ひとみの極秘任務 その20
ーー世界大食い選手権、優勝。
美羽の奴、マジでやりやがった。 海の向こうから届いた実況映像で、ツッコミどころが多かったが、たしかに優勝していた。
で、今日は二人の帰国予定日だ。 アタイたちは川端家で、美羽のための優勝パーティを用意してた。
ーーなのに、だ。 二人が、家に帰ってこねぇ。
「……遅いわね」
「空港には着いてるはずなんだがなぁ?」
アタイとことねは、顔を見合わせた。 連絡もつかねぇ。 嫌な予感って奴が、腹の底でじわじわ育っていく。 そんな時だった。
一緒に参加してた田中幸子——サッチーが、突然、誰もいねぇ空間に向かって話し始めやがった。
「エタナ、なんです? ……え? 瑞稀たちがあぶない? 三人組に襲われる? 場所はどこなんです? 近くの中高一貫校……」
誰と喋ってんだよ、と突っ込む間もなかった。 「三人組」「襲われるー—その二語で十分だ。
アタイとことねは、同時に駆け出してた。
ーーいやがった。 三人組だ。 懲りずに瑞稀たちを狙う気、満々って訳だ。
ハッ。 瑞稀の思惑通り、ってところが最高に胸糞悪ぃぜ。 「必ず直接的な報復に出る」あの書類の通りに、テメーらは動いてやがる。 台本通りに踊る操り人形が、粋がってんじゃねぇよ。
「よぉ。 こんな時間に、お散歩かい?」
「あら。 物騒なものをお持ちね? ……ここから先は、通行止めよ」
三人組の顔から、血の気が引いていく。 モールの時と同じだ。 神子の顔を見た瞬間、この土地の人間は動けなくなる。
逃げ場を探して泳ぐ目。 だが、もう遅ぇ。 背後の路地には部下たちが、音もなく網を張り終えてる。
ーー今度こそ、逃げ場なしだぜ。
◇ ◇ ◇
次の日。 アタイは川端家にいた。 昨夜の件の報告と、後始末の相談、のはずだったんだがな。
乗り込んで来やがったんだよ。 瑞稀が。
「あの三人が通っていた、学校の校長先生から連絡があったんだ。 置き手紙だけを残して、行方不明なんだって。 その置き手紙には『櫻井美羽さんへの罪を生涯背負って生きていきます』とだけ書いてあったらしい。 ことねが書かせたの? 気持ちはわかるけど、やりすぎだよ⋯⋯」
ーー白々しいぜ、オイ。
口では「やりすぎだよ」と諌めながら、瑞稀の目は笑ってねぇ。 いや、正確に言うぜ。 あの目は、諌めてる目じゃねぇ。 催促の目だ。
早く、寄越せって目だよ。 胡散臭い仮面の下から滲んでやがった。 ことねが確保しちまった獲物を、返せと言いに来たんだ、コイツは。
「残念だけど、貴方には渡せないわよ?」
「ッチ……無駄なことを」
そして舌打ち一つ。 明里の部屋でも聞いたぜ、その台詞。 テメーの中で、他人の善意は全部「無駄」に分類されてんのかよ。
で、その後だ。 もう一人の来客——美羽が、ことねに詰め寄った。
「ことね! あれは犯罪ですわ!」
そう。 昨夜捕まえた三人組は今、櫻井家の別荘に軟禁中だ。 拘束したのはアタイとことねだから、美羽の言い分は筋が通ってる。 通ってるんだがーー
「私は捕まらないわよ、神子である限りはね」
ことねは、平然とそう言い放ちやがった。
後で知ったことも含めて言うとな。 神子であることねの行動は、湊と秀五郎の旦那ーー後見人二人の監視と承認のもとで、条件付きで黙認されてる。 この土地じゃ、神子は法の外側に半分足を置いてるって訳だ。
帰国子女の美羽は、この川端家の闇を初めて知って、絶句してた。 気持ちはわかるぜ。 アタイだって、ファンクラブ代表を長年やってても、この深さは知らなかったんだからよ。
ちなみに、湊たちが今回の監禁にハンコを押した理由は「保護」だ。 建前じゃねぇぜ? あの三人、野放しにしてたら瑞稀に何をされてたか、それを知ってるのは、この世でアタイとことねだけだ。 檻の中が、一番安全な場所って皮肉よ。
◇ ◇ ◇
その後、三人組は釈放された。 釈放とは名ばかりの、厳重保護って状態でな。 行き先も監視も、全部管理付きだ。 もう二度と、美羽の前にも瑞稀の前にも現れることはねぇだろう。
めでたし、めでたしって、なるはずだよなぁ、普通は。
だがよ。 アタイは見ちまったんだ。 全部が片付いた後の、瑞稀の顔をよ。
三人組は社会的に終わった。 美羽の落とし前もついた。 学校側も置き手紙の件で大騒ぎだ。 壊滅工作の目的は、半分以上、形になっちまってる。
なのに、アイツの目はまだ、空っぽのまんまだった。
なあ、瑞稀。 テメーの復讐はよ、どこまで行きゃ終わるんだ?
それとも最初っから、終わりなんてねぇのか?




