ひとみの極秘任務 その2
ーーピーポン。
「むひゃ……は!」
そんなアタイの妄想はチャイムの音で終わった。 ことねが来たんだな。
アタイは慌てて、玄関まで全力ダッシュ。 いや、待て。 落ち着け。 アタイ、こんな間抜けな姿を晒すのか?
ーーやらかした。 ギリギリでいいと思って、ワンピースに着替え損ねた!
今のアタイは、普段着のままだぜ? 最悪だ、今から着替えるか?
だが、ことねを玄関に待たせる訳には行かねぇ。
結局、アタイは玄関を開けた。
『ひとみちゃん! おはよう!』
「……はう」
元気に挨拶をしてくれたのはことねだ。
「……ごきげんよう、ひとみ」
次に声を出したのもことねだ。
ーーなに? それじゃ、わかりずれぇって?
アタイも思った。 そしたらことねたちはこういった。
「私が姫様」
『私がことね!』
それでよろしくとーー
「あらひとみ、挨拶もなしかしら?」
「あ、ああ。 ……歓迎するぜ!」
なんで、アタイがぼっとしたって? 初めてだからだよ! ことねの私服姿がよ。
ことねはラフなTシャツにジーンズ姿。 アタイはそれをガン見する。
目に焼き付けるんだ、この光景を。 学校じゃ絶対に拝めねぇ、夏休み限定の神子様だ。 まばたきの回数すら惜しいぞ!
『ひとみちゃん? 怖いよ!』
「ひとみ。 ことねを怖がらせないで」
ことねは、そういうと、腕を組んでアタイを睨んだ。
その冷徹な表情に、アタイの心臓は高鳴る。
「いや、その、ことねの私服姿が初めてだからつい……」
「あ、そう……貴方そんな理由で?」
『ねぇ! だから言ったでしょ! ギャップ萌えだって!』
「私は制服の方がいいんだけど……」
「な、それはもったいないぜ!」
アタイは声を張り上げた。 ことねはビクッと震えた。
「これからはアタイの前では私服でいてくれよ!」
「……いやよ、学校に私服は無理だわ」
『私、そういう意味じゃないって……ひとみちゃんこそ私服姿いいよ!』
「な! アタイの格好なんてたいしたことないぜ」
アタイの格好は、黒のTシャツにジーンズだった。 忘れてた。 思い出して赤面する。
『ちょうど、お揃いだね?』
「お揃い? きゅ!」
ーーお揃い。 アタイと、ことねが、お揃い。
視界が白く染まった。 走馬灯が見えた気がする。 主に、ことねとの思い出だけで構成された走馬灯が。
「あら? 気絶したわ。 彩乃は気絶しなかったのに……」
『ひとみちゃーん!? しっかりして!』
ーー気がつくと、アタイは玄関に倒れていた。 時間にして数秒らしい。 ことねたちに支えられて、なんとか居間まで案内する。
冷やしておいた麦茶を出して、買い込んだ菓子を並べて。 アタイとことねたちは、そんな会話をしていた時、ヤツが来た。
「ニャン」
『あ、猫ちゃんだ』
「ねこちゃん……」
トラがトテトテとやってきやがった。
そしてことねの太ももに乗った。
おいトラ! なんて羨ましいことしてやがる。 アタイがしたいぐらいなのに。
トラは我が家の飼い猫だ。 茶トラで、普段は客が来ると押し入れに引きこもる人見知り野郎のはずなんだがーー初対面のことねの膝の上で、堂々と丸くなってやがる。
「ふふ、かわいいわ。 一生撫でていたい……」
『やめて! 縁起悪いこと言わないで!』
ことねが目を細めて、トラの背中を撫でた。 姫様の方の声だった。 その手つきの、なんと繊細なんだ。
『ひとみちゃん、トラちゃんって名前なの?』
「お、おう。 茶トラだから、トラだ」
『そのまんまだね!』
「わ、悪いかよ! わかりやすいのが一番だろ!」
ゴロゴロと喉を鳴らすトラ。 ことねの膝の上という特等席で。
ーーいいか、トラ。 よく聞け。 テメーが今座ってるその場所は、アタイが命と引き換えにしても座れねぇ聖域なんだぞ。 それをテメーは、来て三十秒で。
「ねこちゃん……」
『あの、そろそろ本題に……』




