。


そんなヴァイオレットの心情を察してか「大丈夫だ。拘束するだけだ」と月と死を司る神は優しく諭すように言った。


「本当?」


ヴァイオレットは縋るような目つきで月と死を司る神を見上げた。


「あぁ」


ヴァイオレットは闇のように真っ黒な目をした紫の目を見た後、ゆっくりと手を離した。


ヴァイオレットの手が離れるや否や月と死を司る神はヴューネを一瞬で拘束し、力を奪った。


拘束されたことでヴューネは力が使えなくなり、手足をジタバタさせることしかできなかった。


「ヴューネ」


ヴァイオレットは弱弱しく拘束されたヴューネを見る。


気配も力も間違いなくヴューネのものなのに、ヴァイオレットが知っている彼は既にこの世には存在しなくなったのだと確信した。


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