ひとみの極秘任務 その16
「⋯⋯で。 なに病んでんだ? テメー」
「明里! 辛いことがあったら言ってよ⋯⋯」
アタイたちは、明里に連れられてリビングに通された。 外で騒がれちゃ迷惑だから仕方なく、って面してやがるが、追い返さねぇ時点でこっちの勝ちだぜ。
「⋯⋯別に、病んでないし」
「おいおい。 だったらなぜ、休んでんだ? そんなに休んでっと留年しちまうぞ? ⋯⋯ああ、わかった! アタイらとタメになりてーんだなぁ?」
「えっ? そうなんだ! ⋯⋯それもありかも⋯⋯」
「違うわよ!」
明里が大声で返す。 アタイはケラケラ笑ってやった。 瑞稀はしょんぼりしているフリをしてやがる。
ーーいいぜ、その調子だ。 怒鳴る元気が出てきたじゃねぇか。
「⋯⋯貴方達には、わからないでしょうね。 光の近くにいる影の存在なんて⋯⋯私が彼女たちよりも、劣っていることは、わかっているわよ! でも、光は眩しいほど、私は隠れていくの⋯⋯私に存在価値なんてない。 私はいなくてもいい人間なのよ⋯⋯」
ーー出たな、本音。
一年上に優秀な兄。 同学年には万能の天才ども。 一学年下にはこの土地の神子。 なるほどな。 挟まれてやがったのか、テメーは。 ずっとよ。
ふと、アタイはリビングの外へ目配せする。 そこには、凛がいやがった。
ーーよう、凛? 聞いてたかよ? 随分と、驚愕してやがるなぁ?
「あまりにも、タイミングが悪すぎたわ。 これでも頑張ったんだけどね。 でも、疲れたわ。 ⋯⋯だから、すべてが嫌になったの。 吉澤ひとみ。 貴方に取り入ったのも、すべてを破壊する計画のためだったのよ」
ーーハッ。 今更の自白かよ。
「⋯⋯以上。 つまらない話だったでしょ。 さっさと帰りなさい。 家族が帰ってくるわ」
明里は立ち上がり、リビングを出て自分の部屋へ入った。 凛は上手いこと躱したのか? 上手い奴だなぁ?
アタイはそんな凛をニヤリと一瞥してついていく。 ちなみに、前を歩いていた瑞稀は一瞥すらしなかったぜ。
「⋯⋯⋯なんでついてくるのよ」
アタイは返事の代わりに、明里のベッドに寝転んでやった。 ドヤ顔つきでな。 招かれざる客は遠慮したら負け、って言っただろ?
「⋯⋯明里。 私だってそうだよ。 同級生にことね。 ひとつ上には明里たちがいるもの」
「そうだよな! 神子様の存在に比べれば、アタイらはただのアリだなぁ」
アタイは軽口で援護した。 ーー瑞稀の言葉、方向は合ってるぜ。
だが、明里は首を横に振りやがった。
「⋯⋯どの口が言ってるの? 私、知ってるよ。 貴方の100のリストに、私の名前書いてないでしょう? 結衣や善子。 幸子の名前まで書いてあるのに⋯⋯」
ーーおい。 瑞稀が、俯いた。 言い返さねぇ。 マジかよ。 図星って奴か。
まずいぜ、これは。 瑞稀はダメだ、固まってやがる。 なら、アタイがなんとかするまでだぜ。
「⋯⋯にゃんだ? そのヘンテコな名前のリストは?」
「これだよ⋯⋯」
瑞稀が、ノートを取り出してアタイに見せた。 例の「100のやりたいこと」ーー入学式のアレの実物か。
「ハア? んだこれ? ほぼ水増しだなぁ」
「失礼な。 私の理想のノートなんだから!」
「あんだって? 理想? ⋯⋯願いごとなら、神子様にするべきだなぁ」
「ことねに願っても仕方ないでしょ?」
「なんだと! 神子様の加護がわからないとか、オメー⋯⋯」
言い合いながら、アタイはページをめくる。 なんだ、これは?
ーーとにかく、明里の言う通り、黒田明里の名前は、どこにもねぇ。
それどころか、これはーー
アタイは体で手元を隠した。 幸い、ミニペンがある。 アタイの筆跡スキル舐めるなよ〜
「まあ、今はいいや。 チェックが66までか⋯⋯うん? これは⋯⋯」
「ひとみん? どうしたの?」
67、黒田明里に会う
「へぇ。 んだよ瑞稀! もったいつけやがって! このこの!」
アタイはノートを瑞稀に突き返した。 ーー頼むぜ、乗れよ。
瑞稀は、ノートを見た。 一瞬。 面倒そうな仕草をした。
「⋯⋯え? ぁうん、そうだよ! 書いてるに決まってるじゃん!」
ーー乗りやがった。 コイツ、まさかと思うがーー もういい。 頭が痛い。
「私にも、見せて! ⋯⋯ハハ。 本当に書いてある⋯⋯」
明里がノートを受け取って、空を仰いだ。 その目が潤んでやがる。
ーーすまねぇな、明里。 その一行はインチキだ。
「そうだね。 私、勘違いしてた。 二人とも、ありがとう⋯⋯」
「おうよ! やっと気づいたか明里。 これからもアタイらはダチだぜ!」
「そうだよ。 私の憧れの人だよ⋯⋯」
明里が、アタイたちを抱きしめてきた。
ーー柄じゃねぇが、受け止めてやるよ。 ダチだからな。
部屋を出る時、瑞稀がアタイの袖を引いて、小声で言いやがった。
「⋯⋯無駄なことを」
ーーなあ、ことね。 アタイ、瑞稀のことがガチでわかんねよ!
◇◇◇
「お姉ちゃんも、私と同じだったんだ……」




