その14 水田栽培でウハウハだ!
カブの次に私が目をつけたのは、米とワサビだった。
カブは確かに儲かる。 でも、単価が知れている。 それに、あれだけ抜きまくったせいで、しばらくカブの顔は見たくない。
「水田? できますわよ。 スキをあげますわね」
美羽から、スキを渡された。 これを使えば、なぜか水田ができるという。
三日後、私の畑の隣に、見事な水田が出来上がっていた。
なんで? 私、鍬と同じ様にしただけなのにーー
現実と違って、ゲームの世界だから、植えたら後は勝手に育ってくれる。
苗を並べる。 水を張る。 以上。 あとは、雑草を抜くだけでいい。
実際、楽勝だった。 米は順調に穂を垂らして、ワサビは清流の中でぐんぐん太った。 しかも、ワサビの方は誰も作っていなかったらしい。
「はあ!? ワサビ!? え、マジで言ってる?」
莉央さんは、私が持ち込んだワサビを見るなり、飛び上がった。
「あ〜し、ずっと欲しかったんだけど! 刺身出せるじゃん! いくら? いくらなら売ってくれんの?」
ーーへえ? 私が値段指定してもいいんだ?
結果。 ワサビで大儲けできた。
『おめでとう瑞稀! ワサビのランクがプラチナに上がりました!』
「よしよし。 デフゥフゥ」
このお金でさらに大量に買って、大儲けするぞ!
ただ、問題がひとつあった。
雑草だ。 放っておくと雑草が生える。 抜いても抜いても生えてくる。
「……面倒くさいなぁ」
誰か代わりにしてくれないかなぁ?
畑の隅に座り込んで、私は考えた。 そうだ! アヒルに草を食べてもらおう!
ゲームでやった、合鴨農法とかいうやつだ。 アヒルが雑草も虫も食べてくれて、おまけに糞が肥料になるという、完璧な仕組み。
この村なら、たぶんもっと都合よく働いてくれる。
私は早速、菜奈さんにアヒル小屋を依頼して、黒崎畜産店へ走った。
「アヒル、ありますか」
「……はい。 何羽、必要ですか」
「三十羽」
「……三十」
怜子さんが、わずかに目を見開いた。 千早ちゃんは、店の隅からじっとこちらを見ていた。
「わかりました。 では、名前をお考えください」
「……別に。 アヒルでいいんじゃ?」
「名前には、魂が宿りますので……」
「なまえ、だいじだよ?」
その数30羽。
小屋に入れると、アヒルたちは一斉に鳴いた。 うるさい。 でも、翌朝には田んぼの雑草がなくなっていた。 作戦成功だね!
ーーうん。 名前ね。 最初は、頑張って、名前をつけようと思ったんだよ?
一羽目に「もも」とつけた。 二羽目に「ゆず」とつけた。 三羽目に「あんず」とつけた。
そこで手が止まった。 でも、ほら、どれも同じじゃん。
白い。 くちばしが黄色い。 目が黒い。 全部同じ。 振り返ると、もう「もも」がどれだか分からない。
だから、適当につけちゃった。
四番。 五番。 六番。 三十番。
我ながら効率的だと思った。 番号なら間違えないし、覚えなくていい。
アヒルたちは、番号で呼んでも普通に寄ってきた。 ほら、問題ない。
ーーでもそれが。 間違いだったんだ。
次の日。 美羽がやって来た。
いつもの冷やかしだと思っていたのに。 表情が真剣だった。
お弁当も持っていない。 この子が手ぶらで来たのは、この村に来てから初めてだった。 寝坊したのかな?
「瑞稀……貴方のことはお父様も私も信用してましたのに、残念ですわ」
「なにが?」
美羽は、懐から一冊の本を取り出した。
電話帳みたいな厚さだった。 表紙に、墨で『櫻井村 掟』と書いてある。
ぱらぱらとめくって、あるページで指を止めた。
「櫻井村の掟、第975条。 アヒルに適当な名前をつけるな」
「はあ? 第975条? なにそれ……」
ーーそんなにいっぱいこの村に条約があるの?
そして私は、これにサインした。 中身を一行も読まずに。
ーーはい! サイン完了!
あの日の自分を、今度こそ往復で殴りたい。
「瑞稀。 貴方には掟を破った罰を受けてもらいますわ……」
その時、頭の奥で、怜子さんの声が蘇った。
ーー名前には、魂が宿りますので。
ーーなまえ、だいじだよ。
あの親子は、ちゃんと教えてくれていた。
私が、聞いていなかっただけで。
背後の小屋から、三十羽分の鳴き声が聞こえてくる。
その声が、今までとは少しだけ違って聞こえたのは、たぶん、気のせいじゃない。




