倉石瑞稀の嘘だらけの物語 その18
凛からもたらされたのは、桐原家の異変の報せでした。
川端家のリビングで、凛は昨日見聞きしたことを語りました。
舞香が、いるはずのない「お父さんとお母さん」と楽しそうに話していたこと。
そして目に隈を作った彩乃が夜中に打ち明けた話。
舞香が見ているのは亡き両親の幻影であり、それを見せて陶酔させ、完全に溺れさせようとしているのは、両親の仇である悪霊の仕業ではないかということでした。
ひとみは悪霊の実在を疑いましたが、ことねは「実際に見てみないと始まらない」と桐原家行きを即決しました。
しかしそこへ瑞稀が「私と美羽に行かせてほしい」と強く申し出、美羽も決意の目で懇願したのでした。
ことねは「怪しいわね」と不審を口にしながらも二人に任せ、連絡を条件に送り出しました。
凛は、二人の背中がどこか思い詰めているように見えたこと、そして瑞稀と美羽が話の間ずっと黙り込んでいたことに、後から気づいたのでした。
桐原家に着いた二人を、彩乃と、床でのんびりくつろぐ幸せそうな舞香が迎えました。
美羽は「正気になるのですわ!」と感情を露わにし、瑞稀がそれを宥めて「舞香に悪霊が取り憑いている可能性がある」と切り出しました。
しかし話の最中、瑞稀は決定的な言葉を口にしてしまいました。
「お母さんに聞いてくる」と言う舞香に対し、「そっか、すみませんお母様」。
誰にも見えないはずの舞香の両親が、瑞稀にも見えていたのです。
美羽は瑞稀の異常を悟り、「舞香の両親はいない!そして、貴方の弟さんもいないのですわ!」と迫りました。
瑞稀は図星を突かれて言葉に詰まり、「ミウミウに大切な人がいなくなる気持ちなんてわかるの」と美羽の腕を掴みました。
美羽も「優しいふりして舞香ちゃんを甘やかしているだけ、それは自分のためではなくて」と応酬し、二人の言い争いを、事情のわからない桐原姉妹が見つめる中、舞香がぽつりと呟いたのでした。 「みずちゃんも、私と同じなの?」と。
その言葉は全員の耳に届いてしまいました。 舞香は静かに、自らの真実を語り始めました。両親は本当はいないこと。
ずっと昔、まだ小さい頃から自分に見えていたのは幻だったこと。
そしていないと認めるには覚悟が要ったこと、美羽はそんな舞香の手に優しく手を重ねました。
「縋るのはやめよう。 私が一緒だから」舞香は涙を流しながら、瑞稀に手を差し伸べたのでした。 しかし瑞稀は、その手から逃げました。
「なんで? 私は認めないよ? 認めないから!」リビングの席を指差しても、そこから返事はありません。
それでも瑞稀は幻を手放すことができず、名前を呼ぶ声を振り切って、桐原家を飛び出して行ってしまったのでした。
桐原家から逃げ出した瑞稀は、「舞香の裏切り者」と呟いていました。
自分と同じ幻を見ていたはずの舞香が、一人だけ立ち直ってしまったことへの、行き場のない思いでした。
これからどうすればいいのか? そう彷徨う瑞稀の前に現れたのは、理想学園でした。体が勝手に向かっていたのです。 すべての決着をつけるために。
私服姿を気にした瞬間、瑞稀の服装が一瞬で制服へと変わりました。
そんな悪戯じみたことができる存在は、ただ一体。 瑞稀は仇を見るような目で校舎を睨みつけ、「エタナ! 全部貴方の仕業だったんだね!」と叫んだのでした。
この世界の全ての元凶が、理想の神エタナだったことを、瑞稀は確信したのです。




