番外編第四話 揺らぐ決意
「その花びらどこで拾ったのですか?」
突然の問い掛けに、葛葉は思わず肩を震わせた。
目の前には金髪の少女、ルイス・キャミーがいた。
仮面の穴から覗かれた視線が今は葛葉の手にある桜の花びらだけを真っ直ぐ見つめていた。
「……」
葛葉は無言のまま花びらをポケットへしまう。
ルイスは少し困ったように微笑んだ。
「あ、ごめんなさい、いきなりこんなこと聞かれても困りますよね」
軽く頭を下げる。
「改めて、私はルイス・キャミー。赤の組織、兼ゲーマーズ所属よ」
「……いや知ってる」
葛葉は短く返すルイスは苦笑した。
「あはは。それもそうですよね……でも、どうしても気になっちゃって」
もう一度、葛葉を見る。
「その花、どこで見つけたんですか?」
葛葉は一瞬だけ考える。
――言うか?いや、駄目だ相手は同じゲーマーズと敵組織の人間だ。
凛月の存在を勝手に話す訳にはいかない。
「外で任務帰り、たまたま落ちてた」
適当だった、自分でも苦しいと思うくらいの言い訳だったがしかしルイスはそれ以上追及しなかった。
「……そうですか、ならいいんですか」
ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ寂しそうに笑う。
その表情が妙に引っ掛かって葛葉は思わず聞き返す。
「……なんでそんな花気にしてるんすか?」
ルイスは少しだけ遠くを見る。
「昔ね。お姉ちゃんが持ってた花にすごく似てたから。」
「…………」
その瞬間、葛葉の思考が止まって、頭の中で一つの記憶が蘇る。
『六歳くらいになるころ、その女性は女の子を拾ってきたんです。』
『金髪で、私の妹として育てられました。』
「……まさか。」
凛月の妹。
ルイス・キャミー。
点と点が一本の線で繋がる。
――いやいやいや、そんな偶然あるか?でも金髪の妹って……。
葛葉が呆然としている間に、ルイスは小さく会釈した。
「じゃあ」
そのまま静かに歩き去っていく。
葛葉が我に返った時には、もう廊下には誰もいなかった。
「……マジかよ」
思わず頭を抱えた。
◇
葛葉は急いで自室へ戻り、ベッドへ腰掛けて腕を組んで考える。
「もし……本当にルイスが妹だったら」
凛月を助け出すってなった時、ルイスは味方になってくれるかもしれない。
そしたら二人を村へ帰せる。
そこまではいい。
「……その後は?」
葛葉は天井を見る。
二人は帰る場所があって迎えてくれる家族がいる。
じゃあ。
「俺は?」
帰る場所なんてない吸血鬼のニートで戦うことしか知らない。
ゲーマーズへ残る?
凛月を助けた時点で敵になるに決まってる。
「……」
考えれば考えるほど本当に助けるべきなのか分からなくなる。
もし逃がしたせいで妹まで危険になったら?育ての母親まで巻き込んだら?それは本当に凛月のためなのか。
「……クソ」
答えは出ないが疲労だけが積もっていく。
葛葉はそのままベッドへ倒れ込んだ。
「……考えすぎた」
目を閉じ、そのまま意識は闇へ沈んでいった。
◇
目を開けた。
「……」
部屋は明るく、霞んだ目を擦りながら時計を見ると。
「昼?」
短針が十二を過ぎていて完全に寝過ぎたと悟った。
「うわ……」
頭を掻きながら起き上がる。
昨日考えたことは全部忘れようと心がける。
「凛月さんのとこ行くか」
◇
いつもの技術開発部で誰もいないことを確認し部屋へ入り、本棚のスイッチを押す。
ゴゴゴ……
いつも通り隠し通路が開くと葛葉は迷わず奥へ向かった。
「おーい」
返事はない。
「凛月さん?」
とても静かだった。
そして透明な部屋にいるはずの少女はいなかった。
「……は?」
ベッドも机も生活していた痕跡が全て消されていた。
「どこ行った?」
嫌な汗が流れて葛葉は急いで部屋を飛び出した。
その瞬間、廊下の向こうから聞き慣れた声が響く。
「被検体S-01は最終調整段階へ入りましたか」
レオス・ヴィンセントだった。
研究員たちへ話しているようだったが、まるで誰かに聞かせるような声量だった。
「実験施設を移動するので以後、この部屋は使用しませんから」
葛葉と目が合うとレオスは意味深に口角を上げた。
「……楽しみですねぇ。完成までが」
その笑顔を見た瞬間、葛葉は全てを悟った。
葛葉が凛月に合っていたことなどずっとバレていたのだ。
「チッ……!」
強く舌打ちをすると、その場を駆け出す。
――どこへ連れて行った!どこだ、凛月さん!!
焦りだけが胸を支配する中、葛葉は広大なゲーマーズ本拠地を駆け回り桜凛月の行方を必死に探し始めるのだった。




