第二十五話 調査開始
コーヴァス支部へ到着してから数時間。
剣持と夕陽はそれぞれ用意された部屋へ荷物を運び込み、ロビーで一息ついていた。
「思ったより広い部屋だったね」
ソファへ腰掛けた剣持が言う。
玄関の外には砂漠の街並みが広がり、噴水から流れる水が陽の光を反射していた。
「ホテル並みね」
そう言って小さく伸びをする。
「お二人さん」
声がする方へ顔を向けると榊が立っていた。
先ほどと同じように姿勢を正し、穏やかな笑みを浮かべている。
「イブラヒム支部長が呼んでるから会議室に集合ね」
「分かりました」
二人はロビーを後にした。
---
コーヴァス支部・会議室。
長机を囲むように全員が席へ着いていた。
イブラヒムは椅子へ深く腰掛けながら資料を机へ広げる。
「じゃあ始めるぞ」
部屋の照明が少し落ち、スクリーンへ地図が映し出された。
「今回調査する場所はここ」
レーザーポインターが指したのは、コーヴァス帝国の西側。
街から少し離れた山岳地帯だった。
「この洞窟。一週間くらい前から、クヲンに酷似した反応が断続的に出てる」
地図の一点が赤く点滅する。
「ただし普通のクヲンとは違う。反応が出ても十分もしないうちに消えるし俺たちが現場へ急行しても足取りすら掴めなかった」
北見が勢いよく手を挙げた。
「つまり……幻ですか!」
「分からん」
イブラヒムは即答した。
「だから調べるんだ」
フレンが腕を組む。
「クヲンじゃない可能性もあるってこと?」
「十分にある」
「誰かが意図的に反応だけ作ってる可能性もある」
メリッサが静かに続ける。
「情報が少なすぎるんだよねぇ」
「だから現地確認」
魁星も頷いた。
「洞窟の構造は前回の調査で大まかは把握済み。でも内部はまだ未知」
イブラヒムが資料を閉じる。
「無茶は禁止だ。前提として今回は討伐じゃなく調査、怪しいものを見つけたら勝手に突っ込まず報告」
その言葉に剣持は少しだけ身を引き締めた。
以前までなら、自分一人で飛び込んでいたかもしれない。
イブラヒムはそんな剣持を一瞬だけ見てから言葉を続ける。
「……以上、今日は移動で疲れてるだろうから明日の朝から本格的に調査を始める。今日は各々自由で」
その一言で会議は終了した。
---
「よーし!」
フレンが勢いよく立ち上がる。
「ちょっと訓練場行ってくる!」
その姿を見た剣持は立ち上がった。
「待ってください!」
「ん?」
「僕にも戦い方を教えてもらえませんか?」
フレンは満面の笑みを浮かべる。
「もちろん!」
「任せて!」
訓練場。
「まずは細かいこと考えない!」
フレンが木剣を構える。
「全力!」
「以上!」
「え?」
次の瞬間。
ドォン!!
地面が砕けるほどの踏み込み。
剣持は慌てて受け止めるが、腕ごと吹き飛ばされた。
「ぐっ!」
「今の避けなくていい!」
「真正面から勝つ!」
「いやいやいや!」
「相手の攻撃を読むとか!」
「駆け引きとか!」
「そんなの殴れば終わる!」
「終わりません!」
再び豪快な一撃。
剣持は何とか受け流す。
『刀也君』
(ああ、この人は参考にならないな)
『うん』
そこへ訓練場へ駆け込んできた北見が二人を見つける。
「あっ!」
「剣持さん!」
「訓練ですか!」
「俺も混ぜてください!」
フレンは笑顔で木剣を放り投げる。
「じゃ、あとは若者同士頑張って!」
「え?」
「私はお腹空いた!」
そう言い残して去っていく。
北見は苦笑した。
「……フレン先輩らしいですね」
剣持も苦笑いを浮かべる。
「何となく人となりが分かりましたよ」
北見は少し微笑むもすぐに真剣な表情になった。
「フレン先輩ってあんな感じですけど、普段は自分のライバ―スキルをほとんど使わず自力だけでクヲンを余裕で倒せる超人なんですよ」
剣持は北見の言葉を静かに聞いた。
「自分は未熟なんでライバ―スキルもまだ発現してないんです。だから、基本的な体術と呪術を使って戦うんですけど。フレン先輩を見るたびに力不足を実感させられます」
「……その気持ち分かる」
剣持は自分の拳を見つめた。
「僕も伏見の力が無かったら多分今頃は……」
『……』
伏見はあえて何も言わなかった。
「だけど、気づいたんすよ。別に今すぐにフレン先輩みたく強くなる不可能だって」
北見は真っ直ぐと剣持を見る。
「俺は俺のペースで最強になります。だから剣持さんも一緒に高め合いましょう!」
「……ああ、そうだな」
剣持は何だか照れ臭くなりつつも、自分の中の劣等感みたいなものが少し薄れた気がした。
「ちなみに、フレンさんのライバ―スキルってなんなの?」
「それはですね。『狂人化』って言って人間としての知性をなくすことでさらに身体能力があがるらしくて――」
その日、二人は談笑を交えながら基礎的な剣術や体術の訓練をして夕暮れまで汗を流した。
---
翌朝。
支部のロビーには全員が集まっていた。
イブラヒムが人数を確認する。
「全員いるな」
魁星が一歩前へ出る。
「じゃあ開けます」
一本の古びた鍵を取り出し、何もない空間へゆっくり差し込む。
「何をしているんですか?」
剣持が聞くとイブラヒムが答える。
「あれは、魁星のライバ―スキルだ」
剣持はそう聞くと魁星の動作をまじまじと見る。
「魁星は自身の持つ鍵でなんでも開けたり閉めたりできるんだと。それだけじゃなく、何もない空間に鍵を刺すと自分が一度行った場所につながる扉を開けることができる便利な能力だ」
カチリ。
鍵が回る音が響く。
目の前の空間に一本の亀裂が走った。
やがて巨大な扉が静かに姿を現す。
扉の向こうには薄暗い岩肌。
冷たい空気がこちらへ流れ込んできた。
「繋がった」
魁星が静かに告げる。
イブラヒムは立ち上がり、全員を見渡した。
「それじゃ。コーヴァス支部合同任務」
「行くぞ」
剣持と夕陽は頷き、仲間たちと共に未知の洞窟へ足を踏み入れた。




