ひとみの極秘任務 その18
休日のショッピングモール。 アタイは、尾行していた。
瑞稀、美羽、舞香、凛の四人だ。
「ミウミウ! この衣装が似合ってるよ」
「ええ? みずちゃん。 ミウミウにはこっちがいいよ」
「世界大会で着る衣装? ⋯⋯べつに制服でいいじゃない?」
「「良くない!」」
柱の陰から聞き耳を立てていた。 美羽の奴は三人が仲良く、自分の衣装を決めていることを、喜んでいた。
ーーテメー、自分がなんの駒にされてるか、知らねぇんだろうなぁ。
「ミウミウ、ちょっと先に行ってて。 サプライズで服を選ぶから」
美羽と凛が、飲食店の方へ離れていく。 さて、アタイはどっちを追う? 計画の本体は瑞稀側だが。
ーーなんて考えてた、その時だった。
アタイの視界に、とある三人組が映った。 そして、ソイツらが美羽を見て、嗤っているのをーー
アタイは咄嗟に、写真の記憶を漁った。 瑞稀の書類にあった「ターゲット」の三人組じゃねぇか!
ソイツらは、汚ねぇ面で美羽と凛の歩いて行く方向へ向かって行った。
アタイは、バレないようにこっそりとついていく。
ーーなにが目的なんだ? そう思った時だった。
「おいあそこにいるの。 ⋯⋯最悪。 金髪女いるじゃん」
「人見知りお嬢様がこんな所に来んなよな~」
「うわ。 なに、ニコニコしているんだよ、キモい」
ーーアァ?
女が三人。 ガラの悪さを香水で誤魔化したような連中だ。 吐いてる言葉は、冗談の皮すら被ってねぇ、生の侮辱だった。
美羽が、固まった。 オイオイ、嘘だろ。 あの美羽が、だぜ? 十段弁当を平らげながら世間話する女が、置物みてぇに動かなくなってやがる。
ーー知ってる面か、あの三人。 「前に通った学校」ってところだろうな。 美羽の固まり方は、初対面の理不尽に驚いてる顔じゃねぇ。 ーー覚えのある痛みを食らった顔だ。
「どうしたの⋯⋯ミウミウ? 大丈夫?」
「⋯⋯⋯⋯」
「ミウミウだって! 変なあだ名~」
「おいおい。 小学生のチビに心配されてやんの。 ウケる!」
「お嬢ちゃん、コイツと離れた方がいいよ。 暗い子だし」
「そうそう。 この金髪頭、見ているだけでムカつくし」
ーー凛にまで飛び火しやがった。
美羽が、俯きながらも、その場から逃げてねぇんだよ。 凛の肩を借りて、まだ立ってやがる。 コイツ、何かやる気だ。 なら、見届けるのが筋ってもんだぜ。
「⋯⋯ほっといてください」
「はあ? なに言ってんの?」
「私たちのことは、ほっといてください!」
ーー声、出しやがった。 格好いいぜ、美羽!
「やだね。 だってお前がニコニコしているのムカついたし」
「本当な、無能なお嬢様如きがな~」
「マジ、ムカつくんだけど。 ずっと俯きながら、引きこもっていたらいいのに」
「そうそう、私たちに怯えてな~」
あの手の連中はな、俯く相手を見て安心する生き物なんだよ。
「⋯⋯別に私のことなら、とても悔しいですが⋯⋯好きに言っても構わないですわ! でも、友達を侮辱するのは絶対に許しませんわ!」
ーーハッ。 言いやがった。 声も足も震わせながら、自分の分は呑み込んで、友達の分だけは一歩も引かねぇ。 テメーは上物だよ、櫻井美羽。
「はあ? なにコイツ」
「おい、コイツらわからせてやろうぜ」
「⋯⋯ここは人が多いからな、密室でも連れ込むか⋯⋯」
ーーハイ、終了。 鑑賞会はここまでだ。
手ェ伸ばした時点で、テメーらはアウトだぜ。
「よく言った! 櫻井美羽」
アタイは柱の陰から、堂々と歩み出てやった。
「いい、面じゃねぇかミウミウ。 ⋯⋯そして、この最高に神子様へ恩を売れそうな機会に出くわしたアタイ。 最高じゃねぇか!」
「ひとみん⋯⋯」
「え? このヤンキーは、ミウミウの知り合いなの?」
「ふふふ。 アタイ、ついてるぜ!」
ーーおっと、悪人面が出てるか? 仕方ねぇだろ、本音なんだから。 ことねの大事な右腕を守った、って実績。 これほど美味い手柄があるかよ。 まあ、それを抜きにしても、出て行ったけどな。
そんな時、舞香とそして瑞稀の奴がやってきた。
「あれ? ミウミウここにいたの? ⋯⋯てっきりバイキングに行ったと思ってたのに」
「ミウミウ! サプライズプレゼント買ったよ!」
「ッチ。 なんだよ、もう瑞稀が来たのか。 これじゃ、恩売れないじゃん」
「ひとみ。 ⋯⋯どうしたの? 悪役面して」
「みずちゃん! あっち見て!」
「⋯⋯⋯! えっと、この状況はなに?」
ーーその一瞬、瑞稀の表情が驚愕に染まった。 間違いねぇ。 これは素の表情だ。
驚くアタイは一瞬、固まったが、そんなアタイにとある声がかかった。
「吉澤ひとみね。 ⋯⋯まあ、今回の行為は称賛にあたいするわね」
(なにぼさっとしているの!)
ーーことね?
「はわわ。 神子様! ご機嫌麗しく⋯⋯」
落ち着けアタイ。 人前だ。 設定を守れ。 蔑まれるファンクラブ代表の設定を。
ーーだが顔が緩む。 緩むんだよ! いつも塩対応のことねが、皆の前で、アタイを、褒めた! 今日は赤飯だぜ!
「ひとみ。 さっきまでの態度でバレバレよ。 私たちはこの様子に気づいて、慌ててやって来たのよ」
「ンだよ、彩乃。 ネコ被りがバレバレじゃねぇか⋯⋯」
ーーで、当の三人組はというと。
「なんだよ、コイツら⋯⋯」
「おい、この女。 神子だ!」
「チッ。 目をつけられたら厄介だ。 逃げるぞ」
そそくさと逃げていきやがった。 神子様の顔だけで撤退たぁ、この土地の民の鑑だなぁ? オイ。
「アァ? もう終わりかよー つまらないヤツらだなぁ」
「⋯⋯本当ね。 二度と、美羽の前に現れないようにしないと⋯⋯」
ことねの声が、一段低くなった。 人前だってのに、割と本気でお怒りだぜ。
「神子様! ヤツらの始末は、アタイにお任せください!」
「へえ。 ⋯⋯生温い対応はいらないわ。 やるなら、徹底的にやりなさい」
「ガッテンだぜ。 ⋯⋯オイお前ら、行くぞ!」
「「「「「「承知しました姉貴」」」」」
モールに散ってた部下たちが、瞬時に集結する。 さあ、お仕事の時間だ。 という演技をする。
アタイの本当の目的はーー倉石瑞稀だからだ。




