私の答えは不明
親友以上を求めてダメなのですか? ーーえ? それって、どういう意味?
「え、えっと……美羽? それは、その、どういう……」
「言葉の通りですわ! 愛してますの瑞稀!」
「は?」
影を纏ったまま、美羽はまっすぐ私を見た。 曇っていたはずの目に、熱がこもっている。 これは悪霊の目じゃない。 本物の、美羽の目だ。
「私の理想は、瑞稀の一番になることですの。 親友なんて枠、他の誰かにいくらでも脅かされますわ。 ことねにも彩乃にも、ひとみにも。 そればかりか、先輩や後輩にまで……貴方は恋愛の念を抱かれていますわ!」
『百合体質ですね、瑞稀?』
「それは……」
何この状況。 頭が追いつかない。 さっきまで悪霊祓いのクライマックスだったよね? なんで恋愛のクライマックスが始まってるの?
『……瑞稀。 混乱しているところ恐縮ですが、状況の解説を』
「お、お願い……します」
『悪霊は心の隙間に付け込みます。 美羽の隙間は「存在意義」……つまり、自分の存在の理由を失っていました』
「つまり、美羽の存在意義を見つければ、悪霊はいなくなるんだね?」
ーーなるほどね。 それなら、美羽を納得させればいいんだね?
一方、美羽は開き直ったように、私に近付いた。
「さあ! 答えてくださいまし、瑞稀。 この世界なら、私は永遠に貴方の一番でいられますの。 誰にも邪魔されない、ふたりだけの学園。 ……それとも。 現実に帰って、私を親友どまりの席に座らせますの?」
ずるいよ、その聞き方。 どっちを選んでも、美羽を傷つけるんじゃないかな?
でも私は、ことねに「嘘つき」って叫んだ。 美羽にも叫んだ。 だったら私だけが、嘘で誤魔化すわけにはいかない。
「……正直に言うね、美羽」
「瑞稀!」
美羽が期待の表情で私を見ている。 私は深呼吸を一つして、まっすぐ美羽の目を見た。
「今の私には、分かんない。 美羽のこと、大事だよ。 でも、それが美羽の言う『好き』と同じものなのか、私には、まだ分かんないの」
「……そんな曖昧な答え、聞きたくありませんわ!」
「うん。 だから……現実で、確かめさせて」
「……え?」
美羽の目が、見開かれた。 予想外の回答だったよね?
「こんな作り物の世界で、閉じ込められて出した答えなんて、それこそ嘘になるよ。 私は嘘の一番じゃなくて、本当の答えを美羽にあげたい。 だから、現実で。 くだらないことで喧嘩したりしながら……ちゃんと美羽を知って、それから答えさせて」
「それは無理ですわ。 瑞稀……だって今の貴方は……」
美羽の目から、ぽろりと涙がこぼれた。
「大丈夫……なんとかするから! ……ねぇ? エタナ?」
『はい。 私が奇跡を起こしましょう!』
そう言うと、美羽は俯いてしまった。
「そんな言い方をされたら……信じるしかないですの」
「うん。 信じて!」
私は笑って、手を伸ばした。 光をすり抜けた、あの時とは違う。 今度こそ、届く距離で。
「帰ろう、美羽。 向こうで待ってて」
「……っ、ええ。 ええ……!」
美羽が私の手を取った、その瞬間。
「グ……ァアアアアアッ!!」
美羽の背中から、黒い影が引き剥がされるように迸り出た。 居場所を失った悪霊が、床の上で渦を巻いて蠢く。
『心の隙間が塞がりました。 悪霊は依り代を維持できません』
影は断末魔のような音を立てて霧散し――消える寸前、ぞっとするほど冷たい声を残した。
「オボエタゾ。 クライシ、ミズキ。 ゲンジツデ、マッテイル。 オマエニモコノチカラヲアゲヨウ……」
「……!」
『……瑞稀。 喜べない報告があります。 今のは分け身。 本体は現実側にいます』
私は唇を噛んだ。 私の敵は、想像以上に強敵みたいだ。
現実には、氷漬けの私の体と、私を忘れた世界と、悪霊の本体が待っている。 おまけに帰ったら、美羽への答えも探さなきゃいけない。
うん、盛りだくさんすぎるよ。 引き篭もってもいいかな?
それにしても、この世界を作れる程の力が、私にも手に入る?
それって! とってもーー




