ひとみの極秘任務 その8
週末、アタイの部屋には再びことねが来ていた。 報告会って訳だ。
アタイは今日のことねの私服を凝視する。 今日もことねは最高だぜ。
「ねぇ? 飽きないのかしら?」
「なにを! ことねを見ることに飽きなんてこねぇよ! 神子様ファンクラブ会長を舐めるなよ!」
「……あれって、私じゃなくて、貴方を拝めるためよね? ……自覚ないのね」
「……どうした?」
「なんでもないわ、ねぇトラちゃん?」
「ニャー」
トラは今日もことねの膝の上だ。 もう定位置かよ。
アタイは生徒会室での一部始終を語り終えた。 三学期のイベント書類のこと。 瑞稀の「壁を超えられない臆病者」の独白。
そして、美羽との言い合いからの和解の『フリ』。
ーーあれが演技臭かったってこともな。
「へぇ……演技ね? しかも、文化祭じゃなくて別のことを……」
「雪合戦に、チョコ食べ放題祭に……花粉ちゃん祭とかいう謎の催しもだ」
「ふふ……ふふふ」
ことねが肩を震わせて笑い出した。
「私たちが文化祭について熱くなっているのに、当のご本人はまったく興味無しなのね?」
『わかる! わかるよ私! それでこそ瑞稀ちゃんだよ!』
アタイは咳払いして続けた。
「それでだ。 問題は美羽との和解場面よ。 アタイの見立てじゃ、あの言い合い……瑞稀は途中から演技に切り替えてたぜ。 声の荒げ方も、ポカンとした顔も、ワザとらしかった」
「あら。 どうして演技だと思ったの?」
姫様が目を細めた。 試すような視線だ。
「……勘だ。 アタイの勘がそう言っているんだ。 あの女、美羽の説得になんも感じてねぇ!」
「……及第点ね。 瑞稀は美羽の言っている発言をまったく理解していないわ」
姫様は満足そうに頷いた。 なんだよ、テストかよ。
「でも、半分よ。 ひとみ、貴方まだ気づいてない。 ……なぜ瑞稀は、美羽が来るとわかっていたのかしら?」
「あ? ……オイオイ、マジかよ。 心配させて、探しに来させて、弱みを見せ合う流れまで全部、仕込みかよ!?」
ゾッとしたぜ。 アタイがロッカーで見てたのは、素の瑞稀なんかじゃネェ。 美羽一人のために書かれた、一人芝居の舞台だったって訳だ。
「けどよ、わからネェのはそこだ。 なんでそこまでする? 普通に仲良くすりゃいいだろが」
「……それが、できないのよ。 あの子はね」
姫様の声が、少しだけ柔らかくなった。
「瑞稀はね『素の自分を出して拒絶されること』が、死ぬほど怖いの。 だから嘘の自分を作って、嘘の弱みを見せて、それで愛されようとする。 嘘なら、拒絶されても傷つかないもの」
ーーアタイは、なにも言えなかった。
猫を被って生きてきたアタイに、その気持ちがわからねぇはずが、ねぇんだよ。
「……で、もう一つの報告だ。 こっちが本題だぜ」
アタイは空気を変えるように、メモを取り出した。
「ロッカーから出た後、机の引き出しの奥で見つけた。 ……恐ろしい計画だ」
二人のことねが、同時にこちらを見た。
「その名も、……学校壊滅工作。 瑞稀の奴、とある中高一貫学校を潰す気だぜ」




