計画がバレるのも計画の内? ーーことね視点
凛と会談した夜。 ひとみは自室で、神子様の像を眺めていた。 お手製の等身大神子様像。 質感まで私にそっくり。
ーーあれ? まさか、ひとみ。 この世界でもこんなのを作ってないわよね?
「アタイは、神子様のためなら、なんでもする……」
目的を遂行するためなら、他人の犠牲などどうでもいいと考えるひとみ。
そんな時に、チャイムが鳴った。 ひとみは焦った。 誰だろうか、と。
「こんばんは、ひとみ。 ちょっといいかな? ……あれ? なに、その格好? ……黒ローブ?」
呆気に取られているひとみを放置して、瑞稀はひとみの部屋に向かった。
「ひとみの部屋の探索しよっと。 ……私の部屋も見られたんだから、これであいこだよね? ……ドア開けるよ!」
瑞稀の言い分によると、目には目を、歯には歯を。 以前ひとみに自分の部屋を見られた瑞稀は躊躇なく、部屋のドアを開けた。
「……?! 川端ことね!? ひとみ、一体コレは……」
部屋の中は、ろうそく一本の灯りだけが揺れていた。 瑞稀が踏み込んだその先には、見渡す限りの私の写真。 壁という壁、隙間という隙間に、私の顔が貼り尽くされていた。 学校の制服姿、読書する横顔、棚に並んだ等身大には届かないフィギュアまで。 全部、私。
ーーあれ? 怖くなってきたわ。 まさかとは思うけど、ひとみが私を自分の部屋に招待しなかったのは? そんなことより、続きを語れ? 酷いわね。
「なに、これ。 悪役令嬢 川端ことねの写真ばかり」
瑞稀はそう言うと、震えて塞ぎ込んだわ。 数時間後。 部屋の隅には、瑞稀がしゃがみ込んでいた。 メガネの奥の目を限界まで見開いて、ガタガタ震えながらこっちを見上げてやがる。 実に、哀れね。
「ひとみ……これ、貴方がやったの……?」
対するひとみはベッドの端に腰掛けたまま、足を組んでいた。
黒ローブのフードを目深に被って、笑っている。 これがアタイの本性だぜ。
「……瑞稀、これがアタイの秘密だ。 文化祭の当日にな アタイは、この人形に神子様の魂を入れる儀式を行う」
「あの女の魂だって? そんなのどうやって」
「おい? 伊達メガネ。 口に気をつけろよ?」
ここはひとみの聖域。 私を捧げる、信仰の祭壇。 その場で、そんな穢れた発言。 許せないわよね。
真ん中で仁王立ちしてる私の人形が無表情で、瑞稀をじっと見下ろしている。
「なあ? 瑞稀。 勝手に人の部屋に入ってきて『あいこ』だなんて言ったろ? でもなァ……」
ひとみはゆっくり立ち上がった。 ろうそくの炎が、影を壁いっぱいに引き伸ばす。
「見られて困るのは、アタイじゃねェ。 アンタの方なんだよ。 知っちまったな? アタイのことを……」
瑞稀の喉が、ひゅっと鳴ったわ。
「神子様は。 全部お見通しなのさ。 アンタが本当は何を隠してるか。 誰を裏切ったか。 ……エターナルパーフェクト教団に、入信する準備はできてるか?」
瑞稀の震えが、ぴたりと止まった。 まるで合図を待っていたかのように。
「共に、契りを交わせ。 お前は才能があるぜ」
ひとみは手を差し出した。
「一緒に、神子様の御許へ行こうじゃねェか」
「……ひとみ。 狂っているね?」
「ハア? お前に言われたくネェよ、サイコパス」
でも、瑞稀は不満そうよ。 そんな彼女に、ひとみはこう言った。
「倉石瑞稀。 テメェには、櫻井美羽と絆を深めてもらう」
「……美羽に、何をするつもり? 吉澤ひとみさん」
警戒心を露わに、ひとみを睨みつける瑞稀。 名前の呼び方も他人行儀になったわ。
「なに。 希望を見せてやるのさ! ……そして、絶望の底へ突き落とす。 一度、つかんだ希望が絶望に変わった時、それがエネルギーに変わり、儀式が完成する……」
「私や美羽にいいことないじゃん! そんなの従う訳……」
「……実はな。 これは、美羽のためなんだ……」
「え? それはどう言う意味?」
まさかのひとみの発言に、瑞稀の目の色が変わった。
そして、瑞稀は美羽のために、美羽を堕とすことに決めたのよ。




