ひとみの極秘任務 その5
二学期に入って数日後の昼、今日もアタイは美羽を空き教室に誘っていた。
「美羽殿、いかがですか?」
「うん、うん。 最高ですわよ、ひとみん!」
美羽は十段重ねの弁当箱を、既に空にしていた。
美羽を釣るのは簡単だった。 コイツは餌があればいいんだ。
始まりは二学期初日。 アタイは特製唐揚げを持って、櫻井美羽に接触した。
『神子様ファンクラブの活動の一環で、試食をお願いしたく……』とかなんとか、もっともらしい理由をつけてな。
「ことねのファンクラブの方ですの? ……ふふん。 私に接触するとは、お目が高いですわね!」
その結果 一口食って、コイツはアタイの手を握ってこう言ったぜ。
『吉澤さん……いえ、ひとみん! 明日もお願いできますこと?』
ーーちょろすぎて逆に心配になったぜ。 ことねの一番近くにいる女が、こんな餌一つで釣れていいのかよ? コイツが右腕って正気かよ!
ちなみに、この料理はアタイの手作りだ。
今日のメニューは、唐揚げ、卵焼き、肉巻きおにぎり、ポテサラ、デザートに水ようかん。 毎朝アタイが作ってる。 ことねのためなら朝飯前だぜ!
お金は美羽持ちだが、量が半端ネェ! コイツ、ブラックホールかよ?
最初は普通の弁当箱一つだったんだぜ? それが二日目には『おかわりはありませんの?』、三日目には『三倍でお願いしますわ!』。 今じゃ十段重ねだ。 食材費として渡される金額も相当なもんで、櫻井家の財力を思い知ったぜ。 このお嬢様、どこにあの量が入ってんだ。
そして、自分で作った弁当をさらに食べてやがるんだ。
「む。 最近、食欲がありませんの……」
「はわわ。 そ、そうなんですか?」
ーーいや、おかしいだろ! 通常はどうなってるんだよ?
美羽には、神子様ファンクラブの顧問になってもらった。
これがアタイの策よ。 顧問って言っても名前だけの役職だ。 だが、これで美羽と定期的に会う『公式な理由』ができた。 ファンクラブ代表と顧問が昼メシ食いながら打ち合わせ、誰が見ても不自然じゃネェ。 倉石瑞稀に見られてもだ。
我ながら完璧な布陣だぜ。 あとは飯を食わせながら、自然に瑞稀の話を引き出すだけだ。
「食欲がないのも、瑞稀のせいですわ!」
「えっと? どうしたんですか?」
「瑞稀が、心を閉ざしてしまったんですの……」
ーーほう? 心を閉ざしたネェ?




