ボコボコにされるのも計画の内? ーーことね視点
その後、カフェを出て河川敷のベンチに三人並んで座って延長戦ね。
もうすでに、夕日が川面に溶けて、世界が茜色に染まっている時間だわ。
「ねえ美羽。 どうしてお嬢様口調隠してたの?」
「……それは」
瑞稀が美羽に問いかけたわ。 ひとみは、ハラハラしながら見ているわね。
「……前の学校で、いじめられていましたの。 お嬢様口調が、生意気だって……」
美羽は、当時を思い出して辛そうね。
「……だから、転校を機に、やめようとしましたの。 『わ』とか『の』とか『パパ、ママ』とか……」
「その、いじめてた人たち。 どんな子だった?」
瑞稀の声が、ふいに低くなる。 何か心当たりがあるようね?
「女子三人組ですわ。 名前は……」
美羽が名前を答えた時、瑞稀とひとみは驚いたの。
「……そっか。 そうか、そうなのか……」
瑞稀は川面を見つめたまま、動かない。 動かないのに、何かが内側で動いている。 瞳の奥が、ぐにゃりと歪むように笑っていたわ。
「奇遇だね〜 私もそいつらにいじめられていたんだ〜」
瑞稀の手が、トートバッグの中をまさぐる。 その手には藁で編まれた、人型のものが三体。 胸のあたりに赤い糸で名前が縫い込まれているのが、夕日でちらりと見えたわ。
「……ふふ。 美羽、一緒にアイツらに呪いをかけよう……」
「……瑞稀。 駄目ですわ。 そんなこと無意味ですの! ……私はこれからもずっと、苦しみ続けるのだわ!」
「……あ、そう。 残念だなぁ〜 残念だなぁ……」
夕日が橋の向こうに沈もうとしていたわ。 藁人形を抱きしめる瑞稀の姿は、怖くてひとみは口を挟むこともできないでいたの。
「……欲しくなったら、いつでも言ってね……」
瑞稀の笑顔が、ひとみにとって今日見た中で一番怖かったから。
◇◇◇
そこで、ひとみが取った作戦は、その三人組に謝罪を求めることだった。
ーー結果は惨敗。 彼女たちは謝るどころか、瑞稀や美羽のことなんて忘れていたわ。 まあ、そんなもんよね。
次の日の夕方。 ひとみの家に瑞稀と美羽がやって来たわ。
今日、休んだひとみを心配したのね。
挨拶を交わした後、瑞稀が伊達メガネをクイっとしながら、ひとみの体を食い入るように見ていたわ。 ひとみは猫被りをやめて、瑞稀に問いかけたわ。
「オイ。 なんだよ……じろじろみやがって……」
「……なるほどね。 それが、はわわ……いや、ひとみの本性なんだね!」
「とってもいいと思いますわよ! かわいいですわ!」
「……ところでさ、なんでそんなに怪我しているの? 喧嘩でもした?」
尚も勘繰ってくる瑞稀たちに、我慢の限界がきたのね。 ひとみは強引に話を進めたわ。
「伊達メガネ! 生徒会長に復帰したいんだよな?」
「伊達メガネ?! ……なんでわかったの?」
「そんなん、どうでもいいんだよ!」
「……復帰したいです。 私の居場所だから……」
瑞稀は考え込んだ後、呟くように答えたわ。
その問いに満足したひとみは、次に美羽の方を向いたの。
「オイ! お嬢様! テメェは、食うだけか?」
「?! ……なんのことかわかりませんの」
「オメェが本気出せば、アイツら終わりだろ!」
「……」
強情な美羽に痺れを切らしたひとみは、自らのカードを切ったの。
「チッ。 ……痛いな〜 アイツらにやられたぜ!」
「ひとみ! その怪我は、そうだったんですの……」
こうして、二人の精神を誘導したひとみ。 彼女はこれから、どうするつもりなのかしらね?




