↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2O・3O(仮)  作者: 夜何時
番外編 ep葛葉
PR
45/55

番外編第三話 葛藤

あの日から葛葉の日課が一つ増えた。


技術開発部の前まで来て廊下を見渡す。


他の職員の姿がないことを確認してから部屋へ入り、本棚の隠しスイッチを押して秘密の通路に入っていく。


その先には、いつも満開の桜が咲いていた。


「うーす」


「葛葉さん!」


桜凛月は、葛葉の姿を見るだけで嬉しそうに笑う。


その笑顔を見ると、葛葉も自然と笑ってしまうようになっていた。


「今日は何してたんすか?」


「お昼寝です!」


「いや、毎日じゃね?」


「研究員さんに『安静にしてください』って言われてるので」


「なるほどなぁ」


そんな他愛もない会話をしていた。


「葛葉さんは好き嫌いあります?」


「ピーマン」


「案外、子どもみたいですね」


「あ、カッチーン」


「ふふ、冗談ですよ」


桜が笑うと葛葉もつられて笑う。


そんな時間が、毎日のように続いていた。


葛葉にとって、その場所だけは特別だった。


ゲーマーズという組織への違和感と戦う意味。


自分は何のためにここにいるのかそんな面倒なことを考えなくて済む。


凛月と話している間だけは、ただ一人の"葛葉"でいられた。


一方の凛月も同じだった。


研究員たちは、彼女を「被検体」としか見ていないため会話と呼べるものはほとんどなかった。


だから葛葉が話してくれる日常の話は、とても新鮮だった。


「ゲームってそんなに面白いんですか?」


「面白いっすよ」


「今度教えてください!」


「それは外出られたらで」


「そうでした」


二人で笑う。


その時間だけは、研究所の冷たい空気さえ忘れられた。


そんな日々が、一週間ほど続いたある日葛葉はいつものように技術開発部へ向かった。


しかし、部屋の前まで来たところで足が止まる。


「……」


中から話し声が聞こえる。


今日は誰かいるらしい。


「チッ」


今日は諦めるか。


そう思って踵を返そうとした、その時だった。


「──被検体S-01についてですが」


葛葉の耳がぴくりと動く。


「凛月さんのことか?」


何となく気になって部屋の横へ静かに移動し、気配を消す。


吸血鬼特有の優れた聴覚が、扉の向こうの声を鮮明に拾い始めた。


「解析結果が出ましたが何度調べてもやはり人類とはDNA構造が一致しません」


「ふむ」


聞き覚えのある声、レオス・ヴィンセントだった。


「我々の予想通りですね」


「彼女の細胞は、現在確認されている地球上のいかなる生物とも一致しません」


別の研究員が続ける。


「地球外生命体……宇宙由来の生命である可能性が極めて高いかと」


その言葉に葛葉の眉が少し動く。


正直、それほど驚かなかった。


自分は吸血鬼で身近には神もドラゴンもいるこんな世界では宇宙人がいたところで、今さら何ら疑問は無い。


だが、次の言葉で空気が変わる。


「彼女のエネルギー抽出率は?」


レオスが尋ねる。


「九十八パーセントまで上昇しました。あと少しで完全に安定します」


()()への転用は?」


「問題ありません、あと一歩と言ったところです」


葛葉の瞳から笑みが消える。


「アレの戦闘能力は従来の十倍以上と思われます」


レオスが笑う。


「あぁ、本当に美しい。まさか宇宙由来の生命を研究できる日が来るなんて彼女には感謝しかないですねぇ」


「我々はまた一歩、進歩しますよ」


狂気的その笑い声には、人を救おうという意思など一欠片も存在しなかった。


葛葉は静かにその場を離れた。


桜には会わなかった。いや、会えなかった。


自室に帰るとベッドへ倒れ込む。


天井を見上げながら、先ほど聞いた話を思い返す。


「宇宙人、ねぇ」


別にどうでもいい。


自分だって吸血鬼だ。宇宙人くらい、今さら驚く話じゃない。


問題はそこじゃない。


「アレ……か」


恐らくは何らかの兵器利用だと思われる会話だった。


凛月は病気を治してもらっていると信じていた。


家族の元へ帰るために独りで辛くても笑っていたのに。


レオスたちは最初から。


「利用する気だったのかよ……」


骨が鳴るほど強く拳を握る。


だが。


「……」


今の自分には何もできない。


レオスが研究しているということは叶も一枚かんでいるのだろう、そしたら敵に回すのはゲーマーズ全体ということになる。


勝手に暴れれば、自分が処分されるだけだ。


「クソ……」


葛葉はポケットへ手を入れる。


指先に触れた柔らかな感触。


あの日、初めて廊下で拾った桜の花びらだった。


「……」


葛葉はその花びらをぼんやり眺めながら廊下を歩く。


その時だった。


「その花びら」


突然、後ろから女性の声がして葛葉が振り向く。


そこには長い金髪を揺らした少女が立っていた。


彼女はゲーマーズの一人、ルイス・キャミーだった。


彼女は葛葉の手にある桜の花びらをじっと見つめ、普段より少し真剣な表情で口を開く。


「……それ、どこで拾ったんですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。