第三十四話 迎撃開始
二次三次高校前。
校舎を目前にして、伊波隊とゲーマーズの三人が対峙していた。
その前にはゲーマーズの三人。
両者が睨み合う中、最初に口を開いたのは海妹だった。
「いや~、思ったより早い対峙だけど大丈夫!」
「私たちのお仕事は時間稼ぎだから!」
伊波はハンマーを肩へ担ぎながら一歩前へ出る。
「残念だけど、その仕事は失敗しちゃうな。ここは通してもらうよ」
先斗は静かに首を横へ振った。
「それはできないね」
天ケ瀬は眠そうに欠伸をする。
「じゃあ……始めようか」
その瞬間だった。天ケ瀬の瞳が妖しく輝く。
「ライバースキル――『悪夢』」
黒い霧が周囲へ広がる。
伊波たちの視界が一瞬で暗転した。
◇
巨大な炎と瓦礫の中で倒れていく仲間。
伊波の目の前では、自分の隊員たちが次々と血を流して倒れていた。
「隊長……」
「助けて……」
「伊波さん……」
「違う……!」
伊波は拳を握る。
「これは現実じゃない!」
◇
星導は誰もいない真っ白な空間へ立っていた。
「……あれ?僕の記憶どころか、世界までなくなりました?」
◇
小柳の前には巨大な狼。
牙を剥き、自分へ襲い掛かってくる。
「……くだらねー」
◇
叢雲の周囲には無数の敵。
逃げ場もなく忍具も尽きていた。
「チッ……。」
◇
「今だよ!」
海妹の声が響く。
先斗が右手を前へ突き出した。
「『青の精』」
三匹のブルーベリーの妖精たちが空へ飛び立つ。
そして一斉に伊波隊へ突撃した。
「海妹」
「了解!」
海妹が嬉しそうに手を叩く。
「全部速くしちゃえ!」
ライバースキル――『加速』
ブルーベリーの妖精たちの飛行速度が何倍にも跳ね上がる。
まるで青い弾丸だった。
「ぐっ!」
間一髪で目覚めた伊波が腕で防御する。
「速っ……!」
まだ苦しんでいる星導の肩を一体が掠めて叢雲も頬を切られた。
小柳だけが紙一重で避け続ける。
「なるほどな」
小柳は静かに目を細めた。
「厄介だ」
しかし、伊波隊は歴戦の部隊だった。
「お前らさっさと起きろよ」
伊波が星導と叢雲の頭を叩く。
「じゃあ、作戦通りで」
「……了解」
目覚めたばかりのはずなのに、状況を一瞬で飲み込んだ叢雲の姿が一瞬で消える。
忍者らしい静かな動き。
天ケ瀬が振り向くより早く。
「煙玉」
ボンッ!!
大量の煙が天ケ瀬を包み込む。
「なにこれ!」
続けて、鎖付きクナイとワイヤー、捕縛札。
何も持っていないはずの手から次々と忍具が飛び出す。
「ライバ―スキルか……!」
気付いた時には両腕も足も拘束されていた。
「これで悪夢は終わり」
叢雲が静かに呟く。
天ケ瀬は苦笑した。
「忍者ってズルい……」
◇
「星導!」
「任せてください!」
星導が両腕を広げる。
「『触手』」
背中から何本もの黒い触手が飛び出した。
そしてブルーベリーの妖精たちを次々と絡め取っていく。
「捕まえました!」
ブルーベリーの妖精は逃げようとするが触手の掴む力が強大でやがて静かに消滅していった。
先斗は小さく舌打ちした。
「……面倒だな」
その隙を伊波は見逃さない。
地面を蹴って一直線。
ハンマーを振り下ろす。
「はあっ!」
先斗は新たな妖精で迎撃しようとする。
しかし、間に合うはずものなく。
「しまっ――」
ドンッ!!
腹部へ鈍い衝撃。
先斗は数メートル吹き飛ばされる。
「……っ!」
そのまま壁に背を預ける形で気を失ってしまった。
◇
その頃。
海妹四葉は楽しそうに笑っていた。
「捕まえられるかな~!」
飛んでくる忍具、触手による攻撃、全てへ『加速』を付与。
速度が変化した瞬間を利用し、物体の軌道を変え続ける。
「こっち!」
「ほら!」
「当たんないでしょ!」
星導も叢雲も攻撃を当てられず苦戦をしていた。
「なるほど」
小柳だけが静かだった。
「速度を操る能力か」
海妹は笑う。
「そうそう、近くにあるもの全部速くできるんだ!」
「つまり」
小柳は刀へ手を掛ける。
「自分自身はたいして速くないと」
海妹の笑顔が止まる。
「え?」
その瞬間、小柳の姿が消えた。
「――!!」
小柳の姿を見失った海妹が周囲を見渡した瞬間。
「終わりだ」
背後からの柄による一撃。
ゴッ。
「ふぇ……?」
海妹はそのまま目を回し、地面へ倒れた。
「み、見えなかった……」
そのまま気絶する。
小柳は静かに刀を納めた。
「能力に頼り切りなようでは俺には勝てねーよ」
戦闘開始から、わずか数分。
完璧に伊波隊の勝利だった。
◇
「学校へ急ぐぞ!」
戦闘を終えたばかりの伊波の号令で四人が走り出す。
あと少し、校門まで数十メートル。
その時。
「いやぁ」
聞き覚えのない男の声が響いた。
「ここまで彼女たちが綺麗に負けるとは思いませんでした」
道路の真ん中。
特殊な服を着た青年が立っていた。
どこか胡散臭い笑みでステッキを片手に、優雅に一礼する。
「初めまして、私はミラン・ケストレル。決して怪しいものではございません」
星導が即答する。
「怪しいですね」
「怪しくないですよ」
アハハと笑って受け流す。
「私は普段私のやりたいことしかやりません」
そう言いながら肩をすくめる。
「だけど、今日は仕方なくの出勤なんですよ」
「じゃあ、潔く通してくれよ」
叢雲がそう言うとミランは悲しそうな顔をして笑う。
「そういう訳にもいかないんですよね」
そう言って時計を取り出す。
「だから、文字通り一瞬で終わらせますね」
嫌な予感がした小柳は即座に刀を抜こうとするが。
「ライバースキル――『タイムコントロール』」
カチッ。
その声と共に時計の針が静かに動いた。
◇
同時刻、学校から少し離れた大通り。
鷹宮リオンと緑仙は笹木咲と戦っていた。
「うおおっ!」
笹木の台パンで地面が大きくひび割れる。
しかし。
「遅いよ」
鷹宮が軽やかに飛び越える。
「私の鎌を受けな!」
黒い鎌が笹木を掠めた。
「うわっ……ん?」
ダメージは無かった、しかし。
「なんやこれ……!」
身体が急激に重くなる。
「力が……」
さらにそこへ。
「行くよ」
緑仙の周囲へ小さなパンダが十数体現れる。
全員が同じ拳法の構え。
「せいっ!」
本体と分身が同時に拳を放つ。
「ちょ、ちょっと待っ――」
ドドドドドッ!!
笹木は防戦一方だった。
「なんでウチこんなボコボコなん!?こんな敵、聞いてへんて!!」
逃げても追いつかれる。
台パンを打とうにも身体能力が落ちて思うように力が入らない。
「これ……」
鷹宮は鎌を構え直した。
「意外と私たち優勢じゃない?」
緑仙も苦笑する。
「うーん、思ったよりもよりも余裕かも」
そんなことを言う緑仙たちに対し、額へ汗を浮かべながらも笹木はどこか余裕の笑みを浮かべていた。
「……まあ、まだ時間あるしな」
その言葉の意味を、二人はまだ知らなかった。




