父親の願い
春休み最終日。 なのにも関わらず、私は制服姿で学校の応接室に座らされていた。 ーー納得いかなぁ。
今日は家で新作ゲームで遊ぶ日だったのになぁ。 それを一本の電話が台無しにした。
『明日、応接室に来なさい。 君と話がしたい』
それだけ。 拒否権もなし。 どうしてなのかな?
「待たせたかな? 倉石瑞稀」
「い、いいえ」
扉が開いて、黒田幕斗が入ってきた。 私は、足を曲げて床に座ーー
「おい、またか。 ……君は、俺をなんだと思っているんだ?」
「怒らせたら、存在を消すことができる人……いえ、なんでもないです」
私がそう答えると、彼はスキンヘッドの頭を掻いた。 ちなみに片目には傷痕がある。
「はあ。 まあ座りなさい。 たしか君、コーヒーが嫌いなんだってね」
「どどど、どうしてそれを……」
「明里や凛からに決まっているだろ……」
私の様子に呆れたのか、幕斗さんは紅茶を渡してきた。 ーーチッ。
「⋯⋯さて。 呼び出した理由だが」
「はい」
「私は君を排除するように依頼された」
「⋯⋯は?」
ーー思わず素の声が出てしまったよ。 正直者なんだね?
幕斗は、おかしそうに口の端を上げた。
「アイツらは君の存在が邪魔なようだ」
「⋯⋯そのために春休みの最終日を潰したんですか?」
「言うじゃないか、倉石瑞稀」
「⋯⋯失礼しました」
ーーしまった。 ついつい本音が出ちゃったよ。
でも黒田幕斗は怒らなかった。 淡々と紅茶を飲んでいる。
ーーやりにくい人だ。 怒ってくれたほうが、こっちは楽なのになぁ。
「今年度から、強制クラブ加入制度が廃止された」
「⋯⋯はい」
「あれが一番、気に入らないらしい」
「⋯⋯はあ」
ーーそうか。 制度を変えるって、そういうことなんだ。
「⋯⋯それで、私を消すんですか?」
「いいや。 そんなことはしない……」
ーーへえ? どうしてかなぁ? そのために、ベラベラ喋っていると思ったけど?
「⋯⋯幕斗さん」
「なんだね。 倉石瑞稀」
「私、まだやりたいことがあります」
「……」
「⋯⋯だから、見逃してくれませんか?」
幕斗の手が止まった。 それから、彼はカップを置いて、じっと私を見た。
ーーさて、どう出るかなぁ? 黒幕さん?
「私が今日、自ら紅茶を用意した理由がわかるかい?」
「……理由ですか? なんでしょう?」
「俺の答えはこれだ……」
そう言うと、幕斗は床に手をつき、そして頭をつけた。 土下座だ。
「⋯⋯幕斗さん? どうしたんですか? やめてくださいよ」
「俺はどうなってもいい。 だが、明里や凛には手を出さないでくれ……」
「……」
ーーチッ。 そうきたか。 つまらない行動だね?
それにしても。 いつバレたのかな? 盗聴していることにーー
「⋯⋯今日はここまでにしよう。 明日は入学式だ。 凛が挨拶をするんだ」
「⋯⋯はい」
「では、失礼するよ……」
応接室を幕斗は出ていく。 私は手元にある粉を見つめた。
春の校舎は、まだ静かだった。 明日になれば、新入生が入ってくる。 私は二年生になって、後輩ができる。
「私を排除するねぇ⋯⋯まあ、既に知ってたけどねぇ?」
◇◇◇
校長室に集まった重役たちは焦っているね?
「馬鹿な、黒幕が降りた、だと?」
「どう言うことだ!」
「大丈夫なのか本当に!」
荒れる校長室。 そこで彼らを諌める校長先生は苦虫を齧った表情をしています。
「倉石瑞稀。 あの女が変なトンチキをしたに違いない。 ただの小娘の分際で。 小賢しいことだ。 ……だが、いくらでもやりようはある。 例えば……」
ーーその様子を聞いているのは、私ーー倉石瑞稀でした。
「次は何かな? せいぜい、みんなの前で大々的に恥を晒してね?」
『ククク。 イイゾ、クライシミズキ』
ーーでも、その前に実験かなぁ? さあ、ゲームを始めよう!




