恋愛ってなに?
夜、消灯時間はとっくに過ぎている。 でも、温泉旅行の夜はこうでなくちゃいけないよね。
「というわけで! 第三回、女子会を開催しまーす!」
「……」
「ちょっと瑞稀。 声が大きいわよ」
「ごめん、ごめん」
「まったくもう……」
彩乃に叱られながら、私は座布団の上で正座した。 目の前にはお菓子の山とジュース。 うん、我ながら完璧な布陣だね。
「おい瑞稀! 枕投げしようぜ!」
ひとみは、私にそう提案してきたけど断ろ。 だって、私の顔面に枕を叩き込まれそうだったからーー 怖いねぇ?
「⋯⋯でも旅館の枕って、けっこう高そうだからやめとこうよ」
「チッ」
「……」
「本当にそれが理由かしら?」
「違うわね……」
「うん」
全員が黙った。 なんでさ。
最初に始まったのは、恋バナだった。 やっぱり定番だよ!
「じゃあ、まずは舞香から! 好きな人は!」
「⋯⋯私から?」
「う〜ん。 まだ、いないかな?」
「へぇ? じゃあ、凛は?」
私が凛に問いかけると、こう答えた。
「⋯⋯私は、守りたい人がいます」
「おお! どんな人?」
「⋯⋯無茶苦茶な人です。 人を振り回して、平気で無理をして、⋯⋯そのくせ、自分が誰かを傷つけたことに気づかない人」
「⋯⋯うわぁ、それ最低な人じゃない? 誰、誰?」
私が言うと、部屋が静かになった。
ーーあれ? 私、変なこと言った?
「……」
「⋯⋯そうね。 そんな奴は最低ね」
「お姉ちゃん……」
「⋯⋯でも、そういう人ほど、放っておけないのよ。 ⋯⋯厄介なことに」
「同感だな」
彩乃はお茶をすすった。 なんだか大人っぽいなぁ?
「じゃあ次、彩乃! ……は柳田庶務だからパス!」
「ええー! 私と健太の惚気話を聞きなさいよ!」
「⋯⋯また今度ね」
「なによそれ!」
彩乃はそっぽを向いた。 ごめん、冗談だって!
彩乃の惚気話が終わった後、私はひとみに話をふる。
「じゃあ、ひとみ!」
「アタイか。 ⋯⋯そうだな」
ひとみは畳に寝転がったまま、天井を見ていた。
「⋯⋯神子様だな」
「知ってるよ! 好きなんでしょ? 尊敬してるって……」
「いんや、愛してるんだ……」
「……」
「⋯⋯えっと、それは。 崇拝の意味だよね?」
「いや。 付き合って、結婚したいって意味だ」
「はぁ? ……あり得ないよ」
私がそう言うと、ひとみは首を傾げた。
「⋯⋯なぜだ。」
「え? 恋愛って普通は……」
「⋯⋯普通ってなんだよ?」
「え? それは常識的に考えて……」
「⋯⋯常識ってなんだよ! なぁ、瑞稀!」
「……ちょっと、近いよ……」
変なひとみ。 ーーまあ、ひとみはいつも変だけど。
夜が更けるにつれて、話題はどんどんくだらなくなっていった。
舞香さんが持ってきたトランプで大富豪をやって、私が四連続で大貧民になったあたりで、話がまた元に戻った。
「ねえ、みずちゃん」
「……なあに、舞香さん」
「……と喧嘩したの?」
「……」
ーー舞香のふとした発言に、全員の視線が集中するのがわかった。
「なんのことかな」
「……」
「……は黙ってて、私は今みずちゃんに聞いているの」
場の雰囲気が重くなる。 こんな展開は求めていたものと違う。
ーーあ〜あ。 どうして、私がプレゼンする旅行は、毎回こうなるのかなぁ?
「舞香? さっきから、なにを言っているかわからないよ? あ……ちょっと用事を思い出したから出るね!」
「……」
「ちょっと! みずちゃん!」
私は逃げたーー もう、何度目かわからない。
◇◇◇
「舞香……」
彩乃が、静かに妹の名前を呼んだ。 その声に舞香が反応する。
「⋯⋯ごめんなさい、お姉ちゃん。 もしかして、余計なことをした?」
「⋯⋯いいのよ。 ごめんなさいね。 私が説明しなかったから……」
「もう! 瑞稀ってば、また逃げたのですわ! 私、とっちめてやりますの!」
「美羽、落ち着いてよ」
ーーチッ。 どいつもしけてやがるぜ。 その中で美羽は、できるだけ明るいフリをしてやがる。
「落ち着いていられませんわ! ……私だけなら、悔しいけど、とっても悔しいけど我慢できますの! でも……」
「美羽! その台詞……」
凛がショッピングモールの時を思い出すように呟いた。
「私! 瑞稀を叱りに行きますわ!」
そう言って美羽は飛び出しって行った。
ーーアイツ。 瑞稀がどこに行ったかわかるのかよ?




