入学式から始める学園制圧
85、新入生を歓迎する
入学式の朝だ。 鏡の前で、私は何度もリボンの位置を直している。
「お姉ちゃん! まだかよ」
「護。 今日からは、倉石生徒会長と呼びなさい!」
「ええ〜」
私は、弟の護へ指を突きつける。 姉として、当然の行為だ。
「ふふん。 立場が逆転したね」
「……お姉ちゃん、調子いいよなぁ」
「当然でしょ!」
私は、この春から二年生になる。 新しい気持ちで臨まなくちゃね!
「お父さんは、来ないの?」
「うん。 ごめんな、って言ってた」
「そっか……」
ーーまあ、お父さんは口だけだからね。 結局、私の入学式も来なかったし。
玄関には、お母さんが立っていた。 無駄に張り切っちゃってーー
「護、行きましょ」
「はい、お母さん」
私たちは、三人揃って学校へ向かった。
◇◇◇
理想学園の体育館は、今日は保護者でいっぱいだった。
代表者席に座って、私は前を向いている。 時間が来たので、私は前に出た。
「……本日は、晴れやかな春の日に……みなさんをお迎えできましたことを、心から、感謝しております……」
うんうん。 しっかりと丁寧に。 それでいて短くね。
ーーうん? 司会役? 校長? さあ? 今頃、ぼやいているんじゃない?
「続きまして、私より歓迎の言葉があります。 新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます」
拍手が起きる。 みんな、律儀だね。
「……この学校は、変な学校です。 去年、私がこの場所に座っていた時、強制クラブ加入制度というものがありました。 今年からは、ありません。 なくしたからです」
どよめきが走った。 新入生たちが、隣同士で顔を見合わせている。
「つまり、この学校の決まりは、変えられます。 ……気に入らないことがあったら、私のところに来てください。 一緒に壊しましょう」
先生方の席から、明らかに困った空気が流れてくる。
でも、生徒たちは笑って、拍手をしていた。
「それでは。 ようこそ、理想学園へ」
ーーああ。 最高だよ。
私は、ようやくわかった気がした。 これが支配者なんだね。
「続きまして、新入生代表、宣誓」
「はい」
「違います」
「え?」
私が声を上げると、黒田凛が声を上げた。 ーーしかし。 残念だなぁ。
「新入生代表……倉石護」
「はい」
会場が騒然としている。 凛が、立ったまま戸惑っている。
私も、昨日までは君に担当させるつもりだったんだよ。
ーーごめんね、凛。 恨むなら、君の父を恨んでね?
君の父が、私の楽しみを奪ったから、悪いんだよ?
「私たち新入生一同は、伝統ある理想学園の一員として、規律を重んじ……」
護が読み上げていく。 整った文字だった。 ひとつの間違いもない、正しい言葉だ。
『……我々全員。 生徒会長、倉石瑞稀に忠誠を誓います』
体育館が、静かになった。 先生たちが腰を浮かせるのが見えた。
ーーもう。 手遅れだけどね〜
「これは一体、なんなの?」
「……瑞稀ちゃん?」
遠くで、凛や舞香が戸惑っている声が聞こえる。
ーーへえ? 君達には、通用しないんだ〜
新入生席がざわめく。 この文章の意味を誰も理解していないね?
「みなさん。 落ち着いてください」
私は、まっすぐ前を見た。 みんなが疑いの表情で私を見ていた。
「倉石護。 駄目でしょ! そんなもの読んだら!」
「……お姉ちゃん、ごめんなさい」
「お姉ちゃん? ……私、言ったよね? 倉石生徒会長と呼べって?」
「はい」
「その文章は、なに? 貴方、何様なの?」
「ただの生徒です……」
会場の空気が、変わったね? あれれ? みんな、どうしたのかなぁ?
「これは」
「……凛ちゃん、どうなっているの?」
「完全に、瑞稀に主導権を握られたわね……この状況は明らかに、おかしい」
私は、なぜかシーンと静まり帰った体育館を見回した。
うんうん。 眉唾だけど、効力があったね。
さすがは、悪霊の力って奴? ーー実験完了っと。




