表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2O・3O(仮)  作者: 夜何時
第一章
PR
16/55

第十五話 相羽隊

「夕陽リリ」


「何?」


「お前をエニカラに勧誘する」


 夕陽はしばらく社を見つめた。


「私を?」


「ああ」


「何で?」


「ライバースキルが発現したからだ」


「能力を持ってたら全員勧誘するの?」


「全員じゃない」


 社ははっきり答える。


「能力の内容、本人の性格、危険への関わり方。いろいろ見て判断する」


「私の性格も判断されたんだ」


「工場までついてきて、能力が発現した直後に戦闘へ参加した」


「それだけ聞くと印象悪くない?」


「かなり無茶する人間だとは思ってる」


「否定できないね」


 剣持が言う。


「剣持は黙ってて」


「でも、そのまま何も知らない一般人として放置する方が危険だ」


 社は続ける。


「未来視は強力な能力だ。ゲーマーズに知られれば狙われる可能性もある」


「もう知られてる?」


「赤の組織がどこまで報告できてるか分からない。だが、工場に監視役がいなかった保証もない」


 夕陽の表情が僅かに強張る。


「それに、お前自身もこのまま引き下がる気はないだろ」


「……」


「剣持に何が起きたのか知りたい。雨森が狙われる理由も気になる。ゲーマーズが何者かも」


「勝手に決めつけないで」


「違うか?」


 夕陽は答えなかった。

 社はそれを肯定と受け取ったようだった。


「チャイカや他の幹部とも話した。全員、勧誘に賛成だ」


「もうそこまで話したの?」


「お前が寝てる間にな」


「断る可能性もあるのに」


「断るなら、それでいい」


 社は肩をすくめる。


「強制じゃない。普通の高校生へ戻りたいなら、こちらで可能な限り保護する」


「エニカラに入ったら?」


「学校生活を続けながら、能力の訓練と任務への参加」


「剣持と同じ?」


「基本的にはな」


 夕陽は隣のベッドを見る。

 剣持は何も言わず、夕陽を見ていた。


「何?」


「いや」


「何か言いたそう」


「僕は、無理に入らなくてもいいと思う」


「私も巻き込まれた以上は剣持を一人で変な組織に置いておけない」


 夕陽は即答した。

 室内が静かになる。


「変な組織って言われたぞ」


 社が甲斐田を見る。


「否定しづらいですね」


「甲斐田は否定しろよ」


「メイド服のエルフがリーダーですから」


「それはそうだけど」


 夕陽は剣持を睨む。


「自分一人で何でもしようとして、また勝手に怪我するでしょ」


 夕陽は社へ向き直る。


「だから私も所属する」


「本当にいいのか?」


「いい」


「未来視の訓練は楽じゃない。任務に出れば、今回みたいに怪我することもある」


「分かってる」


「死ぬ可能性もゼロじゃない」


「それも分かってる」


 社は夕陽の目をじっと見る。

 夕陽は視線を逸らさなかった。


「剣持を見張るためだけならやめとけ」


「それだけじゃない」


「他には?」


 夕陽が自分の拳を見つめる。


「次は、見えた未来をちゃんと自分の力で変えられるようになりたい」


 社の口元に、僅かに笑みが浮かぶ。


「分かった」


 端末を操作する。


「正式な手続きは身体が治ってからだ。それまでは仮所属扱いになる」


「もう所属になるの?」


 剣持が隣で少し笑う。


「これで夕陽も同僚だね」


「先輩面しないで」


 夕陽は不満そうに頬を膨らませた。

 そのときだった、救護室の外から激しい足音が近づいてくる。

 廊下を走っている。

 しかも、一人ではないような大きな音。


「何だ?」


 社が扉へ顔を向ける。

 甲斐田も椅子から立ち上がる。

 足音は救護室の前で止まった。

 一瞬の静寂。

 次の瞬間、扉が勢いよく開かれた。


「みんな無事ですかーっ!?」


 明るい声が部屋中へ響き渡る。

 入口に立っていたのは、アイドルのような華やかな衣装に身を包んだ女性だった。


「ういはさん、病室です!」


 甲斐田が慌てて注意する。


「静かにしてください!」


「あっ」


 女性――相羽ういはは口元を両手で押さえた。

 数秒だけ静かになる。

 そして、小声のつもりらしい声量で言った。


「みんな無事ですかー?」


「全然小さくなってねぇよ」


 社が頭を抱える。

 夕陽は突然現れた女性を見つめた。


「誰?」


「あれが相羽隊の隊長」


 社が答える。


「相羽ういはだ」


「隊長?」


 剣持も目を丸くする。

 長尾と弦月の上司。

 そう聞いて想像していた人物とは、あまりにも雰囲気が違う。

 相羽は二人のベッドを見比べた後、満面の笑みを浮かべた。


「よかった! 二人とも起きてる!」


 そのまま一歩、室内へ踏み出す。

 足元が僅かに沈むと硬い床へ、小さな亀裂が走る。


「……え?」


 剣持が床を見る。

 夕陽も見る。

 相羽は何も気づいていない様子で、元気よく拳を握った。


「それじゃあ、事件の詳しい話を聞かせてもらいますね!」


 社は深いため息をつく。


「まず床を壊したことを説明しろ」


「壊してませんよ?」


「割れてるだろ」


「最初からじゃないですか?」


「今割れたんだよ」


「…てへ!」


 相羽の明るい笑い声が、静かなはずの救護室へ響いた。


「というわけで!」


 相羽ういはは救護室の中央で、勢いよく両腕を広げた。


「二人ともエニカラに所属するなら、ウチの隊に入りませんか?」


「どういうわけだよ」


 ベッドの上で、剣持刀也が呟く。

 相羽は先ほど救護室へ飛び込んできたときと変わらない笑顔を浮かべている。

 その足元には、本人が踏み込んだ際にできた小さな亀裂が走っていた。


「相羽隊って、長尾と弦月がいる隊だよね」


 夕陽リリが尋ねる。


「そうです!」


 相羽は力強く頷いた。


「長尾くんと弦月くん。それから私を中心に活動している、明るく楽しく元気いっぱいの隊です!」


「説明が抽象的すぎない?」


「仲が良いってことです!」


「任務内容は?」


「いっぱいあります!」


「だから抽象的なんだって」


 夕陽の冷静な指摘にも、相羽は笑顔を崩さない。


「クヲンの討伐、能力犯罪者の制圧、護衛任務、調査、それから困っている人のお手伝いまで!」


「最後だけ急に町内会みたいになったね」


「人助けに大きいも小さいもありませんから!」


 相羽は胸の前で拳を握った。

 動作に合わせて、空気が僅かに揺れる。

 剣持は反射的に身を引いた。


「今、風起きなかった?」


『起きたね』


 伏見ガクの声が頭の中に響く。


「この人、本当に能力なしなの?」


『本人は力が強くなるライバースキルだと思ってるみたいだけど』


「どう見ても素だよね」


「剣持くん、誰と話してるんですか?」


 相羽が顔を近づけてきた。


「独り言です」


「なるほど!」


「納得するんだ」


 夕陽が呆れたように言う。


「それで」


 相羽はベッドの間へ置かれた椅子を引き寄せようとした。

 片手で掴み持ち上げる。

 軽い椅子どころか、床に固定されていたはずの金具まで一緒に外れた。

 金属が裂ける音が響く。


「……」


 救護室にいた全員が黙り込む。

 相羽は椅子を持ち上げたまま、首を傾げた。


「あれ?」


「相羽」


 社築が低い声で呼ぶ。


「何ですか?」


「それ、床に固定されてた」


 そう言われると相羽は椅子をそっと床へ戻した。

 だが、固定具ごと外れているため、椅子は不安定に傾いている。


「座らない方がいいですね」


「最初から座るな」


 社は疲れたように眉間を押さえた。


「怪我人の病室で暴れるなよ」


「暴れてません!」


「床と椅子を壊してる」


「事故です!」


「二回続けば事件だ」


「社さん、厳しいです!」


「お前に甘くした結果がこれなんだよ」


 相羽は不満そうに頬を膨らませた後、再び剣持と夕陽へ向き直る。


「とにかく!」


 声が大きい。

 甲斐田晴が慌てて人差し指を口元へ立てた。


「相羽さん、ここ救護室です」


「あっ」


 相羽は両手で口を覆う。

 そして声量を少しだけ落とした。


「とにかく、二人とも相羽隊に入りませんか?」


「まだ隊を決めないといけないとは聞いてないけど」


 剣持が社へ視線を向ける。


「正式所属になれば、どこかの隊に配属される可能性は高い」


「可能性?」


「能力や適性次第では、直接本部預かりになる奴もいる」


「剣持くんは相羽隊向きだと思います!」


 相羽が即座に言った。


「長尾くんと弦月くんも、きっと二人を歓迎します」


「勝手に決めない方がいいぞ」


 社が言う。


「二人には二人の意思がある」


「だから誘ってるんです!」


「今すぐ決めさせようとしてるだろ」


「今決めてもらえたら嬉しいです!」


「圧が強いんだよ」


「圧?」


 相羽は不思議そうに首を傾げる。

 その背後で、救護室の扉が開いた。


「隊長」


 聞き覚えのある声。

 長尾景が、身体の数か所へ包帯を巻いた姿で入ってくる。

 その隣には、片腕を吊った弦月藤士郎もいた。


「長尾くん! 弦月くん!」


 相羽が嬉しそうに振り返る。


「ちょうどよかったです! 二人からも勧誘してください!」


「やっぱり勧誘してたんだ」


 弦月が困ったように微笑む。


「だから先に行かせたくなかったんだよね」


「何でですか?」


「怪我人に即決させることじゃないから」


「でも相羽隊に来てくれたら嬉しくないですか?」


「それは嬉しいけど」


「ですよね!」


「嬉しいけど、ゆっくり考えてもらうべきだって言ってるんだよ」


 弦月は穏やかな口調のまま、相羽へ近づく。


「二人とも、まだ怪我が治ってないんだから」


「考えるのに怪我は関係ありません!」


「疲れてると判断力が落ちるでしょ」


「私なら大丈夫です!」


「隊長の話はしてない」


 長尾が相羽の背後へ回る。


「ほら、帰るぞ」


「え、何でですか?」


「病室で騒ぐからだ」


「騒いでません!」


「声がでけぇ」


 長尾は相羽の腕を掴んだ。

 相羽は動かない。


「……隊長」


「何ですか?」


「歩いてくれ」


「まだ勧誘が終わってません」


「あとでいいだろ」


「今が一番気持ちが熱いうちです!」


「そういう勢いで決めさせるなって言ってんだよ!」


 長尾が力を込めるが相羽は微動だにしない。

 弦月も反対側から相羽の腕を取る。


「隊長、健屋さんに怒られるよ」


「健屋さんは優しいです!」


「優しい人ほど、本気で怒ると怖いんだよ」


「大丈夫です!」


 相羽は確固たる姿勢で動かない。


「甲斐田!」


 弦月が救援を求める。


「手伝ってくれる?」


「僕もですか!?」


「このままだと終わらない」


「相羽隊長、すみません!」


 甲斐田は立ち上がり、相羽の背中を押した。

 三人がかりでも相羽は少しずつしか動かない。


「皆さん、どうしたんですか?」


「病室から出てください!」


「そんなに押さなくても歩きますよ!」


「じゃあ歩け!」


 長尾が叫ぶ。


「あ、でも最後に一言だけ!」


 相羽は引きずられながら、剣持と夕陽へ手を伸ばす。


「相羽隊はいつでも二人を歓迎してますからねー!」


「隊長、声!」


 弦月が注意する。


「また元気になったら話しましょうー!」


「静かにしろって!」


 三人がかりで相羽を廊下へ押し出す。

 扉が閉まる直前まで、相羽は笑顔で手を振っていた。

 扉が閉じる。

 直後、廊下の向こうから大きな音が響いた。

 何か重いものが倒れたような音。

 最後に長尾の叫び声が聞こえて徐々に遠ざかっていった。

 救護室に静寂が戻る。

 社は深いため息をつく。


「悪いな」


「相羽隊って、いつもあんな感じなの?」


 夕陽が尋ねる。


「大体な」


「長尾と弦月、大変そう」


「隊長としては優秀なんだぞ」


「本当に?」


「戦闘になればな」


「戦闘以外は?」


「今見た通りだ」


 剣持は閉じた扉を見る。


「でも、悪い人ではなさそう」


「ああ」


 社は小さく笑った。


「それだけは間違いない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ