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2O・3O(仮)  作者: 夜何時
第三章
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第二十八話 恐竜軍団

「ほな、恐竜と遊んでもらおか!」


本間ひまわりが高らかに宣言した瞬間、亜空間へと繋がる光の裂け目が一気に拡大した。


地鳴りのような咆哮と無数の足音。


そして、暗闇の奥から次々と異形の影が飛び出してくる。


最初に現れたのは、両脚で素早く地面を駆ける小型の肉食恐竜だった。


鋭い牙と鎌のような爪を持つ恐竜が、十体近くの群れとなって剣持たちへ襲いかかる。


「多い!」


剣持は竹刀を構え、先頭の一体が飛びかかってくるのを迎え撃った。


牙が喉元へ届く寸前、身体を捻って回避する。


そのまま竹刀を恐竜の側頭部へ叩き込んだ。


鈍い音と共に恐竜が横転する。


しかし倒れた一体の背後から、さらに二体が飛び出してきた。


『右と後ろ!』


伏見の声に従い、剣持は地面を蹴る。


神力によって強化された跳躍で恐竜たちの頭上を越え、着地と同時に一体の背中へ竹刀を振り下ろした。


「夕陽!」


「分かってる!」


夕陽の目に数秒先の未来が映る。


「北見、三歩後ろ!」


「はい!」


北見が言われた通り後方へ跳んだ直後、それまで立っていた場所を太い角が突き抜けた。


岩陰から姿を現したのは、巨大な角と襟飾りを持つ四足歩行の恐竜。


勢いを止められないまま、岩壁へ頭から激突する。


「今です!」


北見は恐竜の背へ飛び乗ると、呪力を込めた拳を振り下ろした。


「熱血! 全力の一撃!」


拳が叩き込まれ、恐竜の巨体が地面へ沈む。


「なにそのダサい名前」


剣持が呆れたように言う。


「俺が叫べばなんでも必殺技なんです!」


「喋ってる場合じゃない!」


夕陽の警告。


天井付近から翼を持つ恐竜が急降下してくる。


鋭い嘴が北見の肩を狙う。


その直前、一本の水の柱が地面から吹き上がった。


翼竜は水流に巻き込まれ、天井近くまで押し戻される。


「天井にもいるぞ!」


イブラヒムは水で作った足場の上へ立ち、洞窟全体を見渡していた。


小型の肉食恐竜。


巨大な角竜。


硬い装甲に覆われた恐竜。


翼を広げて空中から襲いかかる翼竜。


本間ひまわりの周囲に開いた亜空間から、次々と異なる種類の恐竜が召喚されていく。


「何体出せるんだよ、あいつ!」


イブラヒムが悪態をつく。


「ひまちゃん、今日は気合い入ってるね」


ラトナ・プティはその隣で、どこか他人事のように戦況を眺めていた。


「そらそうや!」


ひまわりは笑顔を浮かべたまま、次の恐竜を呼び出す。


「ドラゴン捕まえる仕事なんて、滅多にないからな!」


「わしは捕まるつもりなどないぞ!」


ドーラが怒鳴る。


しかし、イブラヒムが片手を伸ばして制止した。


「あんたはまだ動くな」


「じゃが――」


「こいつらが何を狙ってるか分からない以上ターゲットであるあんたを前に出すことはできない」


ドーラは不満そうに眉を寄せたが、ひとまずその場へ留まった。


調査隊は恐竜の群れを倒すのではなく、動きを止めながら数を減らしていく。


フレンが突進してきた角竜を真正面から受け止め、その巨体を横へ投げ飛ばす。


メリッサの歌声が洞窟内へ響き、仲間たちの身体能力と集中力を高める。


魁星は何もない空間へ扉を作り、突進してきた恐竜を別の場所へ誘導する。


榊は襲いかかってきた小型恐竜へ手を向けた。


「止まれ!」


ライバースキル『執行命令』。


明確な命令を受けた恐竜の身体が、空中で僅かに硬直する。


その一瞬を逃さず、剣持が竹刀で恐竜を弾き飛ばした。


「助かりました!」


「長くは止められないから気をつけて!」


そう言って榊は次の恐竜へ向き直る。


恐竜たちの動きは強力だったが、調査隊もそれぞれの能力を連携させ、少しずつ数を減らしていた。


イブラヒムはその様子を確認すると、両手を前へ突き出した。


空中に幾つもの水の槍が形成される。


「雑魚は任せた、俺はあっちを狙う」


水の槍が一斉に本間とプティへ向かって射出された。


鋭く尖った水流が、岩を削りながら二人へ迫る。


しかし。


プティが小さく息を吐き、一歩前へ出た。


「ライバースキル――『ドーム』」


彼女を中心として、半透明の球状バリアが一瞬で広がる。


水の槍がドームへ直撃した。


その瞬間、水流は何か見えない壁へ弾かれ、全て四方へ飛び散った。


「無傷か」


イブラヒムが目を細める。


続けて水を圧縮し、先ほどよりも威力の高い水弾を放つ。


轟音を伴って水弾がドームへ激突する。


しかし、半透明の壁は揺らぐことすらなかった。


「残念だけど外からの攻撃は無駄だよ」


プティが笑う。


「このドームは、外側からの攻撃を全部防ぐから」


「全部?」


フレンが驚く。


「どれだけ強くても?」


「試してみる?」


プティの挑発に、フレンの目が輝いた。


「じゃあ遠慮なく!」


「待て、フレン!」


イブラヒムの制止も聞かず、フレンは地面を蹴る。


全身の力を乗せた剣がドームへ叩き込まれた。


ドォン!


洞窟全体が揺れるほどの衝撃。


しかし、ドームの表面には傷一つ付いていなかった。


反動でフレンの身体が後方へ弾かれる。


「硬っ!」


空中で姿勢を整えながら着地する。


夕陽はドームを観察し、冷静に分析した。


「外からの攻撃は無効、中へ入れば攻撃できるかもしれない」


「さあね」


プティは答えを真面目に答える気はない。


ドームの周囲には、ひまわりが召喚した恐竜が集まり始めていた。


近づこうとすれば、恐竜たちに阻まれる。


その隙にひまわりとプティは安全なドームの中から次の攻撃を準備できる。


攻防一体。


単純ながら厄介な組み合わせだった。


「ぷぅ、さすがや!」


ひまわりは満足そうに頷いた。


「せやけど、ちょっと恐竜減ってきたなぁ」


周囲を見回す。


最初に召喚された小型恐竜の多くは倒れ、巨大な恐竜もフレンや北見たちによって動きを止められていた。


「この人たち、思ったより強いな。」


「当たり前だ」


イブラヒムが水の刃で翼竜を叩き落とす。


「ここで引くなら追わないからドーラさんを諦めて帰れ」


「うーん」


ひまわりは腕を組んで考える。


「それは無理やな」


そして、先ほどまでの明るい笑顔を崩さないまま、右手を高く掲げた。


「数でダメなら」


足元に広がっていた亜空間が、一度閉じる。


洞窟内に静寂が訪れた。


直後、先ほどまでとは比べものにならないほど巨大な光の裂け目が開いた。


空気が震え、岩壁から細かい石が崩れ落ちる。


裂け目の向こう側から響く足音だけで、地面が上下に揺れ始めた。


『刀也君』


伏見の声に緊張が滲む。


『今までのとは明らかに違う』


「ひまちゃん」


プティが僅かに不安そうな声を出す。


「ここでそれ出して、洞窟崩れない?」


「多分大丈夫や!」


「また多分?」


「大丈夫やって!」


ひまわりは両腕を広げた。


「出てこい!」


「うちの最強の恐竜!」


亜空間から巨大な頭部が姿を現す。


鋭い牙が並ぶ巨大な口。


岩のような皮膚。


小型恐竜など一口で飲み込めそうな巨体。


そいつが洞窟の地面へ足を下ろした瞬間、凄まじい衝撃が一行を襲った。


「ギガノトサウルス!」


ひまわりの声と同時に、巨大恐竜が咆哮を上げる。


音だけで空気が震え、剣持たちの身体が押し返された。


「でかすぎるでしょ……」


夕陽が息を呑む。


ファイアードレイク姿のドーラと比べても遜色はない。


人間が戦う相手としてはあまりにも巨大だった。


ギガノトサウルスは一行を見下ろすと、何の躊躇もなく突進した。


「散れ!」


イブラヒムが叫ぶ。


巨大な足が地面へ叩きつけられる。


剣持は伏見の神力で跳躍し、踏み潰される寸前で回避した。


しかし着地するより早く、巨大な尾が横薙ぎに振るわれる。


「下!」


夕陽の未来視。


剣持は地面へ身体を伏せる。


頭上を尾が通過し、その衝撃波だけで身体が転がった。


「ぐっ!」


北見とネスも吹き飛ばされ、岩壁へ叩きつけられる。


フレンは正面からギガノトサウルスへ挑み、突進を受け止めようと両腕を構えた。


「うおおおおっ!」


巨大な頭部とフレンの両腕が衝突する。


足元の岩盤が一気に砕けた。


「重っ……!」


フレンの身体が少しずつ後方へ押されていく。


先ほどドーラの尻尾を受け止めた疲労も残っている。


ついに踏ん張りが利かなくなり、フレンは弾き飛ばされた。


「フレン!」


イブラヒムが水の足場を作り、空中で彼女を受け止める。


ギガノトサウルスは止まらない。


大きく口を開き、魁星とメリッサへ噛みつこうとする。


魁星が空間へ鍵を差し込む。


「開け!」


二人の前へ扉が現れる。


魁星とメリッサが扉へ飛び込んだ直後、巨大な顎が閉じた。


牙が扉ごと空間を噛み砕く。


魁星たちは別の場所に作られた出口から転がり出た。


「今のはかなり危なかった」


「助かったよぉ、魁星」


メリッサは立ち上がると、再び歌い始める。


しかしギガノトサウルスの咆哮が歌声をかき消す。


強化を受けても、正面から対抗するには力の差が大きすぎる。


「こっち!」


夕陽が仲間へ指示を飛ばす。


「次は右足で踏みつける!」


未来視によって攻撃を予測できても、巨体から放たれる攻撃範囲が広すぎる。


回避するだけで精一杯だった。


剣持はギガノトサウルスの側面へ回り込み、脚へ触れようとする。


(虚空が効けば……!)


『恐竜そのものに効くかは分からない!』


(召喚された存在なら、ひまわりの能力で作られてるはずだ!)


剣持は地面を蹴り、巨大な脚へ手を伸ばす。


しかし、ギガノトサウルスはその動きを察知したように身体を捻った。


巨大な頭部が剣持へ迫る。


視界を埋め尽くすほどの牙。


「剣持!」


夕陽が叫ぶ。


間に合わない。


そう思った瞬間。


赤い影が横から飛び込んだ。


ドォン!


巨大な衝撃音と共に、ギガノトサウルスの頭部が大きく横へ弾かれた。


剣持は地面へ転がりながら、何が起きたのか確認する。


そこに立っていたのは、ドーラだった。


小さな拳を握り締め、ギガノトサウルスを睨みつけている。


「ドーラさん……」


「もう黙って見てはおれん」


ドーラの身体から凄まじい熱気が溢れ出す。


「わしを守るために、お前らが傷つく必要はない」


「でも、狙いはお前だぞ!」


イブラヒムが叫ぶ。


「分かっておる!」


ドーラは地面を強く蹴った。


その姿が一瞬で消える。


次の瞬間には、ギガノトサウルスの顔面の前へ現れていた。


「まず一発じゃ!」


人間の姿とは思えないほど強烈な拳が、恐竜の鼻先へ叩き込まれる。


ギガノトサウルスの巨体が後方へ仰け反った。


「えっ」


フレンが目を丸くする。


ドーラは着地すると、さらに恐竜の脚を掴んだ。


「こんなものか!」


そのまま力任せに持ち上げる。


自分の何十倍もの巨体を軽々と振り回し、地面へ叩きつけた。


洞窟全体が激しく揺れる。


ギガノトサウルスが起き上がろうとするが、ドーラはその頭部へ飛び乗る。


「わしの寝床で暴れるでない!」


拳を何度も振り下ろす。


一撃ごとにギガノトサウルスの頭部が地面へ沈んでいく。


「いや、強すぎるだろ」


イブラヒムが呆然と呟く。


やがてギガノトサウルスは完全に動かなくなり、光の粒子となって亜空間へ消えていった。


ひまわりの表情から、初めて笑顔が消える。


「うそやろ……うちの最強ちゃんやったのに」


「だからドラゴン相手に正面からやるの、無理だって言ったじゃん」


プティが困ったように言う。


ドーラは二人を睨むと、一直線にドームへ突進した。


「次はおぬしらじゃ!」


拳がドームの表面へ叩き込まれる。


先ほどフレンの全力でも傷一つ付かなかったバリア。


その表面に、細い亀裂が走った。


「え?」


プティの顔色も変わる。


ドーラはもう一度拳を振り上げる。


二撃目。


亀裂が大きく広がる。


ガラスのような音が洞窟内へ響いた。


「無敵じゃなかったのか?」


挑発的にドーラが問う。


「普通は壊れないよ!」


プティは焦った様子でバリアへ両手を向ける。


「このドラゴンの力がおかしい!」


ドーラが三度目の拳を構える。


「これで終わりじゃ!」


「待って!」


ひまわりが突然両手を上げた。


「降参!」


ドーラの拳が止まる。


「……何じゃと?」


「負け負け!」


ひまわりは困ったように笑う。


「これ以上やっても勝てへん。うちらの負けや!」


プティもドームを維持したまま頷く。


「ひまちゃんの言う通り、もう戦わないから。」


突然の降参宣言。


剣持たちは警戒を続けながらも、僅かに構えを緩めた。


「最初からそうしておけばよかったのじゃ」


ドーラは鼻を鳴らす。


その時。


夕陽の視界に、未来が映った。


ドーラの足元。


地面の下から現れる小さな影。


牙、毒、そして倒れるドーラ。


「ダメ!」


夕陽が叫ぶ。


「ドーラさん、そこから離れて!」


ドーラが振り返る。


「何じゃ?」


一瞬、遅かった。


ドーラの足元へ小さな亜空間が開く。


そこから、へびのような恐竜たちが一斉に飛び出した。


色鮮やかな体表と鋭い牙。


毒を持つ恐竜が、ドーラの脚へ次々と噛みつく。


「ぐっ……!」


ドーラは慌てて振り払う。


しかし既に牙は皮膚へ突き刺さっていた。


「何を……」


ドーラの身体が大きく揺れるて膝から力が抜け、その場へ倒れ込んだ。


「ドーラさん!」


剣持が駆け出す。


同時に、ひまわりの笑顔が戻った。


「ごめんなぁ、降参は嘘や!」


「ひまちゃん、悪い顔してる」


プティが呟きながらドームを解除する。


ひまわりは新たな亜空間を開いた。


そこから巨大な翼を持つプテラノドンが飛び出す。


プテラノドンは気絶したドーラの身体を脚で掴み、そのまま翼を広げた。


「させるか!」


イブラヒムが水の槍を放つ。


プティが再びドームを展開し、水の槍を防ぐ。


その僅かな時間で、ひまわりとプティもプテラノドンの背へ飛び乗った。


「ほな、ドラゴンはもらってくで!」


「待て!」


剣持は神力を使い、プテラノドンへ向かって跳躍する。


しかしプテラノドンは巨大な翼を羽ばたかせ、一気に高度を上げた。


剣持の指先は僅かに届かない。


そのまま地面へ着地する。


「追うぞ!」


イブラヒムが叫ぶ。


魁星はすぐに鍵を取り出し、空間へ差し込もうとする。


フレンと北見も、飛び去るプテラノドンを追って走り出した。


洞窟の奥へ向かって飛ぶ巨大な影。


その脚には、意識を失ったドーラが捕らえられている。


調査隊は彼女を奪い返すため、一斉にその後を追いかけはじめた。

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