第三十二話 隊長会議
エニカラ本部――大会議室。
普段は各部隊の作戦立案や重要会議に使われるその部屋には、普段以上に張り詰めた空気が流れていた。
長机を囲むように集まっているのは、それぞれ一部隊を率いる隊長、そして代理として参加した隊員たちだった。
相羽隊隊長――相羽ういは。
加賀美隊隊長――加賀美ハヤト。
伊波隊隊長――伊波ライ。
そして、不破隊からは隊長ではなく、一人の騎士が椅子へ腰掛けている。
巨大な剣を壁へ立て掛けながら腕を組む青年。
エクス・アルビオだった。
社築は全員の顔を見回す。
「全員揃ったな」
チャイカも軽く頷く。
「今回はかなり重要な案件だ」
加賀美は静かに口を開く。
「不破さんのお姿が見えませんが……」
その問いに答えたのはエクスだった。
「ふわっちは海外任務っす。まだ帰れそうにないから、今日はオレが代理です」
「代理とはいえ、責任重大ですね」
加賀美は穏やかに微笑む。
「任せてください、長年英雄やってるんで……まぁ長年はやってないんですけど」
エクスは胸を張って言うが、その直後に相羽がため息をついた。
「いや、エビオ構文は今は良いって」
少しだけ場の空気が和らぐ。
しかし社はすぐにモニターを起動した。
画面には二次三次高校と、その周辺地図が映し出される。
「本題に入る」
室内の空気が再び引き締まった。
社は渋谷ハジメが持ち帰った情報を全員へ説明する。
説明が終わると、しばらく誰も口を開かなかった。
最初に沈黙を破ったのは伊波だった。
「……つまり、彼女の学校が襲撃される可能性もあるってことですよね」
「そうなる」
社は短く答える。
相羽は腕を組みながら険しい表情になる。
「一般人が大勢いる学校で戦闘なんて最悪だよ」
「だからこそ事前に止める」
社はモニターへ新たな地図を表示する。
「問題は一つ。ゲーマーズがそこまで単純かどうかだ」
加賀美が顎へ手を当てる。
「確かに……彼らは私たちが警戒していることすら作戦の一部に入れているとも考えられますよね」
「ああ」
社は頷く。
「俺もそう思います」
エクスが椅子へ深く座り直した。
「つまり正面から来るとは限らないってこと?」
「いや」
社は首を横へ振る。
「……え?」
相羽が聞き返す。
「学校への襲撃そのものは実行するとは思う。でも、それ自体が囮かもしれない」
その一言で全員が理解した。
雨森小夜の事件の際もその手口だった。
伊波が静かに続ける。
「学校へ戦力を集めさせて……」
「別の場所で本命」
加賀美も言葉を繋ぐ。
「あるいは学校内部で陽動を起こし、その混乱に紛れて目的を達成する可能性もありますね」
社は満足そうに頷いた。
ゲーマーズは"勝つため"ではなく"目的を果たすため"に動く組織だと証明されている。
チャイカが腕を組む。
「つまり学校だけ守れば終わりじゃない。相手の狙い全部を考えて動く必要があるってわけだ」
「そういうこと」
社は資料を閉じる。
「だから今回は隊によって役割を変える」
モニターに名前が映る。
【加賀美隊】
【伊波隊】
「お前らは学校周辺の警戒と、天宮こころの護衛を担当」
加賀美は静かに頷いた。
「承知しました」
伊波も爽やかな笑顔のまま答える。
「任せてください」
相羽が首を傾げる。
「護衛ってことは本人にも事情を説明するの?」
社は即座に否定した。
「いや、本人には何も伝えないことに決定した」
部屋が静まり返る。
チャイカがゆっくり話し始めた。
「天宮こころ本人は、自分が龍の一族だってことを知らない普通の女子高生として生きてきた」
「だったら、そのまま知らずに生きられるなら、それが一番幸せだ」
加賀美も静かに頷く。
「もっともですね」
社が答える。
「本人にはなるべく気付かれるな、学校生活は今まで通り送らせる。敵より先に俺たちが日常を壊すわけにはいかないからな」
「了解」
加賀美と伊波は同時に返事をした。
エクスは立て掛けていた巨大な剣を肩へ担ぐ。
「オレたちは待機?」
「不破隊は帰国次第合流そして相羽隊は即応部隊で何かあれば一番最初に動いてもらう」
「もちろん」
相羽は真剣な表情で答えた。
「剣持くんたちも学校にいるしね」
会議は終了した。
誰もが感じていた、これから始まる戦いは今までとは違う。
そんな予感を。
◇
その頃――。
薄暗い地下施設。
巨大なモニターが並ぶその部屋には、多くの人影がいた。
ゲーマーズ本拠地。
ソファへ腰掛けた叶は、一台の端末を操作していた。
画面には多くの構成員の名前が次々と表示されていく。
そして全員へ同じメッセージが一斉送信される。
『もうすぐお祭りが始まる、参加するように』
送信完了。
端末を机へ置いた叶は、小さく笑う。
「さて……」
その視線は部屋の奥へ向いた。
黒い箱。
金属とも木ともつかない不思議な素材で作られた、小さな箱だった。
叶はそれを静かに持ち上げる。
箱の表面には、まるで生き物の鼓動のような黒い紋様がゆっくりと脈打っていた。
「もう少しだ」
叶の口元が、不敵に吊り上がる。
「最高のお祭りの始まりだ」
静まり返った部屋に、その笑い声だけが静かに響いた。




