綺麗には終わらないストーリー
私が微笑みながら伝えた言葉を聞いた時、ことねは惚けた顔をしていた。
「……っ、し、親友? 私と貴方が? 冗談も休み休み言いなさいよ」
「冗談じゃないよ。 私は本気だよ」
「私の話を聞いてた? 別の世界では貴方の精神をボロボロにしたのよ? 怯えさせて、引き籠らせて。 家族崩壊までさせて……そんな相手を親友だなんて、どうかしているわ」
「……ふふ。 うん、どうかしてるのかもね!」
私は、まっすぐことねを見つめた。 もう、目を逸らさない。 別の世界で震えていた私じゃないから。
「でも、どうかしてるくらいじゃないと、ことねの親友なんて務まらないでしょ?」
「なによ、それ……意味がわからないわ」
ことねの肩が、小さく震えた。 俯いた前髪の隙間から、ぽつりと言葉がこぼれ落ちる。
「……本当は、分かっていたわよ」
「ことね……」
「楽しかったに決まっているじゃない。 湊と過ごした放課後も、彩乃と張り合った文化祭も、ひとみとのことも、忘れられるわけないじゃない」
顔を上げたことねの瞳は、濡れていた。 初めて見る、川端ことねだ。
「でしょ! なら……」
「無理よ……この世界の呪縛からは、逃れられないわ」
その一言に、私は息を呑んだ。
「私はね、瑞稀。 文化祭のあの日に、消える運命なの。 貴方たちのいる世界に、私の帰る場所はもうないのよ。 ……この世界はね、消えかけの私が最後に見ている、ただの夢。 理想なんかじゃない。 貴方の言う通り、ただの綺麗な独りぼっちよ」
「そんなことない! 未来は変えられるよ!」
「無理よ。 それが、この世界の確定事実。 決して揺るがない現実よ」
ことねは、涙を拭って笑った。 いつもの、あの高飛車な笑顔で。
「そんな未来。 私たちが覆そう! 大丈夫! 未来は変えられるよ?」
「瑞稀……あ、ああ」
ことねの目から、涙が溢れる。 ことねはもう、消えることが決まっていた。
私をこの世界に残して先にーー 気付けば、ことねの体が白く溶け始めていた。
そんなことねの表情は、私を見て呆れていた? なんで?
「思い出したわよ、瑞稀。 いい話のようにして、このまま終わらせるつもりね? ……まったく。 貴方って子は……後で覚えておきなさい」
「な、なんのことかな?」
白い光が、ことねの足元から立ちのぼる。 ことねの姿が、ゆっくりと透けていく。 私は咄嗟に手を伸ばした。 けれどその手は、ことねに届く前に、光をすり抜けた。
「ことね……!」
「……ああ、そんなのいらないから。 ワザとらしいのよ貴方は」
消えゆく光の中で、ことねは振り返った。 とびきり綺麗で、少しだけ意地悪で、そして今まで見た中で一番優しい、あの笑顔で。
「まあ、いいわ。 ありがとう、瑞稀。 ……私の、親友」
「……っ、ことね……! ことねぇ……!」
「じゃあ、現実の世界でまたね?」
その言葉を最後に、ことねは光の中に溶けて消えた。 誰もいなくなった体育館で、私はひとり、泣きじゃくった。
その時、聞こえてきたのは。 やっぱり、雰囲気を壊す『彼女たち』だった。
「瑞稀! またですの! 嘘で塗り固めたその仮面、剥いでやりますわよ!」
『まったく、その通りですね、美羽……』
ーーハア。 またまた。いい雰囲気が台無しだよ。 美羽にエタナ?
物語ってさ、綺麗事で終わらせるのが一番いいじゃん? それを敢えてさ? そんなに醜くしなくてもさーー
「五月蝿いよ? 何か用なの首謀者さん達?」
ーーそうだ。 この世界を創設したのはコイツらなんだ。




