最三十六話 巨大乱闘
二次三次高校――校門前。
数十メートルもの巨体となった矢車りねが、その巨大な足を踏み出すたびに地面が大きく揺れる。
その肩には町田ちまが静かに腰掛け、美しい歌声を紡ぎ続けていた。
矢車は自身の『巨大化』というライバ―スキルを使う代わりに完全に理性を失ってしまうのだ。
それを補うのが至近距離で歌を歌うことで他者を操れる町田の『歌唱』。
だからこそ、町田は一瞬たりとも歌うことを止められない。
その巨体を前に、加賀美ハヤトは静かにダイカガミの操縦席で通信機を取り出す。
「夜見さん、葉加瀬さん」
通信越しに二人へ呼びかける。
「ここは私が引き受けますので、校庭のクヲンと校舎内の制圧をお願いします」
夜見がおっとりと返事をする。
「は~い、任せてくださいね」
葉加瀬も拳を握る。
「社長も気を付けてください!」
「ええ」
巨大ロボ――ダイカガミがゆっくり立ち上がる。
加賀美は矢車を見据えた。
「あなたの相手は私です」
理性のないはずの矢車が嬉しそうに笑う。
その肩で町田が叫ぶ。
「大きい人同士、いっぱい遊びましょうね」
ズシンッ!!
巨大な足が地面を砕く。
そのまま拳が一直線に振り下ろされた。
「……!」
ダイカガミも巨大な腕で迎え撃つ。
ドォォォン!!
拳と拳がぶつかった瞬間、衝撃波が周囲へ吹き荒れた。
校舎の窓ガラスが次々と砕け、木々が大きく揺れる。
それでも二人は止まらない。
矢車が腕を振るうとダイカガミが受け止める。
巨大な脚で蹴り上げると鋼鉄の腕で殴り返す。
戦うたびに道路が削れ、大地が割れていく。
怪獣同士の激突のようだった。
◇
「それじゃあ私はこっち!」
葉加瀬冬雪は校庭へ飛び込んだ。
そこにはまだ大量のクヲンが暴れ回っている。
「よーし!」
両手を叩く。
「ライバースキル――『実験』」
彼女の周囲へ次々と試験管やフラスコが浮かび上がる。
「これとこれを混ぜて……うーん、これも入れちゃいます!」
シュワァァァ……。
薬品が激しく反応する。
「完成!」
巨大なフラスコを空へ放り投げた。
「いっけぇー!」
パリンッ!!
割れた瞬間。
白い煙が一帯へ広がる。
煙へ触れたクヲンたちは身体を溶かされるように消えていった。
「実験成功です!」
葉加瀬は嬉しそうに笑う。
しかし。
「……あれ?」
数体だけ。
煙を避けるように後ろへ飛び退いたクヲンがいた。
「避けた?」
クヲンは基本的に本能だけで動く。
この煙の攻撃を予測して回避する個体など今まで存在しなかった。
葉加瀬は眉をひそめる。
「変だな」
そのクヲンたちは葉加瀬を囲むようにゆっくり歩き始める、その動きは完全に連携していた。
「えっ?そんな動き……できるはずが」
困惑したその瞬間、後ろから一体が飛び掛かる。
「きゃっ!」
何とか避ける。
すると今度は横からもう一体。
「わわっ!」
その隙を突いて正面から牙が迫る。
「ちょ、ちょっと!」
葉加瀬は薬品を投げて迎撃するが、まるで人間のようにタイミングをずらされ、思うように当たらない。
◇
校舎裏、植え込みの影。
「めんどくさぁ……」
一人の少女が座り込んでいた。
彼女の名前は椎名唯華。ゲーマーズの一員である。
眠そうな目を擦りながら、指先をゆっくり動かしている。
「もう帰りたいんやけど」
ぼやきながらも、視線だけは葉加瀬を追っていた。
彼女の周囲には三枚の呪符が浮いている。
その先には先ほどの三体のクヲン。
「よしよし、もっと右や……そこで噛みついて」
まるでゲームでも遊ぶような感覚で指示を出していた。
ライバースキル――『呪符』
頭へ呪符を貼られた対象は、椎名の思い通りに動く。
だから、呪符を貼られたクヲンだけが異様に知性的な動きを見せていた。
「あとちょっとで動けなくなるかなぁ」
椎名は欠伸をしながら呟く。
「終わったら寝よ」
◇
その頃、校舎上空。
魔法少女の格好をした少女、勇気ちひろは箒へ跨ったまま窓から校舎内を見下ろしていた。
通信機から声が聞こえる。
『まだ天宮こころは校舎の外へ出ていない、校舎内にいる可能性が高い』
「了解」
ちひろは楽しそうに笑った。
「かくれんぼかな?」
箒を旋回させて割れた窓から、そのまま校舎内へ飛び込んだ。
静まり返った廊下では避難したばかりなのか、机や鞄が散乱している。
「どこだよ……」
ちひろは周囲を見渡す。
「龍の末裔だっけ?」
一つ一つの教室を確認しながら進んでいく。
「どうせまだ校舎のどっかにいるんでしょ」
彼女の周囲にはいつの間にか数十丁もの銃が浮かび始めていた。
「見つけたら一気に終わらせるちゃうもん」
冷たい声だけが、静かな校舎へ響いた。




