第17話 人と人の心の隙間
「バリバリむしゃくしゃ」
「……」
ーーなにコイツ? 咀嚼音を出しながらじゃないと、物を食べられない病気なの?
スカートもはだけているし、普段履いてないのがよくわかるよ?
ひとみは、菓子を食べ終わると、ようやくベッドから起き上がった。
「ふー、喰ったぜ」
「じゃあ、帰れ」
「ちぇ。 つれねなぁ? アタイら、友達だろ?」
「……」
そう言って、ひとみは立ち上がった。
「なにしてるの?」
「いや、部屋見てんだよ。 友達の部屋って気になるだろ」
「ならない」
「なる」
ひとみは、私の部屋を見回す。 ゲーム機に目が行ったようだ。
「いいの持ってんじゃん」
「まあね……」
ーー本当は、舞香からの借り物だけどね。 コイツにそもそも言う意味がない。
次に、ひとみはクローゼットを開けようとした。
「おい、勝手に開けるな」
「へえ。 制服、二着もあんのか。 それにスーツも……」
「一着は予備だよ」
「……つーか、私服少なくね?」
「いる分だけあるから」
ハンガーにかかっているのは、四着。 全部、水色パーカーにジーンズだ。
「ダサTの一着もねぇのかよ? つまんねぇ奴……」
「……」
ーー別にひとみに見せるために置いてないよ。
ひとみは、クローゼットを閉じて、今度は机の方へ歩いていった。
机の上には、ノートが一冊。 あの、ノートだ。
「ああ、このノートな……」
「触らないで」
「え?」
私は、ひとみの手首を掴んでいた。 自分でも、少し驚いた。 思ったより、強く掴んでいたから。
「……瑞稀? なんだよ、この前は触らしてくれたのによ〜」
「……」
「はいはい。 わかったって」
「……」
私は、手を離した。 部屋の空気が、ちょっとだけ重くなった。
ひとみは、それ以上聞かなかった。 畳の上に、あぐらをかいて座り直す。
スカートなのに、あぐらをかくんだね。 まあ、いいけど。
私は、ひとみの正面に座った。
「ひとみ」
「おう」
「なんで来たの」
「……だから、遊びに」
「嘘」
ひとみの肩が、わずかに跳ねた。
「あのさ。 私、そんなに友達多くないんだよ。 休みの日に家まで来る子なんて、一人もいなかったの」
「……」
「なのに、急に来た。 スカート穿いて。 お母さんに挨拶までして」
私は、指を折っていく。 ーーあれ? これ、どこかで見た光景だなぁ。
「ねえ。 誰に頼まれたの」
「……」
「ことね?」
「アイツの名前なんか出すんじゃねぇ!」
「?」
「あ、わりぃ」
ーーあれれ? どうしたのかなぁ?
「そっか」
「おい、待てって。 ……違ぇんだよ」
「なにが」
「アタイは神子様が嫌いな訳じゃねぇんだ!」
ひとみが顔を上げた。 さっきまでのふざけた顔じゃなかった。
「ただ。 ことね様がちょっと変なこと言うから……」
「……」
ーーは? 本当に喧嘩中なの?
「ことね様が、アタイの家族がバラバラなのは、アタイのせいだって言うから……ざっけんなって喧嘩になって……」
ひとみは、早口になっていた。
「ウチは、ことね様が嫌いな訳じゃねぇんだ。 けど、ちょっと折り合いがつかなくってよう……」
「……」
「アタイ、おかしいか?」
「おかしくないよ」
でも、それは言わないでおいた。
「……ひとみ」
「なんだよ」
「今日、楽しかった?」
「はぁ?」
「答えて」
「……楽しいよ、悪いかよ」
人と人の間には、大なり小なり壁がある。 それが家族にしても、尊敬する人であってもーー
私たちは、みんな一緒なんだね?




