その11 品評会で優勝してブランドを手に入れよう!
数日後、郵便受けに用紙が入っていた。 この村に郵便屋さんっているの?
そこは考えないことにして、私は紙を広げた。
『櫻井村 品評会のお知らせ』
『作物部門 家畜部門 馬部門のどれかを選んでサインしてください』
ーー来た! 農業ゲームの大型イベント! 品評会だ!
あのカブなら、優勝確定間違いなし。 堂々と、作物部門に丸をつけて、提出した。
数日後。 品評会当日。 会場は、村の中央の広場だった。
紅白の幕が張られて、長机が並んで、村祭りみたいな空気だった。
そこには、村の住民たちの数人が揃っていた。
「こんにちは〜 瑞稀も参加するの〜 頑張ってね〜」
「瑞稀っち! 優勝して、ブランドになったら、高く買い取れるから、頑張れ!」
「瑞稀さん! ファイトです!」
望美さん、莉央さん、中川さんだ。 みんな、やけに機嫌がいい。
ブランド。 莉央さんの言葉が引っかかった。 優勝すると、さらに高く買い取ってもらえるようだ。 ーー最高だね。
「み、瑞稀さん。 お日柄もよく。 具合が悪いから、俺は失礼するよ……」
一部、邪魔な害虫がそそくさと帰って行ったけど、ほっとこう。
あれから勝也さんとは一度も話していない。 というか、向こうが全力で避けている。 私を見ると、直角に曲がって別の道へ行く。
噂では、私見るたびに震えているという話も聞いた。
ーーまあ、モブのことなんて、どうでもいいんだけどね?
「あら、瑞稀。 ごきげんよう」
声のほうを見て、私は二度見した。
美羽が、馬に乗っていた。
真っ白な馬だった。 毛並みが日の光を跳ね返していて、これも絶対プラチナか何かだと思う。 美羽は当たり前みたいに手綱を握っている。
「……馬部門?」
「ええ。 私の『ラブ・ミズキ』は完璧ですわ!」
「……なに、その名前」
「私が考えた名前ですわ!」
「あ、そう……」
ーー突っ込んだら負けだ。 負けるな私。
審査が始まった。 審査員として壇上に現れたのは、和馬さんだった。
白いスーツに、胸元に花。 村の広場にはあまりにも似合わない格好で、堂々と立っている。 村人たちが一斉に拍手をした。
「本日はご参集いただき感謝する。 では、審査を始めよう」
和馬さんは、一つ一つの机を丁寧に見て回った。 その仕草だけは、本物の審査員に見えた。 私の机の前で足を止めた。
プラチナのカブが、三つ。 もはや、カブ自体が白く輝いている。
「……ほう」
和馬さんは、カブを一つ持ち上げた。 しばらく無言で眺めて、光にかざして、それから小さく笑った。
「見事だ。 これは、なかなかお目にかかれん」
「ありがとうございます」
「よく育てたな。 ……ずいぶん、熱心に抜いたようだ」
なんでそれを知ってるの? ゲームだからか?
結果発表は、あっけないものだった。
「作物部門、優勝。 倉石瑞稀」
拍手。 歓声。 莉央さんの指笛。 そして、その瞬間。 私の体が、勝手に動いた。
カブを両手で頭上に掲げて、壇上へ駆け上がって、くるりと一回転。 最後に片手を高々と突き上げて、静止。 完璧な決めポーズだった。
『おめでとうございます! 瑞稀! ブランドを取得しました! やりましたね!』
エタナの声が、頭の中に響いた。
村人たちは、誰も反応しない。 私のポーズにだけ、盛大な拍手を送っている。
ーーエタナ? ゲームクリアしたら、ちゃんと話そうか?
和馬さんから、このカブにブランド名をつけて欲しいと言われた。
「えっと。 ブランド名は『瑞稀のカブ』にします』」
「そうか。 おめでとう、瑞稀さん」
和馬さんが、握手を求めてきた。 私はその手を握った。 これでゲームクリアでいいよね? エタナ?
「これで君も、正式にこの櫻井村の一員だ」
正式に? どう言う意味かな?
その時だった。 村人たちの様子が一瞬だけ、止まった。
「「「「「「おめでとう」」」」」」
ーーまるで、言わされているみたいに。 美羽以外の全員がハモった。
その理由を聞こうとした時には、和馬さんはもう壇上に戻っていた。
そして改めて、こう言った。
「貴方のカブは、この村において最高品質であることが認められましたので、ここに表彰します」
「あ、ありがとうございます。 光栄です!」
「おめでとう瑞稀? では、このカブをお売りくださいませ!」
ーー美羽だ。 やっぱり来たか。 でも、私は惚ける。
「え? なんで?」
「なんで……ではありませんの! 我が村の継続のためですわ!」
ーー村の継続? そんなの知らないもん!
私は、悔しがる美羽を嘲笑いつつ帰って、ベッドで寝た。




