卒業生を見送ろう!
83、卒業式で在校生代表の挨拶をする
三月。 卒業式の朝は、よく晴れていた。 体育館の中に全校生徒が揃っていた。
前では、校長先生が活き活きと喋っている。 まあ、たまにはね。
私を始め、ほとんどの生徒がウトウトしながら聴いていた。
「と言うことで、ですね、名残り惜しいですが、そろそろ終わりに……そう言えばですね……」
ーーでも。 もう、二度目はないよ? 校長先生?
それから、数分後ようやく話が終わり、私の出番が来た。
私は体育館の壇上に立ち、マイクの前で息を吸う。 一年前、私が新入生代表として立ったのと同じ場所だ。
あのときの私は、この場所で盛大にやらかした。
ーー今日はやらかさないよ。
「在校生代表 倉石瑞稀」
「はい!」
客席で一部の生徒が頭を抱えるのが見えた。
ーー失礼な。 まだ何もしてないでしょ。
「卒業生のみなさま、ご卒業おめでとうございます。 ⋯⋯私が初めてこの学校に来た日、校門で出迎えてくださったのは、黒田陽介生徒会長でした……」
言いながら、思い出す。
あの日、私に彼は言ってくれた。 君の演説、楽しみにしてるよ、と。
その直後に期待を粉々に打ち砕いたわけだけどーー
「先輩方は、私たちに『ようこそ』と言ってくださいました。 だから今日は、私たちが言う番です」
私は原稿から顔を上げた。 最前列に、黒田陽介先輩が座っている。
「⋯⋯行ってらっしゃい。 いつでも、帰ってきてくださいね」
卒業生の何人かが、鼻をすする音が聞こえた。
ふふ。 どうだ、今日の私は完璧だよ!
式のあと、校門には人だかりができていた。 写真を撮る人、泣いている人、明日から会えないことを実感していない人もいるじゃないかな。
私はその中で、一人の先輩を探していた。
「⋯⋯やあ、倉石瑞稀」
「黒田先輩! 卒業、おめでとうございます!」
「ありがとう。 ⋯⋯いい挨拶だったな」
「本当ですか! やった!」
「一年前とは大違いだ」
「その話はやめてください」
黒田先輩は肩を揺らして笑った。 この人は、意外と快活な人だ。
「君に生徒会を任せたときは、正直、終わったと思っていたよ」
「⋯⋯ひどいですね」
「でも、それは間違いだった……」
先輩は校舎を振り返る。 卒業証書の入った筒を、指先で軽く回しながら。
「掲示板に貼られた君のリストを見たとき、面白い一年生が入ってきたと思った。 ずいぶん無茶な項目が並んでいたな」
「⋯⋯見てたんですか、あれ」
「学校中が見ていたと思うが」
ーーうわ。 そうだった。 顔から火が出そうだ。
「あの中に『生徒会長になる』という項目があった。 ⋯⋯あれは、達成したね」
「はい! おかげさまで!」
「でも変だな。 随分と内容がズレているようだが……」
「それは……」
ーー私は口を開きかけて、止まった。
「⋯⋯倉石? まさかとは思うが」
「なんでしょうか?」
「いや。 これは俺が言うことではないな。 忘れてくれ」
「……わかりました」
黒田先輩は、少しだけ目を細めた。
この人はいつもそうだ。 全部わかっているような顔で、何も言わない。
「だが、倉石。 ひとつだけ、先輩として言っておこう」
「はい」
「⋯⋯君は、人を集めるのも好かれるのも上手い。 だが、その後が下手だ」
「⋯⋯どういう意味ですか?」
「さあ。 卒業生の戯言だ」
先輩は筒で軽く私の頭を叩いて、歩き出した。
「あ、待ってください先輩!」
「なんだ?」
私は鞄から、包みを取り出す。
「卒業祝いです!」
「ありがたくいただこう……」
結局、先輩は笑って受け取ってくれた。
こうして前生徒会長黒田陽介先輩は理想学園を去って行ったーー
「……」
「さて行くかな!」
「……」
◇◇◇
「⋯⋯おや? これは、ことねお嬢様。 ごきげん麗しく……」
「ふん。 適当に繕った言葉なんて不要よ……」
「そうかい。 ……この学校を頼んだぞ」
「当然よ。 そんなこと貴方に言われなくてもね……」




