その12 家を建て替えよう!
瑞稀はすっかり、この村の住民になってしまったのですわ。
畑を耕して、鉱山に潜って、森で狩りをして、品評会で優勝まで。 村の方々とも、すっかり打ち解けておりますし。
ーー本当は、櫻井家の住民になって欲しかったですのに。
でも、いいんですの。 焦りは禁物ですわ。 瑞稀のことですわ。 すぐに飽きるに違いありませんわね。
さて。 今日も瑞稀の様子を見に参りましたわ。
今日もご苦労様ですわね! その証拠にーーほら、こんなに出荷箱にいっぱい物が溢れてますものーー
「って、なんですの!」
中身が空き缶とスナック菓子のゴミ袋だらけですわ!
「ここはゴミ箱じゃありませんことよ!」
私は、瑞稀に説教をしに行くことにしましたわ。
◇◇◇
コンコン。 「瑞稀! いますわよね?」
ゴンゴン。 「返事をしてくださいませ!」
そう言われて、誰が返事するかなぁ? 私は今、ぐうたらタイムなんだけど。
ガンガン。 「あの出荷棚はどう言うことですの!」
バンバン。 「瑞稀! 聞こえてますの!」
ちょっと! 激しく叩き過ぎなんだけど。 この家、脆いんだから!
バキバキズドン。 「あ、壊れましたわ……」
ほら、って。 私の家が、崩れ始めた。 私は、慌てて出ると同時にーー
家が、倒壊した。
私が見たのは、ぺしゃんこになった我が家と、その前で苦笑いをしている美羽だった。
ーー凶器である手元を後ろに隠していた。
「み、瑞稀! 瑞稀が悪いんですのよ!」
「……言い訳は、それだけ?」
「そもそも、この家は古……味のある家だったのですわ! 建て替えが必要でしたのよ!」
「工務店」
「え?」
「この村、大工さんいないの?」
美羽は、わずかに肩を落としてから、渋々といった様子で教えてくれた。
「……花山院工務店、ですわね」
工務店は、村の南の外れにあった。
木材の匂いがする、立派な平屋。 看板には達筆で『花山院工務店』と書いてある。 引き戸を開けると、土間の向こうに女の人が座っていた。
「いらっしゃい。 倉石瑞稀。 貴方の噂は望美や恵から聞いているわ」
着物姿だった。 大工の事務所に、着物。 しかも、髪をきっちり結い上げて、背筋がまっすぐ伸びている。 この村で一番場違いな格好かもしれない。 いや、和馬がいたか。
「花山院菜奈よ」
「倉石瑞稀です。 あの、家が潰れまして」
「聞いたわ。 もう村中の噂よ」
早い。 倒れてから一時間も経っていないのに。
というか、私はまだ何も言っていないのに、この人は最初から私が誰か知っていた。 そう言うのが私、嫌いなんだけどなぁ?
「ああ、安心していいわよ? 大工するのは、私じゃなくてお父様だから」
着物姿で釘を打つ姿を想像していたので、正直ほっとした。
「そうなんですか? そのお父様はどちらへ?」
「莉央の店で、飲んでいるわ」
昼間から。
「着工は明日から。 資金はあるのかしら?」
話が早い。 早すぎて、こっちが追いつかない。 私は懐から封筒を出した。
美羽から、ぶんど…もらった分の。
菜奈さんは封筒の中身を一瞥して、少しだけ眉を上げた。
「足りるわ。 むしろ、お釣りが出るわね」
「え、いいんですか」
「この村の工事は、そういうものだから」
また出た。 そういうもの。 でも、もう驚かない。 この村で一番信用できるのは、その言葉かもしれない。
「明日の朝、瓦礫を退かすところから始めるわ。 三日で建つわよ」
「三日!?」
さすがゲームの世界だね!
工務店を出ると、日が暮れかけていた。 そこで、私はようやく気がついた。
ーー家がない。 振り返ると、美羽が立っていた。 両手を後ろで組んで、にこにこ笑っている。 さっきまでの動揺は、どこにも残っていない。
「瑞稀」
「……なに」
「今夜は、どちらでお休みになりますの?」
ーーこの女、待ってた。 わざと壊したんだ!
「……三日だけだからね」
「まあ! 嬉しいですわ!」
こうして私は、あれだけ避けてきた屋敷に、三日間だけ泊まることになった。
坂を上がりながら、美羽がやけに軽い足取りなのが、心底腹立たしかった。




