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2O・3O(仮)  作者: 夜何時
第二章
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第十七話 暗躍する者

文の書き方変えます

どこかの街の地下深く。


人々が生活する世界とは切り離されたような巨大な空間に、一つの基地が存在していた。


コンクリートの壁面には無数のモニターが並び、そのどれにも街中へ設置された監視映像や、各地で発生したクヲン反応が映し出されている。


静かな空間だった。


機械音だけが一定のリズムを刻み、その中心に置かれた椅子へ、一人の青年が腰掛けている。


叶。


ゲーマーズを束ねる男は、肘掛けへ頬杖をつきながら、一枚の報告書へ目を通していた。


そこに書かれている内容は、短く、そして簡潔だった。


『雨森小夜 誘拐任務 失敗』


赤の組織。


魔使マオ、えま★おうがすと、ルイス・キャミー。


三人ともエニカラに拘束されたことも、すでに確認されていた。


叶は報告書を机へ置く。


怒る様子も、落胆する様子もない。


むしろ、その表情には少しだけ退屈そうな色が浮かんでいた。


「まぁ、あの子たちならこんなもんかな」


独り言のような呟きが静かな部屋へ溶けていく。


赤の組織は、能力だけを見れば決して弱くはない。


しかし、計画性も経験も不足していた。


最初から成功率は決して高くないと、叶自身も理解していたのである。


彼にとって重要なのは、成功か失敗かではない。


雨森小夜の周囲に誰が現れるか。


エニカラがどれほど動くのか。


そして――剣持刀也。


その存在を確認できたことの方が、遥かに価値があった。


叶はモニターへ映る剣持の戦闘記録を眺める。


神の力。


未知のライバースキル。


どちらも想定以上だった。


特に最後に発現したライバ―スキル。


解析班が何度映像を確認しても、能力の本質までは掴めていない。


だからこそ面白い。


未知ほど、人を惹きつけるものはない。


「じゃあ、次はもう少し派手にいこうか」


叶は椅子から立ち上がり、部屋の中央へ歩く。


そこには巨大なガラス製の培養槽がいくつも並んでいた。


その中で眠るように浮かんでいるのは、人間とは似ても似つかない巨大な怪物。


そう、クヲンだ。


これまで街で確認されてきた個体とは比べものにならないほど大きく、全身を覆う漆黒の外殻は、まるで重厚な鎧のようだった。


まだ目を閉じたまま動くことはない。


だが、その身体から漏れ出す圧迫感だけで、この怪物が規格外の存在であることを物語っていた。


「この子も連れて行こう」


叶は培養槽を軽く叩く。


眠る巨体は微かに震えた。


まるで命令へ反応したようだった。


その直後、自動扉が開く。


軽快な足音とともに、一人の女性が部屋へ入ってきた。


「呼んだ?」


サイドテールを揺らしながら現れたのは、早瀬走だった。


どこか気怠そうな笑みを浮かべながらも、その身体には常人離れした脚力を感じさせるしなやかな筋肉が宿っている。


ライバースキル『超速』。


誰の目にも止まらない速度で駆け抜け、一瞬で敵を切り裂く。


その速度は、自分自身の身体さえ傷つけるほどだった。


「お願いがあるんだけど」


「また仕事ぉ? ウチ、この前も走ったばっかやで」


口では文句を言いながらも、断る気は最初からないらしい。


叶は笑みを浮かべたまま視線を隣へ向ける。


そこには、いつの間にか一人の少女が立っていた。


立伝都々。


目を輝かせ、今にも飛び跳ねそうなほど落ち着きがない。


「戦い!? 戦い!? また戦うの!? 誰!? どこ!?」


返事を待つより先に興奮している。


彼女のライバースキル『おののおの』は、相手に合わせて姿を変える巨大な斧を呼び出す能力。


どんな敵であろうと真正面から叩き潰すことしか考えていない、まさに戦闘狂だった。


「二人には雨森小夜を迎えに行ってもらう」


「迎えに?」


「マスクドいちからのプロレスショー」


叶は机の上へ置かれていた一枚のチラシを二人へ見せた。


人気覆面レスラー、マスクドいちから。


近々開催される大型イベント。


会場には数万人規模の観客が集まり、その舞台裏には雨森小夜もいる予定だった。


「人が多い場所なら、エニカラも全部は守れないでしょ?」


静かな口調だった。


だが、その一言だけで計画の全容が伝わる。


混乱。


悲鳴。


逃げ惑う観客。


巨大クヲンを放てば、それだけで会場は地獄になる。


その隙に雨森小夜だけを奪えばいい。


単純で、だからこそ止めることが難しい作戦だった。


「あと一人くらい欲しいかな」


叶がそう呟くと、部屋の隅から小さく舌打ちが聞こえた。


「……はぁ」


暗い部屋の奥。


大量のモニターに囲まれたソファで、一人の青年が寝転がっていた。


ゲーム機を握ったまま画面から目を離そうとしない。


葛葉。


昼夜逆転生活を送り、ゲームさえあれば満足する吸血鬼だった。


「俺?」


「暇でしょ?」


「暇だけど外出るのダルい」


ゲームを続けたまま即答する。


「ウチら二人で十分ちゃう?」


早瀬も苦笑する。


しかし叶は首を横に振った。


「今回はちょっと面白い子がいるんだよ」


「……」


「剣持刀也」


その名前が部屋へ落ちた瞬間だった。


ゲームを操作していた葛葉の指が止まる。


数秒の沈黙。


やがて彼はゆっくりと身体を起こした。


「……あぁ」


興味なさそうだった瞳に、僅かな光が宿る。


「そいつが例の?」


「そう」


「神様入りで、変な能力持ち」


叶は静かに頷いた。


葛葉は口元を吊り上げる。


退屈そうだった吸血鬼の表情は、獲物を見つけた肉食獣のような笑みに変わっていた。


「なら」


ゲーム機を放り投げる。


「遊びついでに行くか」


その一言で、計画へ最後の駒が加わった。


巨大クヲン。


早瀬走。


立伝都々。


そして葛葉。


四つの戦力が、一つの会場へ向かおうとしていた。


数日後。


街最大級の歓声が響くプロレス会場で、誰も知らないもう一つの戦いが幕を開ける。

剣持刀也と三枝明那が楽しみにしている休日は、平穏な思い出では終わらない。

雨森小夜を巡る争いは、新たな敵を迎え、さらに大きな渦となって動き始めようとしていた。

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