教頭の失墜
全校集会は、四時限目に開かれた。 体育館に、全校生徒が整列している。 壮観だ。
俺は壇上に立った。 マイクの高さを直す。 ーーうむ。 ちょうどいい。
「諸君。 まずは、良い報告からだ」
声が、よく響いた。 思えば、この体育館で他人の声ばかり聞いてきた。
ーーだが。 今は、この場所は私のものだ。
「本校の体育大会について、中止を求める申し立てがあった」
ざわり、と生徒たちが動く。 ふふ。 落ち着きたまえよ。
「だが、案ずるな。 私が教育委員会に不服を申し立て、これを退けた」
ーー皆、真剣に聞いているな。
「本校の伝統ある行事を、外部の都合で潰させはせん。 この判断は、校長代行として当然だ……」
『今日から、俺の時代だ!』
その時だった。 俺の声が二重に聞こえたのはーー
スピーカーから出た音、だった。
『……ただの一介の生徒ごときに、なにをびびっているのです?』
ーー私の声だ。 体育館が、静まった。 生徒たちが一斉に顔を上げた。
ーーこれは、応接室だ。 花杉の連中が来た日の。
なぜだ。 なぜ、あの部屋の音が。
「マイクを切れ! 誰か、放送室に!」
俺は叫んだ。 だが、俺の声はマイクを通して響き、その上に俺の声が重なった。
『倉石瑞稀は生徒会長なだけの、ただの凡人ですよ? ……それ以前は、ただの引きこもりだったんですよ?』
ーーやめろ。
『戯言が! カスの分際で、調子にのるなよ?』
生徒たちの顔が、変わった。 俺を避難する表情だ。
「違う! これは、文脈が……」
咳ひとつ、聞こえなかった。 体育館が静まり返ってしまった。
「ちょっと待て! なんだこれは! 誤解だ! こんなの編集じゃないか! そもそも盗聴なんて犯罪行為だ! 一体、誰がこんなことを……まさか」
ーー倉石瑞稀か! あの女、馬鹿なのか?
学年主任も、体育科の連中も、事務の女性も。 全員が、座ったままこちらを見ている。
ーーおい。 止めろ。 止めに行け。 誰か止めてくれ!
『……許せん ……ただの名ばかり生徒会長の分際で…… 潰しますよ』
放送は、致命的な発言も拾っていた。
『倉石瑞稀。 あの女が変なトンチキをしたに違いない。 ただの小娘の分際で。 小賢しいことだ。 ……だが、いくらでもやりようはある。 例えば……』
ーー終わった。 俺の教員生活が。 プツリ、放送が切れた。
体育館は、静かなままだった。 俺を見ている。 誰も、何も言わない。
俺は、マイクを取りこぼしていた。
「……これは、盗聴であり音声も切り張りされているものだ……」
俺の声は、マイクもないボソボソ声なのに、やけに響いたーー
その後、何を喋ったか覚えていない。 気がつくと、集会は終わっていた。
生徒たちは、何事もなかったように教室へ戻っていった。
誰も、俺に話しかけなかった。 教員も、生徒も。
校長室に戻ると、机の上に原稿が置いてあった。
俺が書いた原稿用紙に全部赤文字で注釈が書いてあった。
ーー校長。 どうやら、俺も駄目みたいだ。




