みんなで旅行に行こう ーー凛視点
春休みも終わりが近づいた頃、私のスマホに一通のメッセージが届いた。
『凛! 今度の週末温泉行こうよ!』
差出人は倉石瑞稀。 文面はそれだけだった。
私は内心でワクワクしながらも、冷静に文面を打ち込む。
『別にいいけど、どこの温泉?』
『凛が春休みに行ったとこ! いい宿だって聞いたから!』
『⋯⋯なんで? そこなの?』
『秘密だよ!』
瑞稀は今度は、なにを企んでいるのかな? ーーまあ、いいか。
◇◇◇
集合したのは六人だった。
私と、舞香。 その姉の彩乃さん。 それから、美羽。 そして言い出しっぺの倉石瑞稀。 それから吉澤ひとみ先輩ーー
「あれ? ことねは?」
「ことねは、湊と一緒にラブコメですわ!」
美羽が、そう言いながら手をハートマークにしている。
「なんだよ、神子様がいないんじゃ、アタイ来る意味なかったな〜」
ひとみ先輩はそう言って、缶を蹴る素振りをしていた。
そんなこんなでバスに乗ったんだけどーー
「⋯⋯あら? この宿、けっこう高いところじゃない」
「大丈夫大丈夫! 学生団体割引だから!」
「六人で団体を名乗るのはどうなの」
「言ったもん勝ちだよ、彩乃!」
バスの中で、倉石先輩は終始この調子だった。
ーー見た目は元気そうだけど、目が笑ってない。
「瑞稀! どんなところか楽しみですわね!」
「……」
「一緒にお風呂に入るのですわ!」
「……」
私はその様子に違和感を抱いていた。 それは、隣にいた舞香もだった。
「みずちゃん? また、ミウミウと喧嘩しているのかな?」
ーーまた。 どうやら、二人のこの状況は、初めてではないらしい。
そんな雰囲気の中、ひとみ先輩はじっと瑞稀を見ていた。
「ぐう、ぐう。 この世界のヒロイン。 桐原彩乃ぐう……」
こんな状況で呑気なのは、彩乃先輩だけよね?
私は窓の外に目を逸らした。
バスは山道を登っていく。 二週間前、父の車で通った道と同じ道を。
◇◇◇
宿に着くと、倉石先輩は真っ先に温泉に向かうようだ。
ーーまだ午後三時なんだけど。
「瑞稀、早くない?」
「温泉宿に来たら、まずは温泉だよ! これは常識だよ彩乃!」
「違いますわ、瑞稀! ご飯ですの!」
「さあ、お風呂行こう!」
瑞稀は、私と舞香と彩乃を連れて温泉に向かった。
ーーあれ? ひとみ先輩は?
暫し温泉に浸かった後。 私は浴衣を着ていたんだけどーー
「わあ、凛ちゃん可愛い!」
「⋯⋯舞香、恥ずかしいわよ」
「大丈夫だって! 凛ちゃんの恥ずかしいところはもう見たから!」
「はあ。 ……はいはい」
瑞稀と舞香に私はされるがままになった。 悪くない、と思ってしまう自分が悔しい。
そんな時、ひとみと美羽が後ろから現れた。
「おい、瑞稀。 卓球台があったぜ」
「なんだって! 行くしかないでしょ!」
「⋯⋯浴衣で卓球って、動きづらくねぇか?」
「これも常識だよひとみ!」
「そうかよ。 ……だってさ! 美羽!」
「よし! 勝負ですわよ! ひとみ!」
「おうよ!」
◇◇◇
卓球は、結論から言うと地獄だった。
美羽とひとみ先輩の試合が、なぜか一時間近く終わらなかったからだ。
「まだやるの、あの二人」
「⋯⋯負けず嫌い同士なのよ、あれ」
「凛ちゃん、麦茶飲む?」
「ええ」
舞香が紙コップを差し出してくれる。 美味しいわね。
ふと、私は瑞稀の方を見た。 ーー正直、ゾッとした。
人間って、こんな冷たい無機質な表情ができるんだーー
「⋯⋯凛? 顔色悪いわよ」
「⋯⋯彩乃さん」
「言いたいことがあるなら、後でね。 ⋯⋯ここじゃ駄目よ」
彩乃さんは、私を見ずにそう言った。
この人は、知っている。 ずっと前から。
◇◇◇
夜。 露天風呂は貸し切り状態だった。
湯気の向こうで、倉石先輩が大の字になって浮かんでいる。 行儀が悪い。
「はぁ〜。 生き返るぅ〜」
「瑞稀! お風呂で寝ないでよ!」
「凛は真面目だなぁ」
湯に肩まで浸かると、山の冷たい空気が顔だけを撫でていった。 星が近い。
「⋯⋯凛」
「はい」
「来年度、生徒会役員になってよ」
「⋯⋯え」
倉石先輩は、空を見上げたまま言った。 それは、私から頼もうと思っていたことだった。
「私、来年もいっぱいやりたいことがあるんだ。 でもね、一人だとできない。 ⋯⋯だから、お願い」
ーー私、必要とされてる。 でも、だからこそ、このままじゃいけない。
「⋯⋯瑞稀」
「……なあに」
「どうして美羽のことを無視しているんですか?」
湯の音が止まった。
倉石先輩はきょとんとしていた。 その時、誰かの気配を感じた。
私のすぐ横で、湯に浸かったまま、こちらを見ている人がいる。 その視線が、痛いくらいに私を刺していた。
「凛? どうしたの、変な質問して」
「⋯⋯いえ。 のぼせただけよ」
私は嘘をついた。 この人と同じ、笑顔で。
◇◇◇
部屋に戻る廊下で、彩乃さんが待っていた。
「⋯⋯気づいたのね」
「⋯⋯はい」
「言っておくけど、指摘しても無駄よ。 私も一度やったから」
「⋯⋯どうなりました」
「……」
私は、言葉を失った。
「⋯⋯なあ、彩乃」
角を曲がって、ひとみ先輩が現れた。
「凛、お前……気づいたか?」
「⋯⋯ええ。 おそらく舞香も……」
「そうだよなぁ……」
ひとみ先輩が、後ろを振り返る。 そこには、瑞稀と美羽がいた。
一体どうなっているのよーー




