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倉石瑞稀と100の高校生活でやりたいこと  作者: Masa(文章力あげたい)
最終章

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その8 狩りをしよう!

 そのまま鍛冶屋に行くと、美羽が待ち構えていた。


「瑞稀っ!」

「うわっ……なに、美羽」


 入口の前で仁王立ち。 私の顔を見るなり、つかつかと歩み寄ってきた。


「鉱山にお入りになりましたわね!?」

「なんで知ってるの」

「心配いたしましたのよ! もし何かあったら、私、どうすればよろしいんですの!?」

「いや、無事だったし。 ……てか、魔物が出るなんて聞いてないんだけど」

「なんですって? ……玄一郎さん?」


 美羽が玄一郎を睨むと、玄一郎は気まずそうにソッポを向いた。


「……無事だったみたいだから、許せ」

「無事ならよいという話ではございませんわ! ……瑞稀! 次に行かれる時は、必ず私もご一緒いたしますわ! よろしくて!?」


 やれ、心配しただの。 次に行く時は一緒に行くのだわだの。 とにかくうるさかった。 


 肩をぐらぐら揺すられながら、私は玄一郎さんに銀の鉱石を五つ差し出した。


 玄一郎さんは鉱石を炉に放り込んで、ツルハシを突っ込んで、二、三度鎚を振った。 一瞬だった。


 受け取ったツルハシは、刃の部分が白っぽく光っていた。 さっきまでの銅色は、どこにも残っていない。


「……早すぎません?」

「知らん」


 この人は本当に何も知らない。 でも仕事はする。 なんだそれ。


 灯磨さんは、今日も炉の前にいた。 鎚を振る背中に「ありがとうございました」と声をかけると、手がほんの一瞬だけ止まって、また動き出した。

 それだけだった。 それだけで、なんだか嬉しかった。


 帰り道、私は美羽に聞いてみた。


「ねえ、美羽。 畑と鉱山のほかに、お金を稼ぐ方法ってないの?」

「あら。 農業がお嫌になりまして?」

「嫌じゃないけど。 待つのが長くて。 すぐ稼ぎたいの!」


 あと、魔物が出る場所に毎日通いたくない。 これは言わなかった。


「はあ。 ……でしたら、狩猟と釣りがございますわ」

「狩猟と釣りか……」

「森に入れば獣が獲れますし、川と海には魚がおりますわ。 どちらも、出荷箱に入れればお金になりますのよ」

「……だから、なんで?」


 聞き返そうとしたけれど、美羽はもう先を歩いていた。


 そして次の日。 朝、玄関の引き戸を開けると、縁側に弓と釣り竿が立てかけてあった。


 もう誰が置いたのかとは考えない。 考えたら負けだ。


 弓を手に取ってみると、思ったより軽い。 矢は、なぜか数本しかないのに、筒の中で数が減らない気がする。 いや、気がするじゃなくて減らなかった。


 私は早速狩猟に出かけた。 森は、村の東側に広がっていた。 朝の光が木々の隙間から差し込んで、地面にまだら模様を作っている。 鳥の声。 土と草の匂い。 空気が、畑よりも澄んでいる気がした。


ーー気分は狩人だ! よしよし、ここは大丈夫でしょう!


 弓を構えてみる。 構え方なんて知らないのに、手が勝手に正しい形になる。 この村に来てから、体が勝手に動くのにも慣れてしまった。


 茂みの向こうで、何かが動いた。 茶色い塊。 たぶん、ウサギ。


 矢を放つ。 簡単に当たった。 ウサギは、生々しい様子でそのままそこにいた。


 近づいてバッグに入れ込むと、入っていった。


「……」


 ゲームなら「やった!」で済む。 でもこれは、目の前で起きたことだ。 さっきまで確かに動いていたものが、素材になった。 一番気持ち悪かった。


 そんな私に男の人が声をかけてきた。


「君、君? 今、一人?」

「そうですけど……」

「よかった! 俺の名前は大木勝也! よろしく!」


 ぜんぜんよろしくしたくない。 一番の陽キャに遭遇してしまった。


 日に焼けた肌に、やたらと白い歯。 迷彩柄のベストに、金髪。 背中には私のよりずっと立派な弓。


 そして、何より距離が近い。 いきなり肩に手を置いてきた。 なんで?


「いや〜、新顔だって聞いててさ! 会いたかったんだよね!」

「はあ」

「森は危ないよ? 奥のほうには熊も出るし。 一人はやめたほうがいい」

「そうですか」

「だからさ、俺と一緒に回ろうよ! 教えてあげるって!」


 肩の手が、離れない。 私は無言で半歩ずれた。 勝也さんは、まったく気にせず半歩詰めてきた。 なんなのこの人。 ーー気持ち悪い。


 とはいえ、話の中身は役に立った。 森の奥ほど大物がいて、そのぶん反撃されること。 川の上流と下流では釣れる魚が違うこと。


 そして、どの説明も、やっぱり「そういうものだから」で終わった。


「勝也さんは、この村に長いんですか」

「俺? ……あれ?」


 手が止まった。 私のじゃない。 勝也さんの手が、私の肩から離れた。


 勝也さんは首を傾げている。 みんな途中で言葉が止まった。 思い出せない、と言った。

 

「……ん?」


 勝也さんは、きょとんとした顔をした。 それから、さっきまでと同じ白い歯で笑った。


「なに言ってんの。 そんなのどうでもいいだろう?」


 噛み合っていない。 それなのに、勝也さんの表情には迷いがひとつもなかった。 

 嘘をついている顔じゃない。 本当にそう思っている顔だった。


「ねぇ? この後、暇? これから俺ん家来ない?」

「……ちょっと。 用事があって」

「そうなんだ。 じゃあ、明日はどう? 次は川行こうぜ! 釣り教えるからさ!」

「あ、あの、それは……」

「じゃあ。 明日、ここで」


 勝也さんは、返事も聞かずに森の奥へ歩いていった。 迷彩柄の背中が、木立の間に紛れて見えなくなる。


 私はその場に立ったまま、拳を握りしめていた。


ーー次の日? 当然、ブッチしたよ! 行くわけないじゃん。

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