倉石瑞稀に逆らうな
職員会議は五時から始まった。 俺は議長席に座っている。 当然だろう。
「まず、花杉学院からの陳情についてだ」
私は、書類を掲げてみせた。
「結論から言う。 却下した」
誰も、何も言わなかった。 異論なし、ということだな。
「次に、体育大会の進行について。 総合司会は、私が務める」
今度も誰も言わない。 当然だな。 それが常識だからだ。
俺は、ペンを机に置いた。 かつん、と音が鳴る。
「問題はその後だ。 花杉高校の校長共が、視察に来ると言う問題だ」
教員共の顔つきが変わった。 ーーなんだ? 心配しているのか?
ーー馬鹿馬鹿しい。 大の大人が怯えてどうする。
「以上だ。 異論がなければ、解散とする」
誰も、何も言わなかった。
会議室を出るとき、廊下の窓からグラウンドが見えた。
生徒たちが、体育大会の練習をしている。 実に結構だ。
生徒は、ああでなくてはならん。 そうだろ、諸君?
◇◇◇
翌日、俺は病院へ足を運んだ。
校長ーーいや、前校長の見舞いだ。
もちろん、公務としてだ。 俺が代行を務める以上、職務の引き継ぎに関する報告は必要だからな。
ノックをして、扉を開ける。 あの男は、ベッドの上で窓の方を向いて座っていた。
「体育大会の件、ご報告に参りました」
「……なにか、問題があったのか?」
「ええ。 花杉学院から陳情がありましたが、私が却下いたしました」
「……なんだと? なぜ今更?」
「そうでしょう。 私もそう思いました」
ーーまあ、当然の気づきだろうな?
「進行につきましては、私が総合司会を務めます」
「倉石瑞稀は?」
ーーおいおい、馬鹿なのか? この期に及んでまだ、あの女のことを?
おいぼれ巻かれ校長よ、これはさすがに笑えないぞ?
「倉石瑞稀は、一般生徒として活動を……」
「それは……彼女が望んだことなのか?」
「いえ、彼女は司会を求めてましたが……」
その時だ。 突然、腕を掴まれた。 そして、真剣な表情で俺を見た。
「……今すぐに、取り消せ」
「は?」
「やめるんだ。 頼む、このままでは……体育大会が……」
「なにを言って」
俺は、腕を振り払った。 病室に、荒い呼吸だけが残った。
「校長先生……いや、元校長先生」
「……」
「私は、貴方とは違うんですよ。 彼女の言いなりなんかにはならない……」
俺は、椅子から立ち上がった。 無駄な時間だったな、馬鹿馬鹿しいーー
◇◇◇
病室を出ると、一人の女子高生がいた。 ーー川端ことねだ。
「今すぐに手を引いた方が貴方のためよ? 代理校長?」
「……なんの話だ。 君は、ただの一人の生徒だろ? だったら、普通に学校生活を過ごしていたまえ」
「忠告はしたわよ……」
そう言って、彼女は去って行った。




