ひとみの極秘任務 その17
明里の家からの帰り道。 アタイは、前を歩く瑞稀を追いかけていた。
なんでかって? 決まってんだろ。 観察の続きだよ。 なにも解決してねぇんだ。 こうなりゃ家までついてって、腰を据えて探るまでよ。
アイツはさっきから、ぶつぶつと独り言を呟いてやがる。 気味悪いぜーー
「ただいま!」
「おかえりなさい、瑞稀。 ⋯⋯あら、そちらの子は?」
「そちらの子って⋯⋯えっ?」
「はわわ。 こんにちは」
玄関先で、瑞稀が勢いよく振り返った。 おいおい、マジで気づいてなかったのかよ。 アタイの尾行スキルもなかなかだが、テメーの警戒網もザルだなぁ? それとも、それも演技か?
「はわわ。 は、始めまして! ひゃー」
「⋯⋯この子は、文化祭で一緒に活動した、吉澤ひとみさん」
「あら、どうも。 瑞稀がお世話になっております」
「あわわ。 ⋯⋯いえいえ。 私の方こそ⋯⋯」
「ひとみはね、今は猫を被っているけど、本当はヤンキーなんだよ」
ーーオイコラ。
「⋯⋯瑞稀と仲良くしてね」
「わ、わかりましたです!」
だが、母親はまるっと聞き流しやがった。 ハハ、娘の言うことを冗談と思ってやがるな?
「あわわ。 お母様! ⋯⋯ちょっと、瑞稀さんと一緒にお話しがしたくて、お邪魔してます」
「うん。 私は特にないかな。 じゃあ、また学校でね」
「ちょっと瑞稀。 お友達に失礼でしょう!」
この塩対応よ。 だが母親は味方だ。
「ささ、上がってください。 ⋯⋯瑞稀、友達とは仲良くね」
「お言葉に甘えて、失礼いたします⋯⋯」
瑞稀小さく、舌打ちをしていやがったがーー
「オイ。 いい母親だなぁ?」
「⋯⋯そうだね」
「おいおい、素直に褒めてんだぜ? 喜べよ!」
「お褒めに預かり光栄の極みです」
「ははは。 お前はおもしれーな」
ーーなんだ? まさか、母ちゃん嫌いなのかよ?
「そんなお前にイイもんやるよー」
「え? いらない⋯⋯」
「なんだよ、しけてんなぁ? ⋯⋯本当は、明里に飲ませてヤロウと思ったけど⋯⋯お前でイイや」
アタイはカバンから袋を取り出した。 特製の粉だ。
「違法⋯⋯」
「はわわ、物騒です⋯⋯ってそんな訳あるかよ!」
「私の人生が⋯⋯」
ーー酷い言われようだぜ! 人をなんだと思ってやがる!
いや、まあ。 無地の袋に入った粉を「一緒にキメようぜ」つったアタイも悪かったけどよ。 言い方の問題だな、うん。
「⋯⋯まったく。 ホラ、出来たぞ。 一発、グイっといけよ!」
「ううう」
「おいおい。 びびってんのか? ⋯⋯しゃあねぇな」
アタイは部屋にあったストローを瑞稀の口に放り込んで、先をコップに突っ込んでやった。 介護かよ。
「ゴホゴホ。 あれ? 美味しい⋯⋯」
「⋯⋯それでさ、頼みがあんだよ」
「この流れで? 恩どころか、危険物しか売られてないんだけど⋯⋯」
「アタイは神子様と仲良くなりてんだよ! 協力しろよなぁ」
ーーさあ、ここからが演技の時間だ。
ことねとアタイの関係は、瑞稀には絶対に明かせねぇ。 だがな、逆に考えろ。
ファンクラブ代表って肩書きは、瑞稀に接近する口実として最強なんだよ。
「⋯⋯この前、挨拶してたじゃん」
「おいおい。 テメの目は、節穴かよ! 明らかに、アタイは神子様に蔑視されてたじゃんか!」
嘘は言ってねぇぜ? 学校でのことねは、打ち合わせ通りアタイに塩対応だからな。 あの蔑みの目、素かってくらい堂に入ってて、正直ちょっと泣きそうになるんだがーーそれは言わねぇでおく。
「⋯⋯ああ。 でも⋯⋯」
「なあ? 哀れだろ。 ⋯⋯そこでだ。 瑞稀! お願いしますわ」
「ちょっと、近いって⋯⋯もう、わかったから⋯⋯」
「しゃあー いただきました!」
ーー約束、いただきだぜ。
これで瑞稀公認の「神子様お近づき作戦」がスタートだ。 監視対象の隣に、監視対象公認で立てる。 我ながら完璧な布陣ーー今度こそな!
「お姉さん。 お母さんがご飯だって⋯⋯」
「うん。 すぐ行く!」
「……?」
ーーなんだ? 瑞稀はどこか行くのか? まるで、誰かに呼びかけられたみたいだな。
「じゃあ、アタイは帰るわ」
用は済んだ。 長居して怪しまれても困ると、思ったんだがな。
「ご飯を食べてから帰って! お願いだから」
ーーアァ?
「いいのかよ? 居たら邪魔だろ⋯⋯瑞稀もアタイのことが嫌いだろ?」
「⋯⋯なにを言ってるの? ひとみってそんなこと気にするタイプだったの? むしろ、このまま帰す方がまずいんだから、お願い!」
「お、おう。 ありがたくいただくぜ⋯⋯」
勢いに押されて頷いちまった。 ナンだよ、「このまま帰す方がまずい」って。 嫌いな女を引き留める理由としちゃ、意味不明だぜーー
リビングに向かって、謎は解けた。
「おいおい。 なんだよこりゃ! 団体様でも来るのか?」
「あちゃー。 ⋯⋯お母さん、なんでこんなに作ったの?」
「ついつい、作りすぎちゃった⋯⋯」
テーブルの上は、料理の山脈だった。ーー—なるほどなぁ? テメー、母親が張り切りすぎるのを見越してたのか。 娘の友達が初めて家に来た日の母親の行動を、だ。
いや、待てよ? それって、アタイを「友達が来た」とカウントしてるってことじゃーー




