精霊
「死ね!」
魔物の爪が容赦なく振り下ろされた。
(死んだな・・・)
死を覚悟したが、何故か魔物の攻撃がよく見える。
死ぬ瞬間は時間がゆっくりと流れると聞いた事があるが、これがそうなのだろうか?
(無駄だが、最後まで頑張ってみるか。)
出来る限り相手の攻撃に対して体を逸らす。
ギュォオ!
形容しがたい音を立てて魔物の剛腕が空をきる。
俺の体には何も外傷はない。
(エッ?攻撃が当たってない?いや・・・俺が避けた?)
驚いている暇もなく、次の攻撃が来る。
やはり、ゆっくりに見える。
俺はまた避ける。
次の攻撃が来る。
そしてまた避ける。
またまた次の攻撃が来る。
そしてまたまた避ける。
(レベルによる能力上昇で回避率が上がるとステータスに記載していた。これがその恩恵か。)
相手の攻撃を見て、最小の動きで避ける。
まるで熟練の格闘家になったようだ。
「・・・なんだお前・・・なんだぁああ!お前!」
俺に攻撃が当たらないのが気に入らないのか、奴は癇癪を起した。
「ワーウルフ達よ!奴を殺せ!さっさと殺せ!」
次は集団で襲い掛かってきた。
しかし、俺はその攻撃を難なく避ける。
数が多くても、攻撃は単発で単純な攻撃だ。
これならこのままかわし続ける事は可能だろう・・・だが、いつかは体力が尽きてしまうだろう。
(何とか反撃をしなければ・・・)
俺は相手の隙に合わせて、パンチを放つ。
自分でも驚くような滑らかな動きで、相手の顔面にクリーンヒットする。
(当たった!・・・しかし痛い・・・)
相手は顔を抑えて痛がってはいるが、こちらの拳の方が痛い。
技術は上がっても、体が強くなったわけではないようだ。
(これなら人形にこだわらず、武器でも探しておけばよかった。)
「何をチンタラやっているぅ!全員で一気にかかれぇ!」
次は俺の周りを囲みだした。
四方八方から攻撃されたら防ぎきれない。
(くそ!女神のバカヤロー!何が第二の人生だ!化けて出てやるからな!)
悪態をつき、死を覚悟したとき魔物の一匹がいきなり燃え出した。
「ウガァアアアアア!」
「えっ!」
俺はあまりの事にまぬけな声を出してしまった。
だが魔物達も、そして敵の男も俺のようにあっけに取られているようだ。
誰もが何が起こったからわからず、魔物が雄たけびを上げながら地面をのたうちまわる姿を、ただ見つめていた。
「ウゥゥゥゥ・・・・」
やがて苦しみの声がなくなり、体が燃え尽きた後・・・紫に光る魔石だけが残る。
だが、その光も急激に失われて・・・ただの黒い石ころとなり力を失った。
(炎の魔術なのか?一体だれが・・・)
カチャ・・・カチャ・・・
その音の主に全員の視線が集中する。
(・・・・人形?)
そう・・・それは、人形だった。
体を上下左右に振りながら、絶妙のバランスで二足歩行をしていた。
フラフラと不気味な足取りで、俺に向かって歩いてくる。
魔物達は得体の知れない存在の登場に、距離を取り警戒態勢を取った。
(こいつは、俺が精霊憑依を試した人形?まさか暴走したのか?)
『コイツラヲ・・・タオシタラ・・・イイノカ?』
人形なので口は全く動いてないのに、声が聞こえる。
頭の中に響いてくる、不思議な現象だ。
(これは・・・スキル《意思疎通》の効果か?)
おそらくこの声が聞こえてるのは俺だけなのだろう。
『ドウする?』
『倒せるのか?』
『アタリまえだ。おれをダレダトおもっていル。』
『・・・では、奴らを殲滅してくれ。』
その時、何の表情もない人形の顔が笑ったように見えた。
『ハハハハハ!まかせておけ!俺の力をみせてやろう!』




