すべては収束する ーーことね視点
状況は、硬直状態になったわ。 凛はブルブル震えながら舞香の後ろへ。 そんな舞香は、凛を守るように、ひとみに立ちはだかっていたわね。 ――そんな時。
体育館の扉が、開いたわ。
『……ダレダ』
紫黒の靄が、警戒するように渦の動きを止めたわ。 入り口の光の中、立っていたのは二つの人影だったの。
「櫻井さん! 倉石さんも! ……どうして来たの?」
舞香が叫んだわ。 二人の登場が、意外だったようね。
美羽は瑞稀の腕をしっかりと掴んで、前へ進んだわ。
「……なにあれ? こんなの知らない、私は悪くない……」
瑞稀は、伊達メガネの奥の目の焦点が結ばず、全身が小刻みに震えていたわね。
――ひとみの中で、悪霊が苛立っていたわ。 この二人はもう用済みのはず。 今頃は教室の隅で、膝を抱えて動けなくなっているはずの二人が、なぜやってきたのか、と。
「舞香様。 ご無事ですか?」
「……櫻井さん。 なんで来たの?」
「彩乃様から、頼むと言われていますので……」
美羽が、震える瑞稀の手を握ったまま、静かに言ったわ。
――こんな状況でも、猫被りなのね。
頭の隅で、燃えカスのようになったひとみが、小さく笑ったわ。 瑞稀の足は今にも崩れそうで、美羽の手だけが、辛うじてそれを支えていたわね。
「ひ……ひとみ、さん……」
瑞稀が、呻くように声を絞り出したわ。 ガタガタと震えながら、それでも顔だけは上げて。
「こ、怖い……怖いですけど……でも……あれは、ひとみさんじゃ、ない……」
『ホウ』
ひとみの唇が、ニタリと裂けたわ。
『キヅイタトコロデ、ナニガデキル。 ウツワハ、モウ、ワタサナイ』
「ひとみを返して! ……私でしょ? 獲物は……」
――ああ、まったく。 どうしてこう、命知らずなのかしらね。
*
気がつくと、ひとみは体育館の中にいたわ。 だけど、さっきまでいたみんなは、いない。 代わりに居たのはーー
「なんだよ、ここは。 アタイは、どうなったんだ?」
「……あら。 随分と動揺しているわね」
「そのお声は!」
声に振り返るひとみ。 暗闇の中なのに、その姿だけがはっきりと見えたわ。 トレードマークの制服姿。 そして、人を見下すことに慣れきった、傲岸な微笑み。
――そう。 私よ。 ひとみの言う、神子様。
ひとみは、私に向けて姿勢を正したわ。 そして、頭を下げたの。
「神子様! ずっと、お会いしたかったです! 復活なされたのですね! アタイの苦労は報われました!」
「……ふん。 足元を見なさい」
私は、つまらなそうに髪を払ったわ。 ひとみは、私の足を凝視するために、目を開いたわね。
けれど、足元は途中で見えなくなっていたの。
「どうなってやがるんだ……」
「貴方。 あんな行為で、この私が復活する、と思う訳?」
私は、嗤ったわ。 心底おかしそうに。 けれど、目はまったく笑っていなかったでしょうね。
「そんな……じゃあ、アタイのやったことは……」
私は、なにも答えなかったわ。 ただ、優雅に手を振って、話を流したの。
「……それで? これから、どうするの?」
「アタイは、最悪な奴だ。 みんなに、顔向けできねぇ」
利用されていた。 そんなことは、薄々わかっていた。 自分は何をやっていたのか、一年間も――と、ひとみは悔いていたわ。
私は、しばらくひとみを見つめていたわ。 値踏みするような、長い沈黙が続いたわね。
「……でも。 このままじゃいられねぇよ!」
「へえ……」
私は、嗤ったわ。 その笑みは、悪役令嬢の嗤いだったでしょうね。




