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2O・3O(仮)  作者: 夜何時
第五章
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第四十七話 神の逃亡

 卯月は右手を前へ突き出すと白い冷気が溢れ出す。


「要するに――」


 足元が凍り始める。


「こいつを倒せばいいんでしょ!」


「随分と威勢がいいな」


 フミが笑う。


「嫌いではないぞ?」


「そりゃどうも!」


 卯月が右手を地面へ叩きつけた。


「凍れ!!」


 瞬間、氷が一直線にフミに向かって駆け抜ける。


「ほう」


 フミが横へ跳ぶと先ほどまで立っていた場所が完全に凍結した。


「甲斐田さん!」


「分かってる!」


 甲斐田は爆弾を生成しながらすでに動いていた。


 卯月が作り出した氷の横を走りながら、フミへ接近する。


「これなら!」


 爆弾を投げるが、


「甘い」


 フミが手を振ると見えない力が働く。


「うわっ!」


 甲斐田の身体が押し戻され爆弾が空中で軌道を変える。


「まずっ――」


 空中で爆発して教室が揺れる。


「甲斐田さん!」


「大丈夫!」


 煙の中から甲斐田が飛び出す。


「さすがに神……普通には当たってくれないね!」


「だったら当たるようにすればいい」


 卯月が再び右手を構える。


「コウ?」


「俺が凍らせます」


「……なるほど」


 甲斐田が笑う。


「簡単に言うねぇ」


 フミが二人を見る。


「お前ら」


 その目が僅かに細くなる。


「神の力を恐れないのか?」


 卯月は即答した。


「怖ぇよ。けど、神だからってこっちの仲間ボコボコにしていい理由にはならないでしょ」


「……ほう」


 フミが僅かに笑った。


「言うではないか」


 フミが指を動かす。


「――ッ!」


 卯月は反射的に候補へ飛ぶと先ほどまでいた場所へ、目に見えない力が叩きつけられ床に亀裂が走る。


「怖っ!」


「コウ、止まらないで!」


「はい!」


 卯月が走って教室を次々と凍結させていく。


「む?」


 フミは卯月へ猛攻を仕掛けていたものの急に回避に勤め始めた。


「……甲斐田さん」


「うん」


 甲斐田も気づいた。


「神でも凍るのは嫌か」


 フミが後ろへ跳ぶも足元を氷が追いかける。


「厄介な能力じゃな……!」


 神であるフミは本来ならば卯月と甲斐田の二人だけで相手取れるような存在ではない。


 しかし現在、三人の身体を同時に拘束している。


 いくら神とはいえ三人を無力化した状態を維持しながら、さらに二人を相手にすることは決して容易なことではなかった。


「そこ!」


 卯月が右手を振ると氷の壁が発生してフミの逃げ道を一つ塞ぐ。


「小癪な!」


「褒め言葉ってことで!」


「次はこっち!」


 爆弾がフミの前方で爆発する。


 フミはギリギリで躱すものの。


「チェックメイト!」


 卯月が手を地面につけていた。


「――!」


 フミの足元が凍結し、その氷は瞬く間に両足へ絡みついた。


「よし、甲斐田さん!」


「ナイス!」


 甲斐田はすでに爆弾を構えていた。


「これなら避けられない!」


 甲斐田が投げた爆弾が一直線にフミへ飛ぶ。


「……っ!」


 流石のフミの顔からも余裕が消えた。


「この程度で!」


 フミが強引に足を動かすと氷に亀裂が入る。


「嘘でしょ!?」


 爆弾が迫る中フミは氷ごと床を蹴り上げる、その先には窓があった。


「まさか!」


 氷がガラスを突き破りそのままフミは教室の外へ飛び出した。


「逃げた!?」


 卯月が窓へ駆け寄る。


 フミは落ちておらず空中に浮いていた。


「飛べんの!?」


「神だからな」


「何でもありかよ!」


 その時。


「……あ」


 リゼが声を漏らした。


「動ける……!」


「私も!」


 アンジュも身体を動かす。


 相羽も立ち上がった。


「おー! 治った!」


 フミとの距離が離れたことで、三人への拘束が解除されたのだ。


「これなら!」


 相羽が拳を握る。


「今度は五人で行けるよ!」


「さっきの借り返さないとね!」


 アンジュが壁へ手を触れる。


 リゼもヘルエスタセイバーを構えた。


「コウ!」


「はい!」


 五人で今度こそ神を相手取る。


 そう思ったその時だった。


「…………」


 空中にいたフミが。


 突然、動きを止めた。


「……?」


 卯月が首を傾げる。


「なんだ?」


 フミは五人のことを一切見ておらず視線は学院の外にあった。


「…………」


 顔色がみるみる内に悪くなっていた。


「……嘘だ」


 小さくフミが呟く。


「ん、なに?」


 相羽が聞き返す。


 フミの視線の先、学院の門付近で戦っている相羽隊がいた。


「なんで……」


 フミの顔が引きつる。


「なんでここにいるんだ!」


「……?」


 リゼたちには聞こえない声でフミがブツブツと呟く。


「まさか……いや、そっか……」


 先ほどまでの神々しい姿は無く明らかに動揺している。


 その様子を見て卯月が右手を構える。


「来ないならこっちから行くけど」


「…………」


 フミが卯月を見て、続いて学院の外を見る。


「…………帰る」


「……は?」


 卯月が固まった。


「帰る」


「いや待って」


「さらばだ!」


「ちょっと待てぇ!」


 フミは踵を返す。


「待ちなさい!」


 リゼも叫ぶ。


「逃げる気!?」


「逃げるのではない!」


 フミが叫ぶ。


「戦略的撤退じゃ!」


「それ逃げるって言うんだよ!」


「うるさい!」


 そのままフミは学院から離れていく。


 向かう先は遠くに見える山。


「…………」


 五人は呆然と見送った。


「何だったの……?」


 アンジュが呟く。


「分かりません……」


 リゼも剣を下ろす。


「勝った?」


 相羽が首を傾げる。


「……勝ったってことでよくない?」


 卯月が答える。


「絶対違うと思います」


「だよね」


 何故フミが突然撤退したのか全く分からなかった。


 しかし、一つだけ分かることがある。


「……とりあえず」


 甲斐田が窓から外を見るとまだ大量のクヲンがいる。


「外、手伝おうか」


「ですね」


 卯月が右手を鳴らした。



 それから学院周辺に集まっていたクヲンの殲滅に、それほど時間はかからなかった。


「氷結!」


 卯月の氷がクヲンの足を止める。


「長尾!」


「任せろ」


 長尾の刀が走りクヲンが切り裂かれる。


 別方向、数体が弦月へ迫ると音が響きクヲンの動きが止まった。


「今!」


「はぁっ!」


 リゼのヘルエスタセイバーが一体を斬り伏せる。


 アンジュが地面へ手を触れる。


「錬金!」


 地面が隆起し無数の槍へと姿を変え、クヲンを貫く。


「ラスト一体!」


 相羽がクヲンへ渾身の一撃を叩きこむとその身体が吹き飛び、動かなくなった。


「…………」


 卯月が周囲を見る。


「……終わった?」


「終わったね」


 甲斐田が答える。


「よっしゃぁぁ!」


 卯月がその場へ座り込んだ。


「疲れたぁ……」


「新人の初任務としては濃すぎるね」


「俺、初任務で神と戦うなんて思っても無かったわ」


「私たちも聞いてないよ!」


 リゼが言う。


「ボコボコにされたしね」


 アンジュが付け足す。


「言わんでいい」


 そんな会話をしながら相羽隊は学院内を確認する。


 幸い大きな人的被害はなく、全生徒たちの安全も確認できた。


 ようやく本当に一息つける。


「シェリンさん」


 甲斐田が声をかける。


「今回はありがとうございました」


「いえいえ!」


 シェリンが胸を張る。


「名探偵として当然のことをしたまでです!!」


「耳痛い……」


「コウ君、最後まで慣れないな」


 アンジュが苦笑する。


「ところで」


 シェリンが山の方向を見る。


「先ほどの女性は、あちらへ向かいましたね?」


「そうですね」


 リゼも視線を向ける。


 フミが飛び去った方向に学院から少し離れた山がある。


「何かあるんですか?」


「少々お待ちを!」


 シェリンが端末を取り出す。


「確かこの周辺の地図に……」


 少し操作して。


「あった!」


 全員が画面を見る。


「神社?」


 卯月が呟く。


 山の中の地図に小さく神社を示す記号がある。


「名前は?」


「特には……書いてないですね」


 シェリンが拡大する。


「少なくとも地図上では名称不明。かなり小規模な神社のようです」


「フミは神って言ってたよね?」


 相羽が言う。


「はい」


 リゼが頷く。


「しかも狐の耳があって、巫女装束のような姿でした」


「……じゃあ」


 甲斐田が山を見る。


「あそこがフミの住処?」


「可能性高そうですね」


 卯月が立ち上がった。


「行くんですか?」


「もちろん!」


 相羽が即答する。


「まだ何も分かってないもん!」


「ですよねぇ……」


 卯月が肩を落とす。


「帰れると思ったのに」


「初任務なんだから最後まで頑張ろう!」


「神と戦った時点で十分頑張ったと思うんだけどなぁ」


 文句を言いつつも卯月も山を見る。


 何故フミは突然逃げたのか謎は残ったままだった。



 同時刻、木々に囲まれる山の中に古びた神社の境内でフミはブツブツ呟きながら歩き回っていた。


「あり得ぬ……タイミングが悪すぎる……」


 右へ左へ動いては愚痴をこぼした。


「聞いておらぬぞ……!」


 先ほどまで相羽隊五人を前にしても余裕を崩さなかった神の姿はもうどこにもなかった。


「エニカラに所属していることは知っていた!」


 フミが頭を抱えながら叫ぶ。


「知ってはいたけど!なんで、長尾があの場にいるんだぁぁ!」


 境内に神の叫びが響き渡った。


「クソ気まずい……!」


 そして誰もいない境内でフミは一人心の底から嫌そうな顔をする。


「あいつは気づかないだろうけどこっちは……」


 フミはこのまま数分間神とは思えない姿を晒すのだった。


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