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倉石瑞稀と100の高校生活でやりたいこと  作者: Masa(文章力あげたい)
最終章

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その15 妖怪ミウミウ

「明日。 罰をいい渡しますので……それまで、待っておくといいですわ」


 美羽は、それだけを言い残して帰って行った。


 坂を下っていく後ろ姿を見ながら、私は少しだけ不安になって、それから、まあいいかと思った。


ーーたかがアヒルの名前だ。 怒られたって、せいぜい説教だろう。


 その夜。 家の外から声が聞こえてきた。


「瑞稀……」


 布団の中で、目が覚めた。


 最初は夢だと思った。 でも、声は続いていた。 縁側のすぐ外。 障子一枚を隔てた、本当にすぐそこから。


「な、なに?」


 返事をしてしまってから、後悔した。


「開けて、瑞稀〜〜〜ぃ」


 美羽の声だった。 間違いなく、美羽の声。

 でも、何かがおかしい。 語尾が伸びている。 ずるずると、粘りつくように伸びている。 


「嫌だよ!」

「一緒に寝ましょう〜〜〜ぅ」


 私は布団を頭までかぶった。


 そこで、ようやく気がついた。 静かすぎる。

 

 いつもなら、この時間でも虫の声がする。 牛小屋で、ことねが寝返りを打つ音がする。 アヒルたちは夜中でも時々鳴く。


 何も、聞こえなかった。 外の音が、全部消えていた。


 私は、震える手で、窓のほうを見た。


 窓から、美羽らしき人物がケラケラと笑ってこちらをみていた。


 月明かりで、輪郭だけがはっきり見えた。 こちらに向けた顔。 持ち上がった口角。 目のあたりだけが、影になって見えない。


 笑い声は聞こえない。 肩だけが、上下に揺れている。


「帰れ! 化け物!」


 自分でも驚くくらい大きな声が出た。


 その瞬間、窓の影が、すっと消えた。 まるで最初からいなかったみたいに。 足音も、砂利を踏む音もしなかった。


 その日、私は碌に眠れなかった。


 夜が明けた。 外に出ると、世界はいつも通りだった。 山は緑で、田んぼは水を張っていて、空は腹が立つくらい青い。


 縁側には、何の跡も残っていなかった。 足跡も、髪の毛一本も。


 アヒル小屋を覗く。 三十羽、全部いた。 牛も、鶏も無事だった。


 そんな中、美羽は平然とやってきた。 まるで、昨日のことなんてなかったように。


 いつもの風呂敷包み。 いつもの笑顔。 いつもの「ごきげんよう」。


 私は、美羽に詰め寄った!


「ちょっと! 昨日の夜、何してたの!」

「昨夜、ですの? 瑞稀への罰を考えていましたのよ!」

「窓の外にいたでしょ! 開けてとか、一緒に寝ましょうとか!」


 美羽の顔から、表情が消えた。 風呂敷包みを丁寧に縁側に置いた。


「……瑞稀」

「な、なに」

「開けませんでしたわよね?」


 声が、低かった。


「……開けてないけど」

「本当に?」

「開けてない! 怖かったし! 帰れって怒鳴ったら消えたし!」


 美羽は、長く息を吐いた。 その場にしゃがみ込んで、しばらく動かなかった。

 

 それから、風呂敷を開けて、弁当を食べ始めた。


「……昨夜、私は屋敷におりましたわ。 お父様も、使用人も、皆おりました」

「じゃああれは、なんだったの?」

「妖怪の仕業ですの……」


ーー妖怪? これは、農業ゲームだよ? 妖怪なんて出るわけないじゃん!


「……へえ? 惚けるんだ! そんな服着て!」

「惚けるもなにも、心当たりがありませんのよ!」


ーー胸チラ、脇チラ、ヘソチラな格好をして、そんなこと言うんだ?


 私、知ってるんだけど! 私の前にいる時だけ、そんな格好をしているって!


 私に対するアピールのつもり? 恥ずかしくないの?


「あんなに、入れてって言ってたのに?」

「妖怪ミウミウの仕業ですの!」

「……妖怪ミウミウ? なに言ってるの? 美羽?」


ーーミウミウって! 私が最近まで、美羽につけてたあだ名じゃん!


「掟を破ると、来ますの」

「そう。 あくまで違うって言うんだ?」


ーー私が怪しんでいると、美羽は続けてこう言った。


「開けてしまった方は、次の日から、誰にも名前を呼ばれなくなりますわ」


 名前を呼ばれなくなる。 つまり。


「……その人は、どうなるの」

「さあ」


 美羽は、そっけなく答えた。


「私も、思い出せませんの……瑞稀」

「なに?」

「今日中に、三十羽全部にお名前をおつけなさい。 それが罰ですわ」


ーーはあ? なにそれ?


「手伝いますわ。 私、名付けは得意ですのよ」


ーーラブ・ミズキ。


 最悪の記憶が蘇ったけれど、今回ばかりは文句を言える立場じゃなかった。


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