地獄への門が開く
校長室で、俺は今日も体育大会の公務を進めていた。
種目の最終確認。 保護者席の配置。 救護班の割り当て。
ーー本来、これは校長である俺の仕事だ。
「失礼します。 校長代行、お届け物です」
「そこに置いときたまえ……」
「かしこまりました」
事務の女性が、封筒を持って入ってきた。
厚手の、上等な紙だ。 角がぴんと立っている。
差出人を見て、私は眉を上げた。
『花杉学院 中学校・高等学校』
ーー隣の一貫校か。 なんだ、こんな時期に?
あそこは、この学園から近い場所にある。 中高一貫の私立だが、生徒のガラが悪いことで有名だ。 俺は、封を切った。
中身は、陳情書だった。 どうやら、今回の体育大会に意見があるらしい。
『……本校は貴校敷地と隣接しております。 例年、放送設備の音量について生徒より苦情が寄せられております』
ふん。 毎年のことだ。 今更だろう。
『つきましては、本年度の実施に異議を申し立てます』
ーーなんだと?
『本件は貴校の内部事情であり、本来、他校が申し上げるべきことではございません。 しかしながら、放送音量に関する協議は学校間の折衝事項であり、双方にとって望ましくないものと存じます。 つきましては、本年度の開催は中止または延期に……』
「戯言が! カスの学校の分際で、調子にのるなよ?」
私は、思わず怒りで笑い声を漏らした。 人間、キレると笑えてくる。
『なお、今件を棄却した場合。 本校より校長以下、数名が視察に伺いたく存じます』
「なんだと?」
ーー視察だと? 私は、椅子から立ち上がっていた。
「……はっ。 はははは!」
これは。 これは、なんという話だ。 考えてもみろ。 私は、たった今、司会を倉石から取り上げたばかりだ。
その翌日に、隣の学校から「体育大会を中止せよ」という要望が届く。
ーーこれは一体、どうゆうことだ?
便箋を最後まで読み下した。 末尾に、署名がある。
『花杉学院 学院長』 その下に、理事の連名。 ーー六名。
俺は、なんとなく目で追った。 どうせ、知らん名前ばかりだ。
ーーだが、なんだこれは? なにか抵抗の跡が見えるような?
俺は、少しだけ考えた。 ふん、気のせいか。
陳情書を机の引き出しにしまった。 答えは当然、却下だ。
ーー来るなら、来てみろ! お前たちボンクラと我が高校の格の差を見せてやる。




