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2O・3O(仮)  作者: 夜何時
番外編 ep葛葉
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44/55

番外編二話 「今日、天気……」

「……あれ?」


「あなた、新しく来た研究員さん?」


突然話しかけられた葛葉は、固まったまま数秒動けなかった。


「え、いや、その……」


何と言えばいい。


勝手に入ってきましたなんて馬鹿正直には言えないし。


かと言って研究員ですと嘘をついても面倒くさいことになりそうだ。


葛葉が珍しく言葉に詰まっていると、ガラスの向こうの少女は小さく首を傾げた。


「違いました?」


「あー……うん。研究員ではないですよー」


「……」


「……」


沈黙が流れ気まずい雰囲気になる。


少女の方も困ったように笑う。


「あ、えっと……私、桜凛月っていいます」


柔らかな笑顔で自己紹介をした。


紫色の長い髪と穏やかな雰囲気、こんな場所にはあまりにも似合わない顔で笑う女性だった。


葛葉は慌てて頭を掻く。


「あー……葛葉だ。よろしく。」


「はい!」


凛月は嬉しそうに微笑んだ。


そして再びの沈黙。


「…………」


「…………」


何か話さないとと思うほど言葉が出てこない、葛葉はこういう空気が一番苦手だった。


焦った末に口から出た言葉は──


「……今日、天気いいっすね。」


「…………」


言った瞬間、自分でも終わったと思った。


地下施設で窓一つなく外なんて見えるはずがないこの場所で的外れな質問だった。


凛月は少し困ったように笑って、


「そう……なんですね」


と返した。


「私、外のお天気分からなくて」


「……」


「……」


葛葉は心の中で頭を抱えた。


――何言ってんだ俺ぇぇぇぇ!!外出られねぇ人に天気の話するとかアホか!!


そんな葛葉の様子を見て、凛月はくすっと笑う。


「ふふ、葛葉さんって面白い人ですね」


「めっちゃ気を使われてる……」


葛葉は顔を覆って思った、今すぐ帰りたいと。


すると凛月はふと不思議そうな顔になる。


「でも、研究員さんじゃないなら……どうしてここへ?」


「あー……たまたま廊下に桜の花びら飛んできて、気になって入ったらここ見つけた」


「そうだったんですね」


凛月は納得したように頷いた。


「研究員さん以外と話すの、すごく久しぶりだから嬉しいです」


その一言に葛葉は少し驚く。


「そんなにここにいるのか?」


「はい」


「もう何年になるんだろう……」


少し遠くを見るような目をする。


「よかったら聞いてくれますか?私のお話」


葛葉は壁にもたれながら頷いた。


「まぁ、暇だし」


「ありがとうございます」


凛月は嬉しそうに笑い、そして静かに語り始めた。



私は、小さな村で育ちました


緑がいっぱいで村のみんなが知り合いのとても平和なところ。


でも、私にはお父さんもお母さんもいませんでした。


代わりに育ててくれた女性がいたんです。


優しくて、怒ると怖くて、でも本当に家族みたいな人。


その人が昔よく言ってたんです。


『凛月は空から落ちてきた子なんだよ』


って、ふふ。


今でも冗談だと思ってますけど。


六歳くらいの頃でした。


その人がある日、小さな女の子を連れて帰ってきたんです。


金色の髪で、泣き虫で私より少し小さい女の子。


「今日からこの子はあなたの妹」


そう紹介されました。


最初は戸惑ったけどすぐに仲良くなりました。


毎日遊んで一緒にご飯を食べて一緒に寝て。


三人で笑って本当に幸せでした。


あの頃は、こんな生活がずっと続くと思ってたんです。


だけど、数年経った頃私の体に異変が起きました。


最初は小さな枝が腕や指先から生えてきたんです。


最初は笑っていました。変なのって。


でも、それは日に日に増えていって、枝は幹になり葉が生えて最後には花まで咲き始めました。


それだけじゃありません。


木が大きくなるたびに私はどんどん動けなくなっていきました。


立つだけで疲れを感じて歩くだけで息が切れるから朝から晩まで眠ってばかり。


まるで、木が私の命を吸っているみたいでした。


育てのお母さんも妹も毎日泣いていました。


私は二人に泣かないでと言うんですけど、心の中では多分一番泣いてたと思います。


そんな時、村へ二人の人が来たんです。


一人は白衣を着た男の人、そしてもう一人は綺麗なお兄さん。


白衣の人は自分をレオス・ヴィンセントと名乗りました。


もう一人は叶と、そう名乗りました。


レオスさんは私を見てすぐ言ったんです。


この症状は命に関わる病気ですが、私たちなら必ず治せます、と。


村に来たよそ者の言うことを最初は誰も信じませんでした。


でも、レオスさんはいろんな資料を見せてくれました。


今まで治してきた病気や助けてきた人々の記録と証拠の数々を。


お母さんも妹もそして私も、この人達ならってそう思ったんです。


だから私はここへ来ました。


病気を治してまた家族三人で暮らせるようになるために。



「だから今も頑張って治療してるんですよ」


そう言って凛月は笑った彼女の膝に桜の花びらが一枚落ちた。


話を聞き終えた葛葉は思わず腕を組んだ。


「……いや、普通にすげーわ」


素直にそう思った。


病気を治す。それだけのために何年もここにいる。


その一途さは眩しかった。


だが同時に葛葉の胸には別の感情が芽生えていた。


本当に彼女は病気なのだろうか、そして病気が本物だったとして何かに利用されているのではないのかと。


今のゲーマーズを見ていればそんなことをしていても不思議ではない。


と、色々考えていたがそれはすぐに中断される。


カツ……と廊下の向こうから足音が聞こえた。


誰かがこちらへ近付いてくる音だ。


葛葉の耳がぴくりと動く。


――誰か来る。


もしレオス本人だったら面倒だと思い葛葉は立ち上がった。


「俺、そろそろ行きますわ」


凛月は少し寂しそうに微笑む。


「そうですか」


「話、めっちゃ面白かったすわ」


葛葉は踵を返しかける。


すると凛月が小さく呼び止めた。


「あの」


葛葉が振り返る。


「また……来てくれますか?」


その言葉に葛葉は少しだけ照れくさそうに笑った。


「……暇だったら、また来ますわ」


凛月の表情がぱっと明るくなる。


「はい、待ってます!」


葛葉は軽く手を振ると、隠し通路へと姿を消した。


閉まりゆく扉の向こうで、凛月は舞い散る桜を見上げながら、小さく呟く。


「……久しぶりに、楽しくお話しできた」


その笑顔を見た葛葉は知らない。


彼女が「病気」だと信じているその現象が、本当に病気なのかどうか。


そして、その研究室の主であるレオス・ヴィンセントが、どんな目的で彼女をこの場所へ閉じ込めているのかを。

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