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2O・3O(仮)  作者: 夜何時
第三章
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第二十三話 コ―ヴァス帝国支部

遠く離れたコーヴァス帝国。


街の中心には、砂漠の景色には似つかわしくない巨大で豪華な建造物がそびえたっていた。


エニカラ・コーヴァス帝国支部。

帝国の治安維持とクヲンの調査を担当するその施設は、古い宮殿を改装して使用されていた。

外観には帝国特有の装飾が残されている一方、内部には最新の通信設備と分析機器が並んでいる。


その最上階。


支部長室の長椅子へ、一人の青年が寝転がっていた。


彼の名前はイブラヒム。


かつて石油によって莫大な財産を築いた元石油王。


現在は資源事業から離れているものの、その振る舞いには裕福な家庭で育った者特有の余裕が残っていた。


支部長という立場にありながら、机へ向かって仕事をする姿はほとんど見られない。


今も長椅子へ横になり、端末を片手で眺めている。


画面には、本部の社から届いた通信記録が表示されていた。


内容を読み終えたイブラヒムは、面倒そうに息を吐く。


「新人二人、こっちに寄越すってさ」


支部長室には、既にコーヴァス支部の主要メンバーが集まっていた。


最初に反応したのは、帝国騎士のフレン・E・ルスタリオだった。


「新人!?」


椅子から勢いよく立ち上がる。


「ということは、私が先輩として格好いいところを見せる時が来たってこと!?」


腰へ下げた剣へ手を置き、胸を張る。


元気だけは十分だった。


しかし、周囲の誰もその言葉には反応しない。


「新人さん、かわいそう」


部屋の隅で楽器の調整をしていたメリッサ・キンレンカが、おっとりと呟く。

吟遊詩人であるメリッサは、フレンとイブラヒムと幼いころからの顔なじみで何でも言い合える仲だった。


「なんで!?」


フレンが振り返る。


「私はちゃんと教えられますよ!」


「何を?」


「戦い方!」


「フレンの戦い方ただの力任せじゃん」


「それが一番強いの!」


得意げに答えるフレン。


その隣では、北見遊征が拳を握り締めていた。


「新たな仲間との出会い!」


声が必要以上に大きい。


「そして未知の土地での共同任務! これは間違いなく、新たな物語の始まりですね!」


北見は新米呪術師でありながら、危険な任務へ進んで飛び込む熱い性格をしていた。


「俺が二人を全力で歓迎します!」


「やめとけ。初日に疲れさせるな」


イブラヒムが止める。


部屋の反対側では、魁星がテーブルへ地図を広げていた。


普段は帝国内で鍵屋を営んでいる青年。


その指先では、古びた鍵が回されている。


「迎えはどうします?」


魁星が尋ねる。


「僕が車を出しましょうか」


室内が静かになった。


フレンの表情から笑顔が消える。


メリッサは楽器を持ったまま、ゆっくりと魁星から目を逸らした。


北見ですら拳を下ろす。


魁星は鍵を扱う技術に関しては一流だった。


一方で、車の運転技術には致命的な問題がある。


過去には直線道路で街灯へ衝突し、何もない砂漠で車を横転させたこともあった。


「絶対やめろ」


イブラヒムは即答した。


「新人が任務前に死ぬ」


「そこまでではないですよ」


「前回、駐車場から出るだけで壁三枚壊しただろ」


「壁の位置が悪かったんです」


もちろん壁は動かない。


誰も指摘しなかった。


最後に、部屋の壁際へ静かに立っていた榊ネスが口を開く。


「お迎えでしたら、(わたくし)が手配いたしましょう」


整えられた服装。落ち着いた立ち姿。

礼儀正しい振る舞いを崩さない青年。


「安全な車両と運転手を確保いたします」


「そのお仕事モードは気持ちわりぃけど頼むわ」


イブラヒムは端末を顔の上へ乗せる。


その姿だけを見れば、今にも眠り始めそうだった。


「で、新人ってどんな奴なんですか?」


フレンが尋ねる。


イブラヒムは端末を僅かに持ち上げ、社から送られてきた資料へ目を通す。


「剣持刀也。神に憑依されてて、相手の能力を一時的に消せるらしい」


フレンの目が輝く。


「強そう!」


「もう一人が夕陽リリ。未来が見える」


「もっと強そう!」


「感想が全部それだな」


イブラヒムは呆れたように言う。


資料には二人が関わった事件も記録されていた。


クヲンとの初戦闘。


雨森小夜誘拐事件。


プロレス会場での巨大クヲン襲撃。


正式に訓練を始めて間もないにもかかわらず、既に幾つもの実戦を経験している。


特に剣持刀也。


負傷回数が異常に多い。


戦況を見ずに突っ込むタイプというわけではない。


むしろ、周囲の状況を考えた上で、自分が傷つくことを選んでいるように見える。


人を守るためなら、自分の身体を平然と差し出す。


そういう人間は、強くなる。


同時に、いつか取り返しのつかない壊れ方をする。


イブラヒムは面倒そうな表情のまま、資料の最後まで目を通した。


「とりあえず」


端末を机へ置く。


「二人ともまだ新人だから、変なこと教えんなよ」


その視線がフレンへ向く。


「なんで私を見るんですか!」


「一番教えそうだから」


続いて北見。


「熱血指導もいらない」


「ですが、心を燃やすことは成長に必要です!」


「静かに燃やせ」


魁星へ視線を移す。


「運転すんな」


「まだ言います?」


最後に榊を見る。


「俺が言うことじゃないが賭け事には誘うな」


榊は微笑んだ。


「私はそのようなことはいたしません」


机の端には、何かの整理券らしきものが置かれていた。


誰も信じなかった。


メリッサは楽しそうに小さく笑う。


騒がしい支部の仲間たちを眺めながら、イブラヒムは再び長椅子へ身体を沈めた。


本部から来る新人。


不可解なクヲン反応。


帝国で何かが動いている。


本来であれば、自分たちだけで調査できる程度の任務だ。


だが、社がわざわざ新人を送り込むということは、単なる訓練だけが目的ではないのかもしれない。


イブラヒムは窓の外へ目を向ける。


クヲン反応が確認された方角。


乾いた大地の向こう。


砂の下に埋もれた何かが、静かに目覚めようとしていた。


「また面倒なことにならなきゃいいけどな」


イブラヒムの呟きは、賑やかな支部長室の中へ消えていった。

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