その7 鉱山へ行こう!
私は次の日、鉱山へやって来ていた。 地面には錆びたトロッコのレールが二本、奥へ向かって伸びている。
中から流れてくる空気は、ひんやりとして、少し湿っていた。
灯磨さんにもらった懐中電灯のスイッチを入れる。 ちゃんと点いた。 電池がどうなっているのかとかは、もう考えないことにした。
「あるじゃん! めっちゃあるじゃん!」
壁一面。 岩肌のあちこちに、銀だ。 ツルハシを一振りするだけで、ぽろりと鉱石が落ちて、勝手にバッグへ収まっていく。
玄一郎さんが要ると言ったのは五つ。 一瞬で集まった。
ーー低層で銀が出るんだったら、本当にトレジャーハンターを初めてもいいかもしれない!
だって農業よりも、効率がいいじゃん!
カブを植えて、水をやって、三日待って、出荷して、やっと数百円。 こっちは殴れば出てくる。 しかも掘っても掘っても、壁の銀は無くならない。
私は完全に舞い上がって、ひたすら壁を殴り続けた。 バッグの中で、鉱石の数だけが増えていく。
そこへ、二人組の女性が話しかけてきた。
「君軽装すぎ! マジやばいって!」
「ウケる! 無謀じゃん!」
振り返ると、つなぎ姿の二人が立っていた。 ヘルメットにランタン、腰にはロープと水筒。 どう見ても、こっちが本職の格好だ。
ーーそしてまた、陽キャじゃん。
片方は大きなハンマーを肩に担いでいて、もう片方はビッケルを杖みたいに突いている。
私は自分の姿を見下ろした。 いつもの私だった。 持ち物はツルハシと懐中電灯だけ。
「……軽装ですかね?」
「まじやばいよ! あ、あーしは福田環奈」
「そうそう。 松田葵でーす。 よろしくね〜」
名乗られた瞬間、奥のほうで、ガサリと音がした。
懐中電灯を向ける。 光の中に、人の膝くらいの高さの、 トカゲがこっちに向かって跳ねている。
「え? なにあれ?」
「あ、出た」
「はいはーい」
鈍い音がひとつ。
環奈さんがハンマーを振り抜くと、トカゲは潰れて、飛び散って、跡形もなく消えた。 消えた場所に、小石がひとつ転がっていた。
「……え、今の、なに」
「魔物じゃん」
「魔物!?」
「やば! 知らずに入って来たの? ウケる!」
ーーいや、ウケてる場合じゃない。 そんなの聞いてないよ!
二人の説明によると、この鉱山には魔物が出るらしい。 浅い階層のやつは弱くて、放っておけばぶつかってくるだけ。 でも下へ降りるほど強くなるし、数も増える。
「だから武器なしで来ちゃダメだって。 あーしらだって、いつもペアだし」
「倒れたらどうなるんですか」
「診療所じゃん?」
「ひと晩寝たら元通りだけどね〜」
ひと晩寝たら元通り。
ーーやっぱりそうじゃん。 ここ、完全にゲームじゃん。
「あとね〜、暗くなる前に出ること。 これ絶対」
「夜になると、なにか出るんですか?」
「んー?」
葵さんは、少し考えて、首を傾げた。
「わかんない。 でも、そういうもんじゃん?」
「そうそう!」
私が黙っていると、環奈さんが私の手元を覗き込んできた。
「ってか、それ何? 懐中電灯?」
「あ、はい」
「どこで手に入れたの? この村、そういうの売ってなくない?」
言われてみれば、そうだ。 雑貨屋に並んでいたのは種と、鍬の替え刃と、味噌と、干物くらいだった。 電池なんて一本もなかった。
「鍛冶屋の、灯磨さんにもらいました」
「……へえ」
「……ふうん」
ーーあんまり、興味なさそうだね。
「まー、いいんじゃない! あーしらもう上がるけど、君も早めに出なよ!」
「うんうん、無理は禁物じゃん〜」
二人は手を振って、あっさり入口のほうへ歩いていった。 ちょっと! 私を置いてかないでよ!
私はバッグの中を確認した。 銀の鉱石が、二十三個。 五個あればいいのに、二十三個。
入口に向かって歩きながら、私は考えていた。 ーー農業最高だね!




