第15話 名探偵? 川端ことね
次の日。 朝の放送で、教頭先生が神妙な声を出している。
『……校長先生は、体調不良のため、しばらく療養されることになりました。 当面の間、私が校長代行を務めます』
教室が、少しだけざわついた。 でも、それだけだった。
人って、意外と薄情だよね。 すぐにだいたいのことは日常になっちゃう。
ーー可哀想に。 ご愁傷様ですね? 校長先生?
放課後。 私は生徒会を代表して、お見舞いに行くことにした。
だって、生徒会長だもんねぇ。 当然の務めでしょ?
「……」
病室は、四階のいちばん奥だった。 白い部屋。 白いシーツ。
校長先生は、ベッドの上で窓の方を向いて座っていた。
「校長先生。 倉石です」
「……」
「ああ。 倉石瑞稀と……」
「……」
「ははは。 今、食欲があまりなくてね……」
返事はあるが、どこか希薄だ。 この前までの、尖りがない。
「生徒のみんなから、お花を預かってきましたよ」
「……」
「いいよ、食べても。 すまない、ありがとう……二人とも」
私は、ベッドの横に花を置いた。 カーネーションだ。 白いのがよかったんだけど、売り切れてたんだよね。 シクラメンの方が良かったかな?
校長先生の目は、開いていた。 開いているだけだった。
窓の外を見ているんじゃなくて、窓の外に何もないから、そっちを向いているみたいな。
「……」
「先生。 あのね」
「なんです、倉石瑞稀?」
私は、少しだけ顔を近づけた。 隣に聞こえないように。
「……まともに来てたら、勝てたかもしれないですよ?」
「……ははは」
校長先生の指が、ぴくりと動いた。
ーーあ。 効いてる、効いてる〜
「……」
「……早く、良くなってくださいね」
私は、きっちり礼をして病室を出た。
◇◇◇
廊下に、人が立っていた。
窓際に背を預けて、腕を組んで。 私を睨んでいた。 ーーことねだ。
「ことね?」
「ごきげんよう、瑞稀」
「なんでここに?」
「お見舞いよ。 ……貴女と同じ」
ことねは手ぶらだった。 花も、果物も、なんにも持っていない。
「手ぶらだね?」
「ええ。 見舞う気がないもの」
「……」
「まったく。 それは、……が食べたいだけでしょ?」
「……」
校長先生が泣くよ? 可哀想にーー
「じゃあ、なにしに来たの?」
「貴女が来ると思ったから」
ーーへぇ?
ことねは、窓から背を離した。 私の顔をまじまじと見てくる。
「考えていたのよ。 ……きのうのことを」
「本当。 倒れちゃったもんね」
「ええ。 倒れたわ。 三十分以上、放送で喋り続けて、最後に泡を吹いて」
ことねは、指を一本立てた。 おやおや? 名探偵ことねさんですか?
「ひとつ。 放送室の鍵は、内側からかかっていたのよ。 先生方がドアを蹴破ったのだから」
「そうなんだ、すごい執念があったんだねぇ」
ーーまあ、鍵がかかっていることは、知っていたけど?
「ふたつ。 あの人には持病がないわ。 健康診断の結果を見たもの」
「そうなんだ。 だったら、疲労で倒れたんじゃないの?」
「……」
あれれ? 怖いな〜 睨んできたよ?
「みっつ。 貴女、壇上で泣いていたわね」
「泣いてないよ? 悲しかっただけ」
ーー涙なんて。 とっくの昔に枯れているよ。
「そう。 それよ」
「……」
ことねの目が、真相に近づいたようだった。
「相手には見えていないの。 放送室にいるのだもの。 ……貴女は、誰に向かって嘆いていたのかしら」
「はあ? 別に、その場で嘆くのは普通じゃない? 私、前に立っていたんだし」
ーーさっきから、聞いていれば、何が言いたいのかなぁ?
「ことね。 私、なにかしたの? ……もしかして、疑ってる?」
「ええ……」
「そんな! 酷いよ! 私たち親友じゃん!」
「だからこそよ……」
ことねは、まっすぐ私を見た。
ーーふうん? 親友ってそんなものなんだ? 私は、少しだけ考えた。
「……」
「貴方はいいの。 ……もう、わかっているわよ」
「……」
ーーやれやれ。 文句だけ言って、勝手に納得してもらってもね?
「瑞稀」
「なあに」
「貴方は、なにを考えているの?」
「別に? ……ほら、帰ろうよ?」
「私は、校長に顔を見せるわ……」
そう言って、ことねは校長の病室の方へ歩いて行った。
「さて、帰るかなぁ」
「……」
◇◇◇
「ひとみ……」
「はい」
「貴方が瑞稀を監視しなさい」
「かしこまりました……」




