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2O・3O(仮)  作者: 夜何時
番外編 ep葛葉
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番外編第五話 花の導き

「どこだ……!」


ゲーマーズ本拠地。


普段なら気だるそうに歩いている葛葉が、今は廊下を全力で駆け抜けていた。


「凛月さん……!」


技術開発部から出た際、レオスは『最終調整』と言っていた。


以前盗み聞きした会話を考えれば、その意味は一つしかない。


凛月の力を利用した新兵器の完成が近付いているのだ。


「クソッ……!」


曲がり角を勢いよく曲がる。


思いつく場所を片っ端から探しているが、凛月の姿はどこにもない。


その時。


「あれ?」


前方から聞き慣れた声がした。


「葛葉やん」


椎名唯華と笹木咲だった。


二人は猛然と走ってくる葛葉を見て、揃って目を丸くする。


「なんやなんや。珍しくめっちゃ必死やん」


「葛葉が走ってるわ」


椎名が眠そうな目を少しだけ見開いた。


「何かあったん?」


「別に」


葛葉は足を止めない。


「ちょ、待てって!」


笹木が呼び止める。


「なんか探してるんやろ?」


「……」


「顔ヤバいで」


その言葉に葛葉が一瞬だけ足を止めた。


「……ちょっとな」


「手伝おっか?」


椎名が尋ねるが、


「いい」


それだけ言って、再び走り出した。


「お、おい!」


笹木の声が遠ざかっていく。


「……なんなん、あいつ。気悪いわ」


笹木が眉をひそめる。


椎名も走り去る葛葉の背中を見つめていた。


「葛葉があんな顔するん……初めて見たかも」



「どこだよ……!」


葛葉は走り続ける。


だが本拠地はとても広い、隠し研究施設が一つあったのだ。


他にも知らない区画が存在していてもおかしくない。


「クソ……どうすりゃ……」


その時、曲がり角から一人の少女が現れた。


「きゃっ!」


「うおっ!」


危うくぶつかりそうになり、葛葉が急停止する。


「あぶな……って」


顔を上げると見覚えのある少女がいた。


「あ、ルイス……さん」


「葛葉さん?」


ルイス・キャミーだった。


瞬時に葛葉の中で迷いが生まれた。


凛月のことを話すかどうかだ。


まだ二人が本当に姉妹だと決まったわけじゃないし、しかも相手はゲーマーズの人間。


だが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


「ルイスさん」


葛葉が真剣な表情で彼女を見る。


「……何ですか?」


「この間」


一度だけ息を整える。


「姉ちゃんがいるって言ってたっすよね?」


ルイスの表情が変わった。


「……そうですが?」


「その姉ちゃんの名前、桜凛月じゃねぇか?」


「…………え?」


ルイスの目が見開かれる。


「なんで……なんでその名前知ってるの?」


葛葉は周囲を確認する。


「時間ねぇから簡単に話しますわ」


技術開発部の隠し部屋とそこにいた凛月から聞いた家族の話。


そして、レオスたちが凛月を研究対象として扱っていたこと。今日、別の場所へ移されてしまったこと。


必要なことだけを一気に話した。


「……」


話を聞き終えたルイスは俯いていた。


「おい」


「……お姉ちゃん」


小さな声。


「やっぱり生きてたんだ……」


拳が震えている。


しかし、今は再会を喜んでいる時間すらない。


葛葉はルイスを見る。


「悪いけど、感動すんのは後で。今は探すのが優先っすわ」


「……分かりました」


ルイスが顔を上げるとその瞳から迷いが消えていた。


「探す、私も手伝う」



その頃、本拠地地下。


技術開発部の中でも、ごく一部の人間しか存在を知らない実験区画に桜凛月はいた。


「……」


全身を特殊な拘束具で固定されている。


身体の至るところにコードが接続され、その先には巨大な機械。


規則正しい電子音が響いていた。


「……葛葉さん」


ぽつりと名前を呼ぶがもちろん返答は無い。


目を覚ました時には、ここにいた。


研究員からは、治療の最終段階と説明された。


だから全く怖くはないしこれが終われば家族のところへ帰れるかもしれない。


そう思っていた。


でも。


「……もう、会えないのかな」


胸が痛かった。


葛葉が毎日来てどうでもいい話をして笑わせてくれた、外の話を聞かせてくれた。


研究員以外とまともに話すことのなかった凛月にとって、あの時間はいつの間にか一日の中で最も楽しみなものになっていた。


「ちゃんと……お別れくらい言いたかったな」


その瞬間、彼女の胸の奥で何かが弾けた。


「……え?」


凛月の身体が淡い光に包まれる。


同時にどこからともなく桜の花びらが現れた。


大量の花びらが実験室を舞い始める。


「なに……これ……」


最初は病気の悪化かと勘繰ったがそうではなかった。


そして、それが自分自身の力であることを凛月はまだ知らない。


葛葉にもう一度会いたいという想いに呼応するように、桜が舞う。


ライバースキル『満開』


桜の花を生み出し、自在に操る力。


花びらは凛月の周囲を旋回する。


拘束を破壊するほどの力は、まだないが凛月は直感的に理解した。


「もしかして……私の言うこと聞いてくれるの?」


花びらが揺れる。


「だったら」


凛月は目を閉じる。


「葛葉さんに届いて!」



「怪盗道具」


ルイスが手をかざす。


その手の中に、四枚のプロペラを備えたミニドローンが創られた。


彼女のライバ―スキルだ。


「小型探索ドローン。監視カメラの死角とか、細い通路も探せるから」


「便利っすねその能力」


「怪盗だからね」


「ちょっと意味わかんないっす」


複数のドローンが廊下へ散っていく。


葛葉とルイスも手分けして探していた。


「……ん?」


葛葉が何かに気づいて足を止める。


ポケットの中で何かが動いたから取り出すとあの日拾った桜の花びらだった。


「なんだ?」


花びらが、ふわりと浮いた。


「これ……」


花びらはひとりでに動いている。


風などないはずなのに花びらは廊下の奥へ向かって飛んでいく。


葛葉は一瞬だけ呆然としたが、


「……凛月さん」


直感で花びらを追いかけ始めた。


自分が暮らしていた場所のはずなのに通ったことの無い道を走り抜けていくと一枚の巨大な扉の前で花びらが止まった。


葛葉は迷わず扉を蹴り飛ばした。


「凛月さん!」


すると、


「……葛葉、さん?」


凛月はいた。確かにいた、だが。


「……は?」


葛葉の表情が凍り付く。


全身を拘束された凛月の身体には大量のコードと周囲には見たこともない機械で埋め尽くされていた。


透明な容器には、桜色に輝く液体が溜まり始めている。


どう見ても治療などではなかった。


「……何してんだよ」


葛葉の声が低くなる。


「葛葉さん……?」


「待ってろ」


拘束具へ手を伸ばす。


「今助ける」


その瞬間、横からの衝撃で葛葉は吹き飛ばされる。


「ぐっ!?」


「葛葉さん!」


壁へ激突する。


「ってぇ……」


葛葉が顔を上げるとそこにいたのは。


「……猫?」


水色で豆のような身体に猫のような耳の生き物が立っていた。


「なんだこいつ……」


次の瞬間、その生物の右腕が膨張し始めると可愛らしい身体には到底似合わない極太の腕へ変形する。


「気持ち悪!」


巨大な拳が振り下ろされる。


葛葉は横へ跳ぶとさっきまでいた床が砕けた。


この生き物の正体はレオスのライバースキル『まめねこ』


レオス・ヴィンセントが生み出した生物でその身体を自在に変形させることができる。


「邪魔すんな!」


葛葉が血を刃へ変えて斬りつける。


まめねこの腕が完全に吹っ飛んだが、瞬時に形状が変化する。


切断された部分が液体のように繋がっていくのだ。


「再生すんのかよ!」


「グゥゥゥ――!!」


まめねこは唸りながら身体が膨らみさらに巨大化する。


「うるせぇ!」


葛葉が血の弾丸を連射するが巨大化した身体が全て受け止める。


「硬っ……!」


直後、巨大な頭の葉が横薙ぎに振るわれた。


「ぐぁっ!」


再び直撃を食らって葛葉は膝をつく。


「葛葉さん!」


凛月が叫ぶ。


「クソ……」


葛葉が立ち上がろうとするがその目の前まで巨大な拳が迫っていた。


間に合わないと感じたその時。


「お姉ちゃんから離れなさい!」


何かが飛来した。


それはワイヤーだった。


まめねこの腕へ巻き付き、軌道を逸らすと拳が葛葉の真横の床へ突き刺さった。


「ルイスさん!」


「遅くなってごめんなさい!」


ルイスが駆け込んでくる。


そして、凛月を見る。


「……」


時間が止まったようだった。


「……お姉、ちゃん?」


凛月も目を見開く。


「……え?」


恐らく最後に見た時よりも成長した姿だったがそれでも分からないはずがなかった。


「……ルイス?」


その名前を聞いた瞬間、ルイスの目に涙が浮かんだ。


「お姉ちゃん……!」


しかし、巨大なまめねこが二人へ襲い掛かる。


「再会の感動は後だ!」


葛葉が叫ぶ。


「分かってます!」


ルイスが涙を拭うと同時にトランプ銃を創造する。


まめねこの頭を目掛けて連射をすると目に当たったのか痛みでもがき始める。


「今!」


葛葉が踏み込み、血を大量に放出して一本の巨大な刃へ変える。


「邪魔だ!」


一閃。


まめねこの身体が大きく切り裂かれる。


それでもまだ再生しようとするまめねこに。


「させない!」


ルイスが新たな道具を創造。


巨大な捕獲用ネットがまめねこを包む。


身体を変形させようとするが、ネットが締め付ける。


「葛葉さん!」


血の爆弾(ブラッド・ボム)!」


爆発と共にまめねこが壁へ激突し、そのまま動かなくなった。


「……勝った?」


「たぶんな」


二人はすぐ凛月の元へ向かう。


葛葉が拘束具を破壊してルイスがコードを外す。


「大丈夫か?」


「はい……」


力が入らない凛月の身体を葛葉が支える。その目の前にはルイスが立っていた。


「……」


「……」


姉妹が見つめ合う。


「ルイス……」


「お姉ちゃん……」


ルイスが飛び込むと凛月も弱々しく腕を伸ばす。二人は強く抱き締め合った。


「生きてた……!」


「ルイス……大きくなったね」


「ずっと……!こんな組織に入ってまでずっと探してたんだから……!」


泣きじゃくるルイスの頭を、凛月が優しく撫でる。


葛葉は少し離れたところから、その光景を見ていた。


本当に良かったと心からそう思った。しかし、


「いやぁ」


扉が開いて部屋中に拍手が響いた。


三人の表情が変わる。


「感動的ですねぇ」


聞き覚えのある声。


実験室の入口に白衣を着た男が立っている。


レオス・ヴィンセント。


その後ろには二人の少女。


「いやいやいや、待って待って! これどういう状況!? なんかめっちゃドラマ始まってない!?」


状況に追いつけないまま喋り続ける少女と。


「えーっと……」


もう一人、明るい雰囲気の少女が野球ボールを弄びながら前へ出る。


「つまりウチらがあの人達を止めればいい感じ?」


「その認識で問題ありませんよ、鏑木くん。五十嵐くん」


レオスが笑う。


その足元では先ほど倒したはずのまめねこが、ゆっくりと起き上がっていた。


葛葉が舌打ちする。


「やっぱ倒れてねぇのかよ」


ルイスが凛月を庇うように前へ立つ。


「葛葉さん」


「あぁ」


葛葉も血を刃へ変える。


レオスはそんな二人を見て、心底楽しそうに両腕を広げた。


「困りますねぇ、葛葉さん。研究対象を勝手に持ち出されては」


その言葉を聞いた瞬間、葛葉の目付きが変わった。


「研究対象?」


一歩前へ出る。


「二度とそんなこと言えねぇ口にしてやるよ」


レオスの笑みは崩れない。


その右側では鏑木が両手を広げると遊園地のような光が、その背後に浮かび始めた。


彼女のライバースキル『ワンダーパーク』だ。


左側では五十嵐が手にした野球ボールを軽く上へ投げる。


一つだったボールが二つ。さらに倍々に増えていく。


彼女のライバースキル『プレイボール』。


そして中央ではレオスの足元で、まめねこが再び巨大化を始める。


「さて」


レオスが眼鏡を押し上げる。


「実験体を返していただきましょうか」


葛葉は血で作った刃を構えた。


「断る」


ゲーマーズ本拠地の地下。


桜凛月を巡る戦いが、始まろうとしていた。

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