ひとみの極秘任務 その1
夏休みのある日、アタイは緊張していた。
なんたって、ことねがアタイのうちに来るんだからよ?
朝から部屋を掃除して、コンビニで菓子を買い込んで、麦茶を冷やして。 それでもまだ落ち着かねえ。 アタイは重症だぜ。
ーーああ? アタイとことねが知り合ったのは文化祭前で、仲良く会話するようになったのは二学期終わりだと? なに言ってやがるんだ?
アタイがことねと仲良くなったのは一学期だぜ?
あれは、体育大会の前で、ことねーーいや、正確には彩乃だったかに向けてボールを投げた男子生徒を処罰していた時だった。
アタイは後ろから近づき、ボールを投げた男子生徒たちを締め上げていたんだぜ。
「⋯⋯オイ。 神子様にボールを当てたのはテメーだな! よくも、ふざけた行為を、恥を知れ!」
「ゴ、ゴフ!⋯⋯」
「お、お前は吉澤ひとみ⋯⋯神子様ファンクラブ代表⋯⋯ヒグ」
「アタイを知っているのか? ⋯⋯じゃあ、どうなるか、わかるよなぁ?」
「……まちなさい、吉澤ひとみ」
「アァ? な! み、神子様」
それが、アタイと神子様の初接触って訳だ。
振り返ればそこには、神子様。 ことねが立っていた。 体育館裏の逆光を背にして、神様見てぇだ。 アタイの心臓は跳ねた。
「その人たちを、放しなさい」
「なぜだ? コイツらはアンタに危害を加えたんだぞ?」
手は男子の襟首を掴んだまま、ことねを見た。 我ながら器用な生き物だぜ。
ことねは小首を傾げて、アタイの手元と顔を交互に見た。
「……あれ? 猫被りしないの?」
「ハア? ……あ、はわわ」
ーーしくじった。 アタイ、神子様に向かってアンタなんて言ってしまった。
男子どもはその隙にずり這いで逃げていった。 けど、それどころじゃネェ。
「面白いじゃない。 吉澤ひとみ? 仲良くしましょう?」
ことねは、アタイに微笑んでくれた。
アタイは襟を正し、深々と頭を下げた。
「し、失礼しましたぁ……。わ、わたし、神子様のためなら、その、悪を滅ぼす所存でして……」
「滅ぼさなくていいから。……でも」
ことねはそこで、ふっと笑った。 それは、アタイが描いていた『神子様』じゃなくて、ごく普通の女子高生だった。
『ひとみちゃん! 私たちと友達になってくれたら嬉しいな!』
「ひとみちゃん? 私たち? ぐっ、ふう?」
危うく死にかけたぜ。 いや、死んだな。 尊死って奴だ、あの瞬間アタイは一回死んだ。 推しに友達になってと、言われて生きていられる人間がいるか? いねえよ。
ーーあれ? アタイ浮いてる? アタイの体が見えるぞ?
『ひとみちゃん! しっかりして!』
「『私』落ち着きなさいよ、大丈夫だって……あら? 死んでるわ」
こんなやり取りが、アタイとことねたちとの初対面だった。




