親友以上はダメですの?
「ミズキ、コレカラハ、ココデフタリデ、スゴソウ?」
美羽がにじり寄ってきた。 ことねの語りに出てきた、あの悪霊。 ひとみを操り、物語の中では私に取り憑いた、心の隙間が大好物のアレ。
――それが今、目の前の美羽の中にいる?
「ミズキ。 ドコニモイカナイデ?」
「美羽……」
美羽が、一歩ずつ近付いてくる。 足が竦みそうになるのを、私は必死に堪えた。
「エタナ! 訳って何!? 説明して!」
『……美羽は、貴方の命の恩人です。 それは嘘ではありません』
「え……?」
『現実の世界で、貴方は不運に巻き込まれました。 校庭で、氷漬けになりそうでした。 それを美羽が救助したのです』
「そんなこと、美羽からもう聞いたけど……」
私がそう言うと、まるで違うと言いたげにエタナは左右に揺れた。
「え? なにが違うの。 私、今はこうしてピンピンしているけど……」
「……それはこの世界での話です。 現実世界では瑞稀の肉体は今も、生死の境を彷徨っています。 ……そればかりか、存在さえも」
ーー存在も? またか。 現実世界は、私を排除したいのかな?
『美羽は消えかけた貴方の魂をこの世界に匿い、繋ぎ止めた。 この世界が檻なのは、外に出れば貴方の魂が保たないからです』
「じゃあ、さっきの凍死体の話って……縁起が悪いんじゃなくて……」
『……はい。 貴方自身のことです』
頭が、真っ白になった。 私、植物状態なの? 病室でーー
『黙っていたことは謝ります。 真実を知れば、貴方の魂が混乱して、この世界の瑞稀もそうなってしまう。 ……ですが、もう限界です』
そう言うと、エタナはなぜこの世界ができたのかーーその答えを私に告げた。
『貴方を守りたいという美羽の想いに、悪霊が付け込んだ。 そうしてできた世界がここです』
「ソウヨ? ワタシハ、ミズキヲ、マモリタイダケ、……ダケド、ジャマモノタクサンイタ。 ……デモキエタ。 コレカラハズット、イッショヨ」
美羽が、うっとりと囁く。 エタナは、美羽の言葉を代わりに繋ぐ。
『現実は貴方を殺そうとした。 誰も貴方を覚えていなかった。 ……でも櫻井美羽だけは違います。 美羽はここで永遠に安全で、永遠に一緒。 その生活を望んでいるのです……』
「……それは、重過ぎない? 正直、ドン引きなんだけど?」
「……瑞稀? 今なんて言いましたの?」
「……いや、だから! 余計なお世話だって、言っているの!」
ーー確かに、怖いのは嫌だ。 死ぬのなんて、もっと嫌だ。 この世界にいれば、痛いことも怖いことも何もない。
でもそれだけだ。 私の理想は、ここでは叶えられない。
「私の理想はここにはないから……」
「瑞稀? そんなことはもう、どうでもいいではないですの!」
「……ごめん、美羽」
私は、顔を上げた。 もう、足は竦んでいなかった。
「私、帰る。 死にかけてても、怖くても、帰る。 だって私、お母さんやことねと約束したから。 現実の世界でまたね、って。 ……こんな所で止まってたら、物語の私を笑えないよ」
「なんで……? ナンデワカッテクレナイノ?」
美羽の輪郭が、黒く滲み始めた。 曇った目から、どろりとした影が溢れ出す。
「……私の価値は、一体なんですの?」
「今の、聞いた? エタナ」
『……はい。 「私の価値」。 あれは美羽自身の恐怖です』
やっぱり。 悪霊は、心の隙間が大好物。 だったら、あの影の奥で震えているのは――自分の存在理由がわからない。 一人の女子高生だ。
「美羽! 聞こえてるんでしょ!」
私は、影に向かって叫んだ。
「美羽の嘘つき! 私を守りたいんじゃない、存在意義がないことが怖いだけのくせに! ……だったら檻なんかいらないよ! 一緒に帰ろう! 現実でも、隣にいてあげるから! 親友なんだから、当たり前でしょ?」
「……親友で、終わりですの? それ以上を求めてはいけませんの?」
ーーえ? それって、どう言う意味?




