学校交流会をしよう!
82、他校と合同でお祭りを開く
三月、近接校である中高一貫校と親睦会を開催することになった。
ーー名付けて『花粉ちゃん祭』だ。 命名したのはこの私!
「というわけで、第一回『花粉ちゃん祭』を開催します!」
「倉石? なぜ花粉ちゃん祭なんだ?」
「この時期といえば花粉でしょ?」
「⋯⋯そうか?」
「納得してないよね今」
隣接する中高一貫校との共同祭。 本来は普通の春の交流会になるはずだったのだが、私が企画書に『花粉ちゃん祭』と書いて提出したところ、なぜか通ってしまった。 ーー不思議だなぁ?
グラウンドには黄色い着ぐるみが一体。 自作の花粉ちゃんである。
「ヒッ⋯⋯なにあれ⋯⋯」
「泣いてる子がいるぜ、瑞稀」
「失礼な。 可愛いでしょ」
「アタイでも無理だぜ、あれは」
ひとみがドン引きしている。 解せない。
結果として、花粉ちゃんは中学生たちに大人気となった。
「すっかり、着ぐるみ姿が板についてますね……は」
「田中書記? どうかしたの?」
「⋯⋯なんでもないですよ。 ……がいいなら、なにも言いませんよ」
田中書記は首を振った。 私は次の出し物へと歩き出した。
交流会は盛況だった。 ステージではスリーガールズが歌い、模擬店では彩乃が容赦なく行列をさばいている。
ーー実は雪まつりは、今日のための予行練習だったのだ。
私はティッシュ配りを担当していた。 祭の趣旨に沿った、実にまっとうな役割である。
「はい、ティッシュどうぞー! 花粉に負けないでねー!」
「⋯⋯あれ?」
差し出したティッシュを受け取らずに、その子たちは私の顔を見つめていた。
私を見て目を丸くしているのがわかる。
ーーもう! 今日はメガネをしてないから恥ずかしいな〜
「倉石……」
「……瑞稀ちゃん?」
「え、嘘。 根暗石だよね?」
私が返答に困っているとーー
「ほら、中学のとき、三年間ずっと同じクラスだった!」
「あ、みんな久しぶりだねー」
「覚えてる?」
ーー覚えてる? だってさ。 忘れる訳ないよね? ねぇ?
「覚えているよー」
「久しぶりだね! 倉石さん」
「元気そうじゃん。 あれ? お前、あのメガネ生徒会長だったん?」
「全然わからなかった!」
ーーへぇ。 そんなにメガネで気づかないものなんだぁ。
「よかったぁ。 倉石さん、高校で生徒会長やってるって聞いてびっくりしたよ。 中学のときは、ほら⋯⋯」
「⋯⋯ほら?」
「え? ⋯⋯ううん。 なんでもない……」
みんなは、そこで言葉を切った。
みんな最近こうだ。 言いかけて、やめる。 どうして誰も、最後まで言ってくれないんだろう?
「それよりも、聞いた? アイツら」
「……なあに?」
「ほら、お前で遊んでいた三人組だよ」
「3学期早々、ペンキ塗れの制服で来たんだよ」
ーー空気が、止まった。 私にとって、その話は残念で仕方ない。
本来なら、アイツらもここに来ている予定だったのになぁ? どうしていないのかなぁ?
周りの喧騒が、水の底みたいに遠くなる。 誰かが笑っている。 ステージから音楽が流れている。 なのに、それが全部、分厚いガラスの向こうにあるみたいだった。
「ちょっと、根暗石?」
「ちょっと、倉石さんに失礼でしょ! ……一応、生徒会長なんだから」
「⋯⋯倉石さん?」
「⋯⋯ううん」
気づけば、私は笑っていた。 勝手に口角が上がっていた。
「報告、ありがとう」
「⋯⋯そっか。 うん」
「ティッシュ、どうぞ 花粉、つらいでしょ」
「てゆーか根暗石。 花粉ちゃん祭ってな……ガァ」
「……」
花粉ちゃんがやって来て吹き飛ばしてしまった。 前が見えないのかなぁ?
「……」
「なんだよ、コイツ」
「アンタが失礼なことを言うからじゃない?」
「ごめんなさい、倉石さん、失礼するね」
「……」
私はその場に立ち尽くしたまま、手元のティッシュの束を見下ろす。
ーーなにか、変なことを言われた気がする。
なんだったっけ?
「⋯⋯まあ、いいや!」
「……」
「テッシュいかがですか?」
「……」
私はまた笑顔で歩き出す。 春の風が吹いて、目が痛かった。
ーーうん。 きっと花粉のせいだ。
◇◇◇
アタイたちは瑞稀と彼女に絡んでいる奴らの様子を観察していた。
ーーもしもの時に介入するつもりでな。 だが、花粉ちゃん扮する美羽がそれを止めた。
「⋯⋯なあ、ことね。 花粉ちゃん祭の意味って」
「⋯⋯ええ。 おそらくは、そうね」
「瑞稀の奴にとっては、あの中高一貫校が花粉なんだろうな……」
「わざわざ、メガネを外して自らの存在をアピールなんてね……」
ーー花粉ちゃんねぇ? かわいい名前のフリして残酷な話だぜ。




