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倉石瑞稀と100の高校生活でやりたいこと  作者: Masa(文章力あげたい)
最終章

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その6 鍛冶屋に行こう!

 数日が過ぎた。 朝に起きて、畑を耕して、水をやって、出荷箱に入れて、日が暮れたら寝る。 それだけの毎日なのに、不思議と飽きない。 カブは高く売れた。


 慣れてきたのだ。 まるで、ゲームをしている気分だった。


 その日も、いつものようにツルハシを担いで畑に出た。 そして、足を止めた。


「……なにこれ?」


 畑の隅に、岩があった。 今まで散々壊してきた岩とは、明らかに違う。 大きさこそ同じくらいなのにーー 


 とりあえずツルハシを振り下ろしてみる。 キィン、と甲高い音がした。 


 十回ほど殴ったところで諦めた。 岩には、傷ひとつついていない。 


ーーもしかして、これが美羽の言ってた鍛冶屋育成の出番かなぁ?


 道具を鍛えないと、頑丈な物は壊せない。 最初にそう説明されていた。


 つまりこの岩に「今のお前じゃ無理だ」と言われているわけだ。 そう思うと、なんだか腹が立ってきた。 私は鍛冶屋に行くことにした。


 鍛冶屋は、村の一番奥、山に食い込むような場所にあった。


 近づくにつれて、音が聞こえてくる。 カン、カン、カン、と叩く音。


 建屋の中は、外より暑かった。 そこには明らかに老人の人と若い人。 二人の男がいた。


 老人のほうは、背筋がピンとしている。 鍛冶職人というか、貴族みたい。


 若いほうは、炉の前で鎚を振っている。 こちらを見もしない。


「儂は玄一郎。 この愚息の名前は灯磨だ」

「……」


 灯磨って言う人は、なにも喋らない。 鎚を振る手も止めない。 私が頭を下げても、返事はなかった。


「あの、灯磨さん……」

「無駄だ。 こいつは喋らん」

「喋らないって……嫌われてます?」

「ふん……」


 玄一郎さんは、複雑そうな表情をした。 灯磨さんは、やっぱり何も言わない。 


 ただ、鎚の音のリズムが、ほんの少しだけ乱れた気がした。


 私は用件を伝えた。 畑に、壊せない岩があること。 ツルハシが弾かれること。


「持ってみろ」


 言われるままにツルハシを差し出すと、玄一郎さんは片手で受け取って、刃を親指でなぞった。


「銅のツルハシだな。 こんなもんで黒岩を殴れば、そりゃ弾かれる。 銀まで鍛えねば、割れん」


 銅の次が銀。 その次はたぶん金。 どこかで見たことのある順番だ。


「鍛えるには、何が要りますか」

「銀の鉱石が五つと、五百円だ」

「五百円!?」


 思わず声が出た。 安い。 いや、鉱石を五つ持ってこいという時点で安くはないんだけど、金額のほうがあまりにもきりが良すぎる。


「それがあると、すぐにできる」

「すぐに?」

「ああ、一瞬だ」

「なんで?」

「知らん!」


 ーーですよね? 問題は、銀の鉱石なんて持っていないことだ。


「それ、どこで採れます?」

「鉱山だ。 銀ならまだ浅いところで取れる」

「ええ!」


 玄一郎さんは顎で入口のほうをしゃくった。 説明は以上、ということらしい。


 お礼を言って外に出ようとした時、背中に気配を感じた。

 振り返ると、灯磨さんが立っていた。 いつの間にか鎚を置いて、すぐ後ろに。


「わっ」


 灯磨さんは、無言で手を差し出した。

 その手のひらには、懐中電灯があった。 


「……これ、くれるんですか?」

「……ああ」


 こくり、と頷く。 それだけ。 表情はほとんど動かない。


 でも、目だけがまっすぐ私を見ていた。 この村に来てから、こんなに人の目を見られたのは初めてかもしれない。


「……ありがとうございます」


 受け取ると、灯磨さんは炉のほうへ戻っていった。 もう二度とこちらを見なかった。


「ほう」


 玄一郎さんが、髭をいじりながら唸った。


「こいつが物をやるのは珍しい」

「そうなんですか」

「ああ。 この村に来てから……」


 そこで、言葉が止まった。


 玄一郎さんは、口を開けたまま、数秒間そのまま固まっていた。 炉の火がぱちりと爆ぜる音だけが、やけに大きく聞こえた。


「……いや。 なんでもない。 早く鉱石を持ってこい」


 顔を上げた玄一郎さんは、もう普通の顔をしていた。

 私は何も聞かなかったことにして、鍛冶屋を出た。


 外の空気は、驚くほど冷たかった。 不自然な程にーー


「……貴方。 灯磨と目があってたわね?」

「へ?」


ーー望美さんがいた。 凄い形相で、私を睨んでいる。 どうやら、彼女が発生元だったみたいだ。 彼女の周りが凍っている気がする。


「目が合ってたわよね?」

「は、はい。 ……それがなにか?」

「……そう。 貴方も、なの。 いいわ、相手に不足はないわね」


 不気味に嗤いながら、望美さんは去って行った。 ーー雪女かよ。


 深く考えるのは、明日にしよう。 そう決めて、私は家に帰った。

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