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2O・3O(仮)  作者: 夜何時
第四章
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第三十九話 「咎の刃」

何もない荒野に、乾いた風が吹き抜ける。


街からも学校からも遠く離れた、誰一人として巻き込まれることのない場所で剣持刀也と葛葉は互いに一定の距離を空けて向かい合っていた。


剣持は竹刀を正面へ構える。


既に伏見の神力は全身へ巡っており、普段とは比べものにならないほど身体能力が引き上げられている。


対する葛葉は、両手をポケットへ入れたまま、余裕の笑みを浮かべていた


「今回は完全に一対一だな」


剣持は視線を逸らさない。


「お前が使えるもん全部使って……俺に勝ってみろよ」


先に仕掛けたのは葛葉だった。


しかし、剣持との距離を詰めることはない。


右手を前へ突き出し、掌の上へ赤黒い血液を集める。


「『血の銃(ブラット・ガン)』」


凝縮された血液が細長い銃身へ変化する。


次の瞬間、鋭い血の弾丸が剣持の頭部目掛けて発射された。


剣持は僅かに首を傾け、頬の横を弾丸が通過し遥か後方の地面を穿った。


一発では終わらず、葛葉の周囲へ次々と血の銃弾が生成される。


「変わらず遠距離で攻めさせてもらうぜ」


血の弾丸が雨のように降り注ぐ。


それに反応した剣持は地面を蹴り、身体を低くして弾丸の隙間へ滑り込む。


一歩踏み出すたび、僅かに進路を変えていく。


弾丸が剣持の制服を掠め、足元の地面を次々と吹き飛ばしていくが直撃だけは避けていた。


『右から三発』


伏見の声が響く。


剣持は竹刀を振り、迫ってきた一発を弾いて残る二発の間へ身体を滑り込ませた。


葛葉の表情から笑みが僅かに消える。


「……やるじゃねぇか」


「前回で学んでるからな」


剣持は走りながら答える。


「同じ負け方をするほど、僕は素直じゃない」


以前の戦いで、葛葉が遠距離から血を操ることは分かっていた。


だから剣持は、遠距離攻撃を避けながら接近する訓練を続けていた。


「だったらこれはどうだ!」


葛葉が手を握る。


剣持の進行方向へ落ちていた血の弾丸が、次々と球体へ形を変えた。


「『血の爆弾(ブラッド・ボム)』」


爆発と共に剣持の周囲で赤黒い炎が巻き起こる。


地面が砕け、砂煙が視界を覆う。


葛葉はさらに血の爆弾を作り出す。


剣持が逃げる先を塞ぐように配置し、連続で爆発させた。


『刀也君、上だ!』


伏見の声に従い、剣持は爆風へ逆らうように跳躍する。


煙の上へ飛び出した瞬間、正面には既に血の銃を構えた葛葉がいた。


「空中じゃ避けられねぇだろ!」


発射と共に剣持は空中で竹刀を振るう。


血の弾丸を竹刀の側面で受け流し、その反動を利用して身体を捻った。


弾丸が肩を僅かに掠める。


しかし、着地と同時に再び葛葉へ向かって駆け出す。


「なっ……!」


今度こそ、葛葉の懐へ入る。


「はあっ!」


竹刀が葛葉の首元へ振るわれる。


葛葉は腕へ血を纏わせ、刃のように硬化させた。


竹刀と血の刃が激突する。


甲高い音が荒野へ響いた。


「やっと近づけた」


「ここからが本番だな!」


両者が同時に刀を振る。


剣持の刀と葛葉の刀が正面からぶつかり、衝撃波が周囲へ広がった。


両者はそのまま一歩も退かない。


続けて葛葉が血の刃を振り下ろすのを剣持は竹刀で受け流し、空いた胴へ蹴りを放つ。


葛葉は腕で防ぎ、その足を掴もうとするが剣持は掴まれる直前に身体を回転させ、反対の足で葛葉の頭部を狙った。


葛葉は身を屈めて回避してそのまま剣持の懐へ入り、肘を腹部へ叩き込む。


「ぐっ……!」


剣持の身体が後ろへ押される。


だが、倒れない。


踏みとどまり、葛葉の肩へ竹刀を振り下ろす。


葛葉は血の刃を交差させて防いだ。


「前とは比べ物にならないくらい強くなってんじゃん!」


「君を倒すための修行もしたからね」


剣持が力を込め、竹刀が血の刃を押し下げる。


葛葉は笑いながら剣持の腹部へ膝を放った。


剣持は身体を横へずらして回避し、竹刀の柄を葛葉の顎へ突き上げる。


葛葉は首を逸らす。


直後、剣持の拳が頬を捉えた。


鈍い衝撃と共に葛葉の身体が数メートル吹き飛ぶ。


しかし、空中で姿勢を整え何事もなかったかのように着地した。


「いいねぇ」


口元から流れた血を、舌で舐め取る。


「やっぱお前、面白いわ」


再び両者は地面を蹴った。



戦いは長く続いた。


葛葉は距離を変えながら、多彩な攻撃を繰り返す。


剣持は伏見の助言と強化された身体能力を使い、攻撃を避けながら隙を狙う。


一方が優勢になれば、もう一方がすぐに対応するを繰り返していた。


剣持の制服は至る所が破れ、血の弾丸が掠めた傷から血が滲んでいた。


葛葉の身体にも、竹刀で打たれた痣や切り傷が増えている。


両者ともにダメージはあったが決定的な一撃を与えることができないままだった。


葛葉が血の刃を振るうのを剣持が屈んで回避し、そのまま竹刀を横薙ぎに振り葛葉の脇腹へ叩き込んだ。


「がっ……!」


葛葉が後退する。


さらに追撃で剣持の竹刀が連続で葛葉の身体を打つ。


葛葉は血の刃で受け止めるが、徐々に動きが鈍くなっていた。


『刀也君』


伏見が気づく。


『あいつの動きが鈍くなっているよ』


「ああ」


剣持も異変を感じていた。


吸血鬼である葛葉は人間より遥かに高い身体能力と回復力を持つ。


だが、血を使った攻撃を繰り返すたびに、自身の身体から血液を消費している。


攻撃が強力であるほど、失う血の量も増えていく。


葛葉は剣持を近づけさせないために、最初から大量の血を使い続けていた負担がここに来て表れ始めたのだ。


「はぁ……」


葛葉の呼吸が僅かに乱れる。


剣持はその隙を見逃さず一気に距離を詰め、竹刀を振り下ろす。


葛葉は血の刃で受けるが、衝撃を殺し切れず片膝をついた。


「体力勝負では僕の方に分があるみたいだね」


剣持は息を切らしながら言う。


「遠距離攻撃で仕留めきれなかった時点で、君の負けは決まっていたよ」


「……そう見えるか?」


葛葉が低く笑う。


状況に反してその表情には、焦りがなかった。


むしろ何かを待っていたかのように見えた。


葛葉は立ち上がると、両腕を大きく広げると身体の周囲へ大量の血液が溢れ出す。


「何を……」


血は銃や刃へ変化せずそのまま地面へ流れ落ちていく。


明らかに無駄な消費だった。


『刀也君、離れろ!』


伏見が何かに気づいて叫ぶと剣持は咄嗟に後方へ跳ぶ。


葛葉の身体から、さらに血が溢れ出す。


顔色が青白くなり、身体が小さく震え始める。


それでも葛葉は笑っていた。


「吸血鬼ってのはな体ん中の血が減りすぎると、理性を保てなくなるんだ」


赤い瞳の光が、さらに強くなる。


「血を操る余裕もなくなる。その代わり――」


葛葉の足元の地面が砕けた。


「生に縋るだけの化け物になる」


心臓の鼓動が遠く離れた剣持にまで聞こえてくる。


葛葉の爪が伸び、牙が鋭くなる。


身体から赤黒い力が噴き出し、周囲の空気を震わせた。


【狂乱状態】


吸血鬼の体内に残る血液が一定以下になった時、強制的に発動する本能の解放。


血を使った攻撃はできなくなる代わり、身体能力の全てが通常時を遥かに超える。


「グルルルル……」


葛葉の喉から、唸り声が漏れる。


剣持は竹刀を握り直す。


「正気か?」


葛葉は答えない。


次の瞬間姿が消える。


『刀也君、右だ!』


反応した時には遅く、葛葉の拳が剣持の脇腹へ突き刺さる。


「がっ――!」


剣持の身体が地面を跳ねる。


数十メートル吹き飛ばされ、岩へ叩きつけられた。


「ぐっ……!」


息ができず、肋骨が軋む感覚がした。


剣持が顔を上げた時、葛葉は既に目の前にいた。


振り降ろされる爪を竹刀を横へ構えて防ぐ。


その衝撃から剣持の足元が地面へ沈み込む。


「なんて力だ……!」


『受け流せ!』


伏見の言葉に従い、剣持は竹刀を傾ける。


葛葉の爪を横へ逸らし、その勢いを利用して腹部へ蹴りを放った。


しかし、蹴りを受けても葛葉の身体は僅かに揺れただけだった。


「嘘でしょ」


葛葉が剣持の足を掴むとそのまま地面へ叩きつけた。


肺から空気が押し出される。


苦しんでいる間もなくさらに遠くへ投げ飛ばされた。


剣持は空中で身体を捻り、何とか着地するが着地した瞬間には、葛葉の膝が顔面へ迫っていた。


「っ!」


竹刀で受け止めるが大きくしなり、剣持の身体は再び押し飛ばされた。


今までの葛葉とは別物だった。


『刀也君、このままじゃ力で押し切られる!』


「分かってる!」


剣持は地面へ竹刀を突き立て、勢いを止める。


直後、葛葉の突進を剣持は正面から迎え撃つ。


竹刀と爪が交差する。


肩を爪が掠め、制服が裂けるが剣持の竹刀も葛葉の頬を捉える。


両者はそのまま止まらず、葛葉の攻撃が剣持の胸を打ち、剣持の蹴りが葛葉の脇腹へ突き刺さる。


血を流し骨を軋ませながら、両者は何度もぶつかり続けた。


戦いと呼ぶには、あまりにも激しく互いに相手が倒れるまで止まるようには見えなかった。


何度倒れても立ち上がるり、何度血を流しても前へ出る。


「はぁ……はぁ……」


剣持の視界が揺れる。


神力による強化を続けた身体は、既に限界へ近づいている。


対する葛葉も、狂乱状態によって身体を無理やり動かしているだけだった。


残る血は少なく、理性もほとんど残っていない。速さや力も段々落ちていった。


『刀也君』


伏見の声が響く。


『次で決めるぞ』


「……やれるか?」


『俺の今使える神力を全部、竹刀へ集める』


伏見の声は真剣だった。


『刀也君は、その力を制御してくれ』


「全部って……。」


『長くは保たないから外したら、俺たちはもう動けない』


剣持は葛葉を見る。


葛葉は低い唸り声を上げながら、再び地面を蹴ろうとしている。


次の攻撃を受ければ立ち上がれる自信はなかった。


「分かった」


剣持は竹刀を両手で握り目を閉じる。


「やろう、伏見」


『ああ』


伏見の神力が、剣持の身体から竹刀へ集まっていく。


眩い光、神聖でありながら鋭く研ぎ澄まされた力が竹刀の表面へ纏わりつく。


剣持と伏見、二つの力が一本の竹刀へ重なると竹刀がまるで本物の刀のように、鋭い光を放った。


葛葉が走り出すと同時に剣持も地面を蹴る。


両者の距離は一瞬で縮まる。


葛葉が全力で爪を振り下ろし、剣持は竹刀を振り抜いた。


「咎を背負い――」


伏見の声が重なる。


『その力を断つ!』


『「咎の刃!!」』


光の斬撃が、葛葉の爪と衝突した。


一瞬、世界から音が消える。


次の瞬間、眩い光が荒野全体を包み込み衝撃波が大地へ巨大な亀裂を作ると、周囲の岩が砕け散る。


光の中。


「がっ……!」


葛葉の身体が宙を舞う。


地面へ落ちて何度も転がりやがて動きを止めた。


静寂が訪れ、剣持は竹刀を振り抜いた姿勢のまま荒い息を吐く。


「はぁ……はぁ……」


竹刀を覆っていた光が消え、全身から力が抜けた剣持は片膝をついた。


『刀也君……立てるか?』


「無理かも……」


『奇遇だな。俺ももう力が一切出ない』


剣持は竹刀を支えにしながら、何とか立ち上がる。


葛葉の元へゆっくり近づくと葛葉は仰向けに倒れ、空を見ていた。


狂乱状態は解除されているようで牙も爪も元へ戻り、瞳にも僅かに理性が戻っていた。


「……負けた」


葛葉が掠れた声で呟く。


剣持は何も答えない。


「マジで強かったよ、お前」


「君もね」


「俺が?」


「前よりずっと面倒だった」


葛葉は小さく笑った。


「褒め方終わってんね」


剣持は学校の方角へ視線を向ける。


「僕は戻る」


剣持が葛葉へ背を向ける。


「なぁ」


後ろから葛葉の声が聞こえる。


剣持は僅かに振り返った。


「あんたのこと、もちさんって呼んでいいか」


剣持は一瞬、目を丸くして驚くが小さく笑って答える。


「好きに呼んでくれ、もう会いたくは無いけどな」


葛葉は呆れたように笑う。


戦いは終わった、これで学校へ戻れる。


剣持がそう思った瞬間。


『刀也君!』


伏見の叫び声と共に何かが空気を切り裂く。


剣持が振り返るよりも早く鋭い何かが、右肩を貫いた。


「――っ!?」


血が飛び散る。


剣持の身体が大きく揺れ、竹刀が手から落ちる。


「ぐっ……!」


膝をつきながら、攻撃が飛んできた方向を見る。


荒野に立つ岩山の上に、一人の青年がいた。


穏やかな笑顔を崩さない彼こそがゲーマーズのリーダー。


叶。


「すごいね」


叶は拍手をしながら、ゆっくりと岩山から降りてくる。


「まさか狂乱状態の葛葉まで倒しちゃうなんて」


倒れていた葛葉が顔を上げる。


「叶……?」


その声には、僅かな驚きが混じっていた。


「ずっと見てたのかよ」


「うん」


叶は微笑む。


「最初から全部」


剣持は傷口を押さえながら睨みつける。


「お前が……ゲーマーズの……」


「初めまして、剣持刀也君」


叶は楽しそうに笑った。


「ずっと君と話してみたかったんだ」


剣持は竹刀を拾おうと手を伸ばすが指に力が入らない。


叶はそんな剣持の様子を眺めながら、ゆっくりと距離を詰めてくる。


「葛葉との戦いは君の勝ちだ。それは誇って良いよ……でも」


叶の笑みが僅かに深くなる。


「今日の戦いが、これで終わりだとは誰も言ってないよね」


ついに諸悪の根源が剣持の前へ姿を現した。

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